【2022年】歌舞伎役者ランキングを前年の出演データから分析!
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令和四年(2022年)に活躍が予想される歌舞伎役者ランキングを、前年(2021年)の出演実績に基づいて分析してみました。
コロナ禍で公演数が激減した2020年とちがって、2021年は公演数や出演する役者の数も大幅に増えたせいかランキングにも変化が出ています。ここでは“歌舞伎”での舞台出演の多さと演じた役の大きさを考慮してポイントを算出してランキングにしています。
2021年に活躍した歌舞伎役者を参考に、2022年はどの役者が活躍するのかにぜひ注目してくださいね。
目 次
令和三年(2021年)最も舞台で活躍した歌舞伎役者は?
2021年の歌舞伎界は前年に続いて新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、観客数の制限や大向うの禁止など、まだまだ本来の形での公演とはなっていませんでしたが、公演数は増えて出演する役者も多くなりました。
ここでは、それぞれの役者が2021年の歌舞伎の舞台に実際に立った回数と役の大きさなどからポイントを算出し、50ポイント以上を獲得した上位25人を紹介します。
基本的なポイントの数え方は、一つの公演に出演したら公演日数(休演日込)の長さに応じて1〜4P(ポイント)で、その演目で主役や重要な役を務めたらプラス1〜3P。歌舞伎座での出演にはさらにプラス1Pなど、少しややこしくなりますが以下の表のように細かく設定しました。
公演日数 (基本ポイント) |
21日以上:4 14日以上:3 7日以上:2 7日未満:1 |
一部の2つの演目出演 | 2つ目の出演は基本ポイント1 |
ABプロ・上下出演 | 基本ポイント1/2 |
主演や重要な役 | プラス3〜1 |
歌舞伎座での出演 | プラス1 |
通し狂言への出演 | プラス1 |
演目1・於染久松色読販、役・土手のお六
出演4+主演3+歌舞伎座1=8
演目2・神田祭、役・芸者
出演1+役2=3
合計:11
【集計の対象にした主な公演】
- 歌舞伎座
- 国立劇場
- 新橋演舞場
- 大阪松竹座
- 京都南座
- 博多座
- 御園座
- 市川海老蔵特別公演
- 中村勘九郎・七之助 特別公演
- 超歌舞伎
- 尾上松也自主公演「挑む」
- 古典への招待
- 明治座
- 春秋座
- 赤坂大歌舞伎
- その他
日程が短く出演者が少ない場合などは1日を1演目と計算するなど、管理人の主観による判断となっています。あくまでも当サイトでのランキング判断基準であることをお断りしておきます。
令和三年(2021年)歌舞伎の舞台出演ランキング
それでは、上記の内容でポイントを集計したランキングを御覧ください!
2021年歌舞伎出演ランキング | |||
---|---|---|---|
順位 | 前回 | 名跡 | ポイント |
1 | 10 | 坂東玉三郎 | 103 |
2 | 1 | 松本幸四郎 | 80 |
2 | 2 | 中村勘九郎 | 80 |
4 | 3 | 市川猿之助 | 76 |
5 | 7 | 中村七之助 | 74 |
6 | 38 | 尾上松緑 | 72 |
7 | 13 | 片岡仁左衛門 | 70 |
8 | 6 | 市川海老蔵 | 68.5 |
9 | 4 | 中村芝翫 | 67 |
10 | 22 | 尾上菊之助 | 66 |
11 | 22 | 中村米吉 | 63.5 |
12 | 55 | 中村福之助 | 63 |
13 | 38 | 中村歌昇 | 61 |
14 | 25 | 中村壱太郎 | 60.5 |
15 | 20 | 中村隼人 | 60 |
16 | 16 | 中村児太郎 | 59 |
17 | 22 | 中村扇雀 | 55 |
17 | 22 | 中村種之助 | 55 |
17 | 31 | 中村鴈治郎 | 55 |
20 | 38 | 中村時蔵 | 52 |
20 | 72 | 中村歌之助 | 52 |
22 | 10 | 中村梅玉 | 51 |
23 | 45 | 大谷廣太郎 | 50 |
23 | 48 | 中村梅枝 | 50 |
2021年の歌舞伎出演ランキングは上記のようになりましたが、いかがでしょうか?
1位に輝いたのは現在最高の女形・坂東玉三郎です。2020年は新型コロナウイルスの影響で玉三郎の舞台も休演が相次ぎましたが、2021年は歌舞伎座で6公演、坂東玉三郎特別公演が4公演、そしてそのいずれの舞台でも主役級の大役をこなすという、まさに2021年にもっとも舞台で活躍した役者でした。
2〜5位には前回も上位に入っていた、松本幸四郎、中村勘九郎、市川猿之助、中村七之助です。幸四郎は歌舞伎座だけでなく京都南座や大阪松竹座にも出演し、勘九郎・七之助は中村屋得意の地方巡業が復活、猿之助は歌舞伎座で9公演ともっとも多く出演しており、四人とも大役を任されています。テレビなどのメディア出演も多く、まさに現在の歌舞伎人気を牽引する立役者たちと言えますね。
6位は前回の38位から大幅にジャンプアップして尾上松緑が入りました。2020年はコロナ禍もあって歌舞伎座での出演は2公演に留まりましたが、2021年は8公演に出演し主演も多かったことが要因のようです。
7位の片岡仁左衛門は、坂東玉三郎との「桜姫東文章」や「四谷怪談」での数十年ぶりの共演が話題になりました。
8位の市川海老蔵は自主公演などで多くの舞台に立っていますが、歌舞伎座での出演は7月の一度だけ、しかもオリンピックの開会式出演のため公演期間も短くなったことなどでこの順位に止どまっています。
9位の中村芝翫は重厚な立役としてだけでなく、「身替座禅」の玉の井や「お江戸みやげ」のお辻などの女形にも挑戦し、新境地を開いた一年でした。
10位は尾上菊之助です。やや舞台が少なかった感じもしますが、「身替座禅」の山陰右京や「時今也桔梗旗揚」の光秀など、立役での芸域を広げています。
11位以下は、中村米吉、中村福之助、中村歌昇、中村壱太郎、中村隼人、中村児太郎、中村種之助、大谷廣太郎と期待の若手が続きますが、坂田藤十郎追善公演を行った中村扇雀と中村鴈治郎兄弟や、六代目中村歌右衛門二十年祭での中村梅玉などベテランの顔も見えます。
中村時蔵も息子・中村梅枝とともに貴重な女形として活躍し、孫の小川大晴くんの初御目見得も行われるなど存在感を示した一年だったようですね。
令和四年(2022年)期待の歌舞伎役者は?
2021年の歌舞伎の舞台出演ランキングを踏まえて、2022年にも活躍が期待される歌舞伎役者を紹介していきます。
坂東玉三郎 〜衰えを知らない至高の女形〜
2021年もっとも活躍したと言えるのが、歌舞伎座で6公演、自身の名を冠した4公演すべてに主演した坂東玉三郎です。
中でも、片岡仁左衛門とのコンビで30年以上の時を経て上演された「桜姫東文章」や「東海道四谷怪談」は、もう見られないと思われた奇跡の再演として後々も語り継がれる名舞台となりました。
コロナ禍での公演にも関わらず観劇に訪れるファンや、舞台裏で支えてくれる裏方さんたちへの感謝を決して忘れることなく、常に最高の舞台を見せ続ける姿勢はただただ素晴らしいと言う他ありません。
自身のブログでは2022年も変わらず舞台に立ち続けるとコメントしています。まだまだ現役に意欲的な人間国宝・坂東玉三郎が、2022年はどんな舞台でファンを魅了するのか大いに期待されますね。
松本幸四郎 〜父と叔父の芸を受け継ぐ〜
2021年の松本幸四郎は、テレビなどのメディアだけでなく本来の歌舞伎の舞台でも大いに活躍しました。
歌舞伎座で6公演、博多座、大阪松竹座、京都南座でそれぞれ1公演に出演し、6月には昨年リモートで行われた舞踊公演「夢追う子」に実際の舞台で出演しました。
1月歌舞伎座での「車引」では、父・松本白鸚と息子・市川染五郎と共に松王丸、梅王丸、桜丸を勤め、4月の「勧進帳」では白鸚と日替りで弁慶を演じるなど、松本幸四郎家の芸は着実に受け継がれているようですが、叔父の中村吉右衛門が亡くなったこともあり、2022年は立役としていっそうの飛躍が求められるのではないでしょうか。
中村勘九郎・七之助 〜巡業あっての中村屋〜
2021年の中村屋の勘九郎・七之助兄弟は、毎年恒例だった中村屋の巡業が復活し、コクーン歌舞伎や赤坂大歌舞伎など、父・中村勘三郎から受け継いだ舞台で躍動しました。
2月の歌舞伎座「奥州安達原」では勘九郎が安倍貞任、七之助が袖萩という、立役・女形とも貫禄が必要な役を見事に演じ、9月の「お江戸みやげ」では勘九郎が女形のおゆう、七之助が立役の阪東栄紫を演じるなど、それぞれ芸の幅を見せています。
また、2月歌舞伎座では勘九郎の長男・勘太郎が9歳の若さで父と「連獅子」を踊り、5月のコクーン歌舞伎での「夏祭浪花鑑」は中村屋ファミリーの結束力を見せつけました。
2022年の歌舞伎座「壽 初春大歌舞伎」では一年の最初の演目である「一條大蔵譚」から勘九郎、七之助ともに出演し、新年も中村屋が歌舞伎界を牽引していくことを予感させますね。
市川猿之助 〜今や歌舞伎座の顔〜
2021年の市川猿之助は、猿翁十種や三代猿之助四十八撰などのお家芸や早替り、そして自身が演出も担当した「日蓮」など、歌舞伎座の9公演に出演し、まさに歌舞伎座の顔と言っていいほどの活躍でした。
ほぼ毎月のように公演で主役をこなしながらも、相変わらずテレビ出演も引っ張りだこで、歌舞伎の知名度を高めるために最も貢献している役者と言えるのではないでしょうか。
新年最初の歌舞伎座「義経千本桜・四の切」では、コロナ禍で中止されてきた客席の上の「宙乗り」を復活させ、歌舞伎の復活を大きく印象付ける活躍を見せます。
今年も猿之助がどんな驚きの舞台を見せてくれるのか目が離せません。
尾上松緑 〜紀尾井町夜話の名席亭〜
2020年の尾上松緑は歌舞伎座出演は2公演だけでしたが、2021年は8公演に出演し、不気味な「土蜘」から滑稽な「太刀盗人」の九郎兵衛など、本来得意とする骨太な立役以外にも多彩な役を演じました。
2021年1月の国立劇場「四天王御江戸鏑」でも重要な役を演じており、菊五郎劇団にはなくてはならない人材となっているようです。
また、松緑が席亭(主催者)を勤める有料ストリーミング配信の「歌舞伎町夜話」は、出演した多くの役者が普段見えない素顔を見せたり、裏方さんたちの本音が聞けたりと好評なようで、2020年6月の第一回から回数を重ね、すでに60回を超えて続いています。これもひとえに松緑の人徳の為せる技でしょうか。
長男・尾上左近の成長も著しく、父・松緑と舞台で共演することも増えてきそうです。
2022年は紀尾井町夜話だけではない尾上松緑の歌舞伎舞台が楽しみです。
片岡仁左衛門 〜年齢を感じさせぬ若々しさは健在〜
2021年の片岡仁左衛門は歌舞伎座で6公演、大阪松竹座と京都南座で1公演に出演し、充実した演技と年齢を感じさせない若々しさで歌舞伎ファンを魅了しました。
特に坂東玉三郎とのコンビで30数年ぶりに演じた「桜姫東文章」や「四谷怪談」は、往年の孝玉コンビが年を経てさらに磨きがかかっていることを証明しています。
一昨年は坂田藤十郎、昨年は仁左衛門の兄・片岡秀太郎に中村吉右衛門と相次いで歌舞伎界の人間国宝が鬼籍に入りました。
現在の歌舞伎の舞台を支える立役の柱としてだけでなく、若き歌舞伎役者のお手本としても仁左衛門という役者の重みはいっそう大きくなっています。
市川海老蔵 〜團十郎襲名はいつに?〜
2021年の市川海老蔵は、自主公演「古典への誘い」や、新たな環境問題への取り組みの「アース&ヒューマン」など各地で精力的に舞台をこなすだけでなく、Youtubeチャンネルやブログなど様々なSNSを駆使して頻繁に情報を発信し、東京オリンピックの開会式にはお家芸である歌舞伎十八番の「暫」で登場し世界中を驚かせました。
ところが、歌舞伎座での出演は7月だけ、それもオリンピックの開会式に出るために海老蔵の出演する第三部は公演日数を短くしての開催となってしまい、2020年から延期されたままの「市川團十郎白猿襲名披露公演」も、今のところ開催の目処は立っていません。
「歌舞伎界の宗家」とも言われる市川團十郎家の後継者としては2021年も不本意な一年だったのではないでしょうか。
しかし、長女の市川ぼたんが1月の新橋演舞場で「藤娘」を披露したり、長男の勸玄くんも姉に負けじと舞台に立つなど成長著しいものがあります。海老蔵本人も子供たちと共に新作歌舞伎「プペル」で2022年のスタートを切るなど、新たな挑戦を続けています。
2022年こそ当代随一の人気役者・市川海老蔵が歌舞伎座の舞台に立つ姿を少しでも多く見たいものですね。
中村芝翫 〜重厚な立役として期待〜
2021年の中村芝翫は歌舞伎座で7公演、京都南座と国立劇場でそれぞれ1公演に出演しました。「一谷嫩軍記」の熊谷次郎直実や、「御摂勧進帳」の弁慶など重厚な立役を演じていますが、それだけでなく「身替座禅」の玉ノ井や「お江戸みやげ」のお辻など女形としても出演し、先代の七代目中村芝翫を彷彿とさせる活躍を見せました。
近年は重厚な時代物の立役を演じてきた役者も高齢になってきており、その代表格とも言える中村吉右衛門も亡くなりました。2022年に57歳になる芝翫の立役としての存在感はますます高まってくるでしょう。
三人の息子たち(橋之助、福之助、歌之助)もさらに成長しており、中村芝翫と成駒屋の2022年も大いに期待できそうですね。
尾上菊之助 〜名門を受け継ぐ覚悟〜
2021年の尾上菊之助は、歌舞伎座4公演、国立劇場2公演、博多座1公演などに出演しました。「与話情浮名横櫛」の与三郎や「身替座禅」の山陰右京など、祖父・尾上梅幸や父・菊五郎ゆかりの役を演じ、菊五郎劇団の後継者としての地位を着々と固めているように見えます。
岳父(妻の父)の中村吉右衛門が亡くなったことは菊之助にとっても大きな悲しみでしたが、吉右衛門に最後に教えを受けた「時今也桔梗旗揚」の光秀役など、立役としての可能性をさらに広げています。
2022年は国立劇場での菊五郎劇団の公演「南総里見八犬伝」が舞台初めになります。大きな悲しみを乗り越えた菊之助の舞台に注目です。
令和三年(2021年)の歌舞伎重大ニュースは?
2021年の歌舞伎に関するもっとも大きなニュースといえば、中村吉右衛門と片岡秀太郎という二人の人間国宝が亡くなったことでしょうか。
特に中村吉右衛門は3月の歌舞伎座公演中に倒れてから長らく療養中と伝えられていたので、12月に訃報が伝えられたときは歌舞伎ファンのみならず多くの人が驚きと悲しみに包まれました。
嬉しいニュースとしては、10月に尾上菊五郎が文化の発達に関し特に優れた功績を納めた個人に授与される文化勲章を受賞しました。菊五郎は受賞の喜びを「オリンピックの年に、歌舞伎界が金メダルをいただいたような気持ち」と表現しています。
その「オリンピック」の開会式では日本の様々な文化が披露されましたが、歌舞伎からは市川海老蔵が歌舞伎十八番「暫」の鎌倉権五郎の姿で登場し、その異様な迫力で世界中を驚嘆させています。
また、2013年に脳出血で倒れてから復帰に向けてリハビリを続けてきた中村福助が、2018年9月以来の歌舞伎座の舞台「お江戸みやげ」に出演しました。舞台に復帰して以来もっとも多くのセリフを話し、一人で歩いて舞台から出ていく姿に客席からは大きな拍手が贈られています。
コロナ禍で観客数を半分に制限していた歌舞伎の公演も徐々に観客数を増やしていますが、依然として大向うは禁止されるなど以前と同じ公演とは言えません。
令和四年(2022年)の歌舞伎には、もっと明るいニュースが増えてくれることを心から願いたいものですね。
まとめ:2022年も歌舞伎を応援しよう
令和三年(2021年)に歌舞伎の舞台で活躍したのは、坂東玉三郎を筆頭に松本幸四郎、中村勘九郎、市川猿之助などですが、他にも多くの役者や裏方さんたちの努力で依然として続くコロナ禍を乗り越えてきました。
中村吉右衛門や片岡秀太郎といった偉大な役者が鬼籍に入るということもありましたが、その分若い役者が歌舞伎の伝統を受け継いで、どんな苦境も乗り越えられる新たな歌舞伎界を作っていってほしいものです。
みなさんも歌舞伎を愛するファンの一人として、ぜひ歌舞伎の舞台に足を運んでみてくださいね。