歌舞伎の隈取の種類と意味をイラストで紹介!メイクのやり方も解説
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歌舞伎役者が顔に大きく赤いラインを入れた隈取(くまどり)メイクは、歌舞伎独特の化粧法であり大きな特徴の一つです。でも隈取にはどういう意味があるのか、よく知らない人も多いのではないでしょうか。
ここでは歌舞伎役者がどうして派手な隈取をするのか、隈取にはどんな意味があるのか、どうすればあんな隈取メイクができるのかなどを、初めて見る人にもわかりやすく解説します。
最近では松本幸四郎監修の「歌舞伎フェイスパック」が、女優の水川あさみや、田村淳など芸能人のSNSでも紹介され、ちょっとした話題になりました。松本幸四郎による歌舞伎メイクの動画も紹介します。
目 次
歌舞伎の派手な隈取は顔をはっきり見せるため
歌舞伎は江戸時代に始まりましたが、当時の芝居小屋は電気の照明がなく薄暗いので、役者の表情がわかりにくいという問題がありました。そこで少しでも役者の表情がわかりやすいように、白塗りの顔に派手な隈取模様をとるようになったと言われています。
隈取は役柄やその芝居での立場も表しており、役者の顔を見れば「いい人」か「悪い人」なのか、だいたいわかるようになっています。また、歌舞伎の隈取は歌舞伎役者自身が自分ですることになっているので、同じ役でも演じる役者によって隈取にも微妙な違いが出るものです。
歌舞伎の隈取の種類とその意味
隈取の色や模様の種類にはそれぞれ意味があり、色の違いはだいたい次のように分けることができます。
赤色は正義と勇気のスーパーヒーロー
赤や紅色系の隈取は主に善を象徴する明るいキャラクターで、正義の味方を表すことが多い色です。隈取の種類は100種類あるとも言われますが、大半はこの赤(紅)系の色になります。
隈取の線の数が多くなることで、そのキャラクターの力強さを表します。
青色は邪悪で非道な悪人キャラ
青や藍色系の色の隈取は、不気味さや冷酷さを表現し、スケールの大きな悪人や敵方、恨みを抱く亡霊などの役で使われます。牢獄に閉じ込められた人物の頬がこけている様子や、嫉妬に狂った女性などを表すこともあります。
茶色は魔物や妖怪変化
茶色系(代赭)の隈取は、人間以外の妖怪变化や鬼、亡霊などの不気味な役で使われますが、その数はかなり少なく珍しい隈取です。代赭とはやや明るい茶色のことで、茶墨を使って描かれています。
代表的な隈取の役をイラストで紹介
歌舞伎の隈取の種類は100種類とも言われるほどたくさんありますが、その中でも代表的なものをいくつか紹介します。
むきみ隈
この隈取は若いイケメンで強い色気がある役や、恋人がいる設定で男女の絡みも多い人気のある役で使われます。隈の描き方は、目頭と目尻からそれぞれ眉頭と眉尻に向かう縦の隈が取られています。
例えば同じ「曾我五郎」という人物でも、「助六由縁江戸桜」の助六(曾我五郎)では色気があるように細い隈を取りますが、「寿曾我対面」の曾我五郎では荒々しさを表現するために力強い隈を取ります。
一本隈
目尻の横、ほおにかけて赤で一本の隈を取るのが「一本隈」です。頼れる力強さを持ちながらもやんちゃな性格の役に使われます。
「菅原伝授手習鑑」の「賀の祝」の梅王丸や、「国性爺合戦」の和藤内などが有名です。
二本隈
目頭から下まぶたと眉毛にそって二本の隈をとるのが「二本隈」です。落ち着いた感じで内に秘めた強さを感じさせる隈取です。
「菅原伝授手習鑑」の「車引」の松王丸や、「鳴神」の鳴神上人などがあります。
筋隈(すじぐま)
荒事と呼ばれる荒々しく豪快な演技の代表的な隈取で、力強さや激しい怒りを表す隈取です。鼻筋、額、顔の両側に紅で隈を取り、あごも三角に赤く塗っていきます。口角には墨を入れて、眉毛は外に跳ねるように黒く塗ります。
超人的な強さを発揮する正義の味方に使われます。「暫」の鎌倉権五郎や「矢の根」の曾我五郎が有名です。
一本隈から怒りで筋隈に変わる「国性爺合戦」の和藤内のようなパターンもあります。
公家荒れ(くげあれ)
天下を狙うような大悪人の隈取です。青い色と相まって不気味さが際立ちます。眉ははっきりと濃く描き、あごにはわらびのように丸くなった隈を取ります。額の隈は外側に指でぼかし、顔の両横の隈は内側に向けて、頬の隈は下側にぼかすようにするなど、不気味さを表すために工夫が凝らされています。
「菅原伝授手習鑑」の藤原時平や「暫」の清原武衡が有名です。
变化隈(へんげぐま)
人間から不気味な妖怪や鬼に変身するとこの隈取になります。口が大きく裂けていたり、角が生えているように表現されます。
「土蜘」の土蜘や「茨木」の鬼などが有名です。
戯隈(ざれぐま)
赤い隈取でも動物や植物をもとにした隈取は、「戯隈」と呼ばれ、面白い道化役で、三枚目のユーモラスな敵役に使われます。猿やナマズ、コウモリ、蟹、朝顔などがあります。
「寿曽我対面」の朝比奈は猿、「助六由縁江戸桜」の朝顔仙平は朝顔を表した隈取です。
隈取の前に顔の色も重要
歌舞伎役者は隈取の前に顔に白粉(おしろい)を塗っています。顔の地色は白や赤だけでなく肌色もあり、どんな役でも基本的に顔は塗っています。顔の地色によってもその役のキャラが分類できるようになっており、隈取と合わせるとその役がさらに深く理解できます。
白い顔は恋愛系
一番目立つ真っ白なおしろいを塗った顔は高貴な身分か恋愛系の顔といえます。ただし極端な白塗りは道化役や極悪人で使われるものです。
赤い顔は元気系
赤い地色のキャラクターには敵役が多く、力強くワイルドさを表します。特に「赤っ面」という顔の色は特徴的なインパクトのある敵役に使われます。
肌色は大人の顔
肌色の役もちゃんと顔は塗っています。比較的常識的ないい大人の役が多いようです。「勧進帳」の弁慶や「仮名手本忠臣蔵」の大星由良之助などがあります。
歌舞伎の隈取メイクはこうやってできる
歌舞伎役者は基本的に自分でメイクをしているので、役者の個性で違いが出るのも歌舞伎ならではです。ここでは基本的な隈取メイクのやり方を解説します。
隈取メイクに必要な道具
隈取のメイクには次のような道具が使われています。
- 白粉(おしろい)
- 砥の粉(とのこ)
- 紅
- ドーラン
- 青黛(せいたい)
- 茶墨
- 鬢付油(びんつけあぶら)
- 紅筆、眉筆
- 刷毛(はけ)
また、極端に強調された眉毛やひげなどの場合、メイクで描くだけでなく付け眉毛や付けひげなどが使われます。
隈取のメイクのやり方
隈取は顔の表情を大げさに表現するものですが、役者一人ひとりの顔はちがうので、それぞれの役者が自分にあった隈取メイクを考えなければなりません。
だから隈取メイクをするためには、自分の顔を手でよく触って、筋肉の付き方や骨組みをしっかり把握して、自分の顔をよく知らなければならないと、昔から言われているそうです。
ここでは基本的な隈取のやり方を紹介します。
- かつらを付けるので頭に羽二重と呼ばれる布を巻き、下地になる鬢付油を顔全体に塗ります。
- おしろいを顔全体にむらなく塗ります。スポンジを使って叩くように伸ばしたりします。
- 化粧用の筆に紅を付けて顔の真ん中から隈取をしていきます。指でこすってぼかしたりもします。
- 指に油紅をつけて口の形をつくっていきます。
- 眉や目の周りを油墨をけた筆で描いていき、仕上げに指でぼかしていきます。
- かつらを付ければできあがりです。
隈取メイクの落とし方
歌舞伎では役者によっては、一日に違う役を何度も演じることがあります。そういうときは素早くメイクを落として次のメイクをしなければなりません。
メイク落としはクレンジングクリームを使ってしっかり落とすのが基本ですが、一日にこれを何度もやるのは肌にとってあまりいいことではありません。でも顔の下地として鬢付油を塗っているので、肌が守られて肌荒れを防いでいるのだそうです。
また、歌舞伎役者はそれぞれお気に入りの化粧道具やメイク落としを持っています。芸に対するこだわりがあるように、メイクの方法や道具にもこだわりがあるようですね。
歌舞伎役者・松本幸四郎のメイク動画
現在、歌舞伎の第一線で活躍する歌舞伎役者・松本幸四郎の化粧の動画を紹介します。化粧の仕方や隈取のとり方、最後に化粧を落とす様子も、実際に化粧をしながらとてもわかりやすく解説されていますよ。
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歌舞伎フェイスパック KABUKI FACE PACK
まとめ
歌舞伎の隈取メイクの意味や種類について解説してきました。隈取はその色や種類によって様々な役の個性を表しており、ひと目で芝居での立場がわかるように工夫されています。
白地に赤い隈取は主人公で正義の味方。
青い隈取は悪人の不気味な雰囲気。
赤い顔は荒々しい敵役。
茶色は人間でない妖怪や化け物。
といったふうに、隈取の意味をわかってみると、役の立場がわかりやすくなって芝居の内容もわかりやすくなります。また、隈取メイクの道具ややり方にも役者それぞれの個性があるので、その違いを発見するのもまた一つの楽しみですね。
実際に歌舞伎の隈取をしてみたい人は、松本幸四郎が化粧や隈取をする動画を参考にしてみてはいかがでしょうか?
実際に化粧までやらなくてもフェイスパックで簡単に隈取を体験できるので、興味がある人は一度試してみてくださいね。