2026年3月25日

歌舞伎役者の素顔がわかる本【今は亡き名優編】

歌舞伎役者の素顔が分かる本【今は亡き名優編】

歌舞伎役者に関する本や論評は数多く出版されていますが、役者の本当の素顔を知りたいのなら役者本人が自分で書いた本を読むのが一番です。

ここでは、平成以降に惜しまれて亡くなった名優で、今もファンに語り継がれる歌舞伎役者の素顔や本音がわかる著作を紹介していきます。

十二代目 市川團十郎

十二代目 市川團十郎(屋号:成田屋)は、19歳の時に父である十一代目 團十郎が亡くなるという悲劇に見舞われます。歌舞伎役者としては「口跡(台詞回し)に難がある」と言われていましたが、持ち前の努力と忍耐で克服し、1985年には歌舞伎界の宗家と呼ばれる「市川團十郎」の名跡を38歳という若さで襲名しました。

しかし、2004年に白血病に侵されていることが判明し、その後10年におよぶ闘病生活の末に66歳で惜しまれて世を去ります。

息子は2022年に十三代目 市川團十郎を襲名し、新たな團十郎として活躍しています。

新版 歌舞伎十八番

市川團十郎家のお家芸である「歌舞伎十八番」の演目について、十二代目 團十郎本人による解説が読める貴重な一冊です。それぞれの演目のあらすじや背景の解説だけでなく、実際に十二代目が上演したときの様子や裏話なども読むことができます。

十二代目 團十郎は成田屋の家の芸である「歌舞伎十八番」を殊の外大事にしていましたが、この本はその十二代目の思いが詰まった一冊となっています。

團十郎復活

十二代目 團十郎が白血病に侵されてから6年あまりの闘病の記録ですが、妻や妹・市川紅梅などの家族とのふれあいの様子や、歌舞伎や日本の伝統文化についての深い洞察なども書かれており、十二代目 團十郎の人柄が忍ばれる一冊です。

息子(当時・海老蔵)が初めて小林麻央を家に連れてきたときには「こんなに緊張している倅を見たことがない」と思ったエピソードなども載っています。

ちなみに亡くなる直前までの壮絶な闘病の記録については、娘である三代目 市川ぼたん(現・市川 翠扇)の著書「ありがとう、お父さん」に詳細に描かれています。

十二代目市川團十郎 (演劇界ムック)

十二代目 團十郎の数々の舞台写真や、普段見られないプライベートでの貴重な写真なども掲載されています。七代目 尾上菊五郎や四代目 坂田藤十郎との対談なども載っており、歌舞伎役者・十二代目 市川團十郎の生涯を振り返るのに最適な一冊です。

十八代目 中村勘三郎

十八代目 中村勘三郎(屋号:中村屋)は、長らく途絶えていた「中村勘三郎」の名跡を復活させた十七代目 中村勘三郎の長男として生まれ、3歳で五代目 中村勘九郎を名乗り、49歳で十八代目 中村勘三郎を襲名します。

子役時代から天才と言われた演技と人懐っこい性格で人気があり、コクーン歌舞伎や平成中村座など、次々と新しい試みに挑戦する姿は歌舞伎以外でも多くのファンを惹きつけました。

人気絶頂の勘三郎でしたが、2013年に病気のため57歳という若さで惜しまれて世を去ります。

しかし、今でも勘三郎の精神は、中村勘九郎・七之助という二人の息子たちや中村屋ファミリーに脈々と受け継がれています。

勘九郎ひとりがたり

十八代目 中村勘三郎が長らく名乗っていた勘九郎時代の話を、歌舞伎だけでないプライベートな日常についても本人の語り口をそのまま読める、勘三郎ファンにとってはたまらない一冊となっています。

十八代目 中村勘三郎

こちらは勘三郎を襲名する少し前からの話が綴られている本になります。歌舞伎界以外にも多くの友人がいた勘三郎らしく、多くの芸能人や著名人の名前が登場します。襲名の御祝いとして、大竹しのぶ、唐沢寿明からのメッセージが寄せられ、特別対談にはビートたけしが登場します。

二人の息子・勘九郎と七之助が亡くなった父への思いを語る特別インタビューも収録されていますよ。

中村勘三郎写真集

十八代目 勘三郎によって始められた平成中村座は、ほぼ毎年公演を行っていましたが、勘三郎が亡くなった翌年は公演が行われませんでした。しかし、父の遺志を受け継いだ勘九郎・七之助の二人の息子達と、中村屋ファミリーによって2014年にニューヨークで復活します。

この写真集は2015年に浅草で行われた平成中村座を記念して発行されました。篠山紀信撮影による在りし日の勘三郎の貴重な舞台写真から、十八代目 勘三郎の熱い思いが伝わってきます。

二代目 中村吉右衛門

二代目 中村吉右衛門(屋号:播磨屋)は、1944年に初代 松本白鸚の次男として生まれ、後に実の祖父である初代 中村吉右衛門の養子となります。実兄の二代目 松本白鸚とともに少年時代から歌舞伎の舞台に立ち、重厚な立役として歌舞伎界を代表する存在として活躍しました。

テレビ時代劇「鬼平犯科帳」で主人公・長谷川平蔵を長年にわたり演じたことで広く知られ、2011年には人間国宝に認定されます。

2021年11月28日、惜しまれながら亡くなりましたが、その芸と人柄は多くのファンの記憶に深く刻まれています。

娘は尾上菊之助(現・八代目 菊五郎)に嫁ぎ、孫の丑之助(現・菊之助)と舞台で共演するなど、その芸は次の世代へと受け継がれています。

夢見鳥

江戸の文化の何がいいかといって、戦争のない時代にできたことではないでしょうか。そんな時代に熟成した文化である歌舞伎の香り、これを大切にしてほしい。
― 『夢見鳥』中村吉右衛門

幼少期からの歩みに始まり、初代 吉右衛門の養子としての苦労や、歌舞伎を日本の伝統芸能としていかにして世界に通じるものにしていくのかという真摯な思いなど、二代目 中村吉右衛門の歩みを赤裸々に語る自伝的エッセイ集です。

戦争を経験した世代ならではの視点から語られる「平和な時代にこそ成立する歌舞伎」への思いは、現代に生きる私たちにとっても深く心に響きます。

十代目 坂東三津五郎

十代目 坂東三津五郎(屋号:大和屋)は、1956年1月23日に坂東家に70数年ぶりとなる男の子として誕生し、1歳で初お目見えを果たすと、6歳で五代目 坂東八十助を襲名し、着々と歌舞伎役者として成長していきます。

特に十八代目 中村勘三郎とのコンビは有名で、『三社祭』『棒しばり』などで息のあった絶妙な演技を披露しました。

2013年に十代目 坂東三津五郎を襲名しますが、わずか二年後に60歳の若さで膵臓癌で亡くなります。

盟友の中村勘三郎とともに、早すぎる死は多くのファンに惜しまれました。

粋にいなせに三津五郎

50歳を間近に控えた十代目 坂東三津五郎によるエッセイ集です。子供時代の話から三津五郎の襲名時のハプニングに歌舞伎舞台の裏話などが満載の、“粋”な江戸っ子の風情を感じさせる文章に引き込まれる一冊です。

四代目 坂田藤十郎

四代目 坂田藤十郎(屋号:山城屋)は、上方歌舞伎の二代目 中村鴈治郎の長男として生まれ、三代目 中村雁治郎として数々の舞台で活躍します。

しかし、若いときから上方歌舞伎でもっとも格式が高いとされる「坂田藤十郎」という名跡に憧れを持ち続けており、2005年に坂田藤十郎の名跡を復活襲名します。

人間国宝に認定され俳優協会の会長を務めるなど歌舞伎界の発展に大きな功績を残しますが、2020年11月に88歳の生涯を閉じました。

息子は四代目 中村雁治郎、孫は中村壱太郎として現代の歌舞伎界の一線で活躍しています。

夢ー平成の藤十郎誕生

231年ぶりに復活した大名跡・四代目 坂田藤十郎の襲名への様々な思いや出来事が語られている一冊です。上方歌舞伎の復興だけではなく、歌舞伎が世界の平和に貢献できることが一番の願いと語る四代目藤十郎の思いがこもった一冊です。

坂田藤十郎 -歌舞伎の真髄を生きる-

この本では、四代目 藤十郎が歌舞伎役者である前に一人の人間として語りたいことを自らの人生を振り返りながら綴っています。「藤十郎になる」という大きな夢を実現した四代目が、次代を担う若い歌舞伎役者たちへ送るメッセージでもある一冊です。

七代目 中村芝翫

七代目 中村芝翫は女形の名門・成駒屋の跡取りとして生まれますが、父・五代目 中村福助と祖父・五代目 中村歌右衛門を早くに亡くした後は、六代目 尾上菊五郎のもとで歌舞伎役者としての修行を積みます。

昭和から平成にかけて名女形として活躍します。息子は九代目 中村福助と八代目 中村芝翫となり、次女・波野好江は十八代目 中村勘三郎に嫁ぎました。孫の6人の男の子も歌舞伎役者になるのを見届けながら、2011年に世を去りました。

福家族 -神谷町物語-

昭和から平成にかけて名女形として名を馳せた七代目 中村芝翫が自ら、歌舞伎の芸や家族のことについて初めて語った本です。中村芝翫がなぜ「神谷町」と呼ばれるのかや、少年時代の思い出、父のように慕う六代目 尾上菊五郎の教えなどをしみじみと語る人生ドラマです。

芝翫芸模様

歌舞伎女形の家系に生まれた七代目 中村芝翫が、わきめもふらず歌舞伎一筋に歩んできた人生を語った本です。『京鹿子娘道成寺』や『藤娘』などの当たり役など芝居についての思いを語り、ともに同じ時代を歩んだ名優たちとの舞台を通して、歌舞伎の芸の本質や昔と今の違いなどを明かしています。

六代目 中村歌右衛門

昭和の歌舞伎界に君臨し、「女帝」と称されるほどの存在感を持っていたのが六代目 中村歌右衛門(屋号:成駒屋)です。

女形としての頂点を極めるだけでなく、長らく日本俳優協会の会長職を務めるなど歌舞伎界に大きな足跡を残しました。

2001年3月31日に亡くなりますが、この日の東京は桜が咲く中に季節外れの雪が降り、歌右衛門の最期を飾るにふさわしいと話題になりました。

歌右衛門の六十年

昭和の歌舞伎界に“女帝”として君臨した名女形・六代目 中村歌右衛門。華麗で情艶な芸風によって当時の歌舞伎界を大きく発展させた功労者が、山川静夫氏を相手に、大正末期からの自己の歩みと歌舞伎界の歴史を語った内容です。父である五代目 歌右衛門や初代 中村吉右衛門などの名優達の実像や、戦後の復興に向けての様子などについても語られ、当時の歌舞伎にも率直な意見を述べている歴史的な記録です。

まとめ:今は亡き名優たちの言葉が今も心に響く

平成以降に亡くなった歌舞伎の名優たちの生の声が伝わる本を紹介してきましたが、いかがでしょうか?

六代目 中村歌右衛門四代目 坂田藤十郎のように、大きな足跡を残して天寿を全うした役者もいれば、これからという時に志半ばで病に倒れた十二代目 市川團十郎十八代目 中村勘三郎二代目 中村吉右衛門十代目 坂東三津五郎などの役者もいて、歌舞伎の世界にさまざまな人間ドラマがあったことがわかります。

また、七代目 中村芝翫のように多くの子や孫が歌舞伎の舞台で活躍している家もあれば、二代目 中村吉右衛門のように、その芸や精神が家を越えて多くの歌舞伎役者に影響を与え、受け継がれていこうとしている例もあります。彼らの残したものは、着実に現在の歌舞伎界へと受け継がれているのも興味深いところです。

先人たちがどんな思いで歌舞伎の舞台に立ち、何を後世に残そうとしていたのかを知ることで、歌舞伎の見方はさらに広がります。気になる一冊があれば、ぜひ手に取ってみてください。




参考資料

【書籍📚】
最新版 歌舞伎の解剖図鑑
役者がわかる!演目がわかる!歌舞伎入門
ふれてみよう伝統芸能 歌舞伎ってなんだ!?
かぶき手帖

【ウェブサイト🌐】
歌舞伎美人
歌舞伎オンザウェブ

※本記事の制作について
一部AIを用いたライティング・画像編集支援を行っていますが、最終的な編集・事実確認・表現調整はすべて人の手で行っております。