歌舞伎の名台詞9選!どこかで聞いたことのある歌舞伎の名言を紹介
歌舞伎のセリフには思わず言ってみたくなるような、かっこいいセリフや名言がたくさんあるのはご存知ですか?
あまり歌舞伎のことを知らなくても、どこかで聞いたことのある有名なセリフや名言を集めてみました。
歌舞伎のセリフは昔の言葉遣いが多いので、よく聞き取れなかったり意味がわからないこともありますが、有名なセリフだけでも知っておくと、けっこう楽しめるものですよ。
目 次
歌舞伎にはかっこいい台詞回しがたくさんある
歌舞伎ではいい役者の条件として、「声」すなわち「セリフ回し」がとても重要だと言われています。
かっこよくポーズを決めて言うセリフは、見ている人の心にずしりと響くものもあれば、思わずクスっと笑ってしまうものもあります。
そんな歌舞伎ファンならぜひ知っておきたい名セリフを、現代での使い方も合わせて以下に紹介します。
また、歌舞伎のセリフの中でも特徴的な言い方を、以下に簡単に説明します。
つらね |
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「名のり」「言い立て」とも言われる。美文調のまとまった長いセリフをとうとうと朗唱するように述べること。 |
渡りぜりふ |
一列に並んで順々にセリフを言うもの。「白浪五人男」の稲瀬川の場面が有名。 |
割りぜりふ |
二人以上の人物が自分の心境を一節ずつ交互にしゃべり、最後は同じセリフで終わるもの。「十六夜清心」など。 |
鸚鵡(おうむ) |
同じセリフをオウム返しに繰り返すこと。道化役が観客を笑わせるためにやることが多い。 |
歌舞伎の名セリフ・名言9選
歌舞伎の名セリフはたくさんあるので、ここでは歌舞伎の世界で名言と呼ばれる8つのセリフをご紹介します。日常のちょっとしたときにさりげなく使うと、歌舞伎通っぽくなれますよ。
知らざあ言って聞かせやしょう
「白浪五人男」で娘に化けていた弁天小僧菊之助が鎌倉の呉服店「浜松屋」で、正体が男だとバレたときの有名なセリフ。
それまでいいところのお嬢さんだったのが、突然豹変して言葉遣いもがらっと変わるのがとても印象的で、その後に続くセリフも
のリズムが美しく、聞いていて惚れ惚れするようなセリフ回しです。後の場面「稲瀬川勢揃いの場」で出てくる5人の盗賊が、それぞれの自己紹介をする「つらね」と呼ばれる名のりの場面も、歌舞伎の名セリフの場面として有名です。
人に何かを教えるときに、「知らざあ言って聞かせやしょう!」と一度使ってみたいセリフですね。
こいつぁ春から縁起がいいわぇ
「三人吉三巴白浪」(三人吉三廓初買)の「大川端の場」で、女装の盗賊お嬢吉三が、通りがかった娘から百両を奪って川に突き落とした後に言うセリフの最後の部分です。
金を奪って殺しておいて「縁起がいい」というのはどうかと思いますが、このセリフも七五調のリズムが耳に心地よい名セリフとして人気があります。また、「厄払い」と呼ばれるこのセリフには、当時の節分での厄払いの風習が散りばめられていて、現代では忘れられた江戸時代の様子が伺えます。
今では正月や春先にセールのチラシなどで、「こいつぁ春から縁起がいいわぇ」と使われたりすることもありますが、何かいいことがあったときにぜひ使ってみたいセリフですね。
問われて名乗るもおこがましいが
「白浪五人男」の「稲瀬川勢揃いの場」で、5人の盗賊が「つらね」で名のりをあげるときの最初に、リーダーの日本駄右衛門が語る有名なセリフです。
これも七五調の美しいセリフ廻しが使われており、桜が咲き乱れる土手をバックに、5人が次々と名のりを上げる様子は壮観です。
今でも子どもたちに人気がある、テレビの特撮ヒーロー戦隊の元祖「ゴレンジャー」の登場シーンと似ているとも言われる名場面ですが、それもそのはず、ゴレンジャーを作ったプロデューサーは、登場シーンを「白浪五人男」をもとに考案したそうです!
人に名前を聞かれたときに、「問われて名乗るもおこがましいが・・」と始めて自己紹介すると、とても印象に残ること請け合いです。
しがねえ恋の情が仇
「与話情浮名横櫛」(通称:切られ与三)の源氏店で、主役の与三郎が三年ぶりに再会したかつての恋人・お富に対して言うセリフです。
かつて、大店の若旦那だった与三郎と木更津の親分の妾だったお富は、お互いに一目惚れして逢瀬を楽しみますが、そのことが親分にバレて与三郎はめった切りにされ、お富は海に身を投げます。
二人とも九死に一生を得るのですが、お富は助けてくれた江戸の商家の妾となり、与三郎は全身の傷跡から「切られ与三」と呼ばれる強請り騙りのならず者に落ちぶれます。
このセリフは、死んだと思っていたお富が、愛し合った自分のことも忘れて他の男の妾として優雅に暮らしている姿に対して恨みつらみを吐いているのですが、落ちぶれても与三郎は若旦那の品格を醸し出し、掛詞と歌うような調子でいかにも色男という風情を残しています。
別れた彼女や奥さんのことを未練がましく思い出してしまったときに、ちょっと自虐をこめて「しがねえ恋の情が仇・・・」と哀愁を込めてつぶやいてみてはいかがでしょうか。
一生女郎に振られるということがねえ
助六由縁江戸桜で主人公の助六が言うセリフです。
助六は粋でいなせで喧嘩も強い色男、恋人の揚巻は吉原で一番の花魁という、いわば江戸っ子が理想とする究極の伊達男です。
芝居の中では他にも、喧嘩っぱやい助六ならではの、セリフが満載です。
女郎たちにもらった煙管を意休に見せびらかして、
「煙管の雨が降るようだ!」
通りがかった田舎侍に因縁をつけて、
「股ぁくぐれ!」
新兵衛に喧嘩のやり方を教える時に、
「鼻の穴に屋形船蹴こむぞ!」
ちょっと乱暴な言葉でも、助六が言うと聞いているだけでなんだかスカッとしてきます。
「一生女郎に振られるということがねえ」とは、芝居の中では他の女郎にもモテモテぶりを発揮する助六だからこそ言えるセリフですが、こういうセリフが言えるようなかっこいい男になりたいですね。
絶景かな、絶景かな
「楼門五三桐」で大泥棒・石川五右衛門が、京都の南禅寺山門で桜を眺めながら言うセリフです。
天下の大泥棒であり義賊とされ、豊臣政権の転覆を図って釜茹でにされたという逸話を持つ
石川五右衛門は歌舞伎にとっては格好の題材です。
このセリフが語られる楼門の場面は15分ほどしかありませんが、歌舞伎らしい雰囲気のある場面と、石川五右衛門というキャラクターの人気で、何度も繰り返し上演されています。
現代でも見事な風景を前に思わず、「絶景かな」という言葉が出ますが、女湯や着替えを覗いたときのセリフとして悪用されることもあるとか。
>>石川五右衛門の名セリフが聞ける「楼門五三桐」のあらすじはコチラ
せまじきものは宮仕えじゃなぁ
「菅原伝授手習鑑」の「寺子屋」での武部源蔵のセリフ、
「せまじきものは宮仕えじゃなぁ」
源蔵はかつて使えていた主君・菅丞相の子供・菅秀才を匿っていました。しかし、そのことが敵方の藤原時平にばれて、その首を差し出せと迫られた時に、「せまじきものは宮仕えじゃなあ」と嘆きます。
寺子屋をやっている源蔵は菅秀才をかばうために小太郎という別の子供を犠牲にしてその首を差し出すことにします。
そして藤原時平の命を受けて菅秀才の首実検(首が本物か確かめること)に来たのが、かつて菅丞相に恩義のあった松王丸でした。首を確かめた松王丸は、「菅秀才の首に間違いない」と言い切って帰りましたが、実は犠牲になった小太郎は松王丸の息子だったのです。
源蔵が救おうとしている菅秀才は、松王丸にとっても恩義のある菅丞相の子供だったため、身代わりとして犠牲にされることをわかっていながら、あえて源蔵の寺子屋に自分の息子・小太郎を行かせたのです。なんとも悲痛な忠義のお話ですが、歌舞伎の屈指の名作とされています。
現代では会社勤めのサラリーマンなどが、会社や組織の命令に逆らえないときに、「せまじきものは会社務め・・」などと、少しもじったセリフが出てくるようです。
雉子も啼かずば討たれまいに
「浮世柄比翼稲妻」の「鈴ヶ森」で、美少年の剣客・白井権八の台詞です。
人を殺して逃げている権八が刑場で有名な鈴ヶ森に差し掛かったとき、権八を捕らえて褒美をもらおうと待ち構えていた追い剥ぎ達に襲われます。しかし、権八は見事な剣さばきで次々と追い剥ぎたちを切り捨てていきます。
そこに現れたのが江戸の侠客として知られる幡随長兵衛です。長兵衛は権八に「お若えの、お待ちなせえやし」と声をかけます。
その長兵衛の呼びかけに答えて権八が言ったのが、前述の「雉子も啼かずば討たれまいに」という一節がある台詞です。無益な殺生を反省するというよりは、若者が自分の強さを得意がって言っているようですね。
この台詞は、「余計なことを言ったばかりに、自ら災いを招くこと」という、ことわざとしても使われています。
近頃面目次第もございません
最後は歌舞伎十八番の演目の一つ、「毛抜」の粂寺弾正が観客に向かって深々と頭を下げながら言うセリフ、「近頃面目次第もございません」
弾正は歌舞伎のキャラクターの中でもダントツにおもしろい存在です。
美しい若衆に言い寄っては振られたと思えば、こんどは腰元を口説こうとして足蹴にされるなど、道化のようなユニークな様子かと思えば、誰もわからなかった姫の謎の病の原因を突き止め、ついでに悪人も退治してしまうという、目覚ましい活躍ぶりを発揮します。
「近頃面目次第もございません」は弾正が若衆や腰元に言い寄って振られるたびに、はっと我に返って観客に向かって言うセリフですが、なんともお茶目で愛嬌があります。
女性に振られたときの失敗談を、面白おかしく言うのにいいかもしれませんね。
まとめ
歌舞伎の有名なセリフを8つ紹介してみましたが、いかがでしたでしょうか?
「知らざあ言って聞かせやしょう」
白浪五人男の弁天小僧菊之助
「こいつは春から縁起がいいわぇ」
三人吉三のお嬢吉三
「問われて名乗るもおこがましいが」
白浪五人男の日本駄右衛門
「しがねえ恋の情が仇」
切られ与三の与三郎
「一生女郎に振られることがねぇ」
助六由縁江戸桜の助六
「絶景かな、絶景かな」
楼門五三の石川五右衛門
「せまじきものは宮仕えじゃなぁ」
寺子屋の武部源蔵
「雉子も啼かずば討たれまいに」
鈴ヶ森の白井権八
「近頃面目次第もございません」
毛抜の粂寺弾正
どれも歌舞伎ならではのセリフですが、私たちの身近に使われることもあります。気に入ったセリフはぜひ覚えておいて、ここぞというときに使ってみてくださいね。