【歌舞伎舞踊】「身替座禅」のあらすじ解説!男の浮気はやっぱりバレるのか?

【歌舞伎舞踊】「身替座禅」のあらすじ解説!男の浮気はやっぱりバレるのか?

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身替座禅みがわりざぜんとは、浮気男と妻のやりとりが笑える歌舞伎舞踊の演目です。

歌舞伎の名門・尾上菊五郎家の家の芸である「新古演劇十種しんこえんげきじゅっしゅ」にも選ばれている人気の演目ですが、この記事では身替座禅のあらすじ見どころ、得意とする歌舞伎役者上演情報などを、まだ見たことがない人にもわかりやすく解説します。

ぜひ、身替座禅を観劇するときの参考にしてくださいね。

歌舞伎舞踊の傑作「身替座禅」

歌舞伎座の「身替座禅」絵看板

身替座禅みがわりざぜんは能狂言の「花子はなご」を元にした舞踊劇として作られたもので、歌舞伎で初演されたのは明治43年(1910年)の東京・市村座です。

その時の配役は、主人公の山陰右京を六代目尾上菊五郎、妻・玉の井を七代目坂東三津五郎、太郎冠者を初代中村吉右衛門と豪華な顔ぶれが揃っていました。

能狂言を元にした演目は、松羽目物まつばめものと呼ばれ、背景に能舞台を真似た大きな松が描かれているという特徴があります。

以下に身替座禅の登場人物あらすじと舞台の見どころを紹介します。
 

登場人物

山陰右京やまかげうきょう
京の都に住んでいる大名。大の恐妻家で妻・玉の井を「山の神」と呼ぶほど恐れているが、女好きで浮気性な男でもある。美濃国に住む愛人の花子はなごが京に上洛してきたと聞きつけると、なんとかして妻にばれずに会いに行こうと画策する。
玉の井たまのい
右京の妻。嫉妬深い性格で夫右京が浮気しないかと疑っているが、心の底では夫を一途に深く愛している。
太郎冠者たろうかじゃ
右京の一の家来で、右京の身替りとして座禅をさせられるが、本当は右京よりも玉の井のほうを恐れている。太郎冠者という名前は狂言の役の一つで、大名などに使える家臣の筆頭格の人物のこと。
千枝ちえだ小枝さえだ
玉の井のお付きの侍女たち。玉の井のために右京を説得しようとする。
花子はなご
美濃国の遊女で右京の愛人だが、舞台には登場しない。また、花子と同じ郭の紅梅という遊女は太郎冠者といい仲になっているが、こちらも登場しない。

 

身替座禅のあらすじ

京の大名・山陰右京やまかげうきょうは女好きで浮気癖のある男ですが、奥方の玉の井には頭の上がらない恐妻家としても知られていました。

つい先日も、美濃の遊女・花子はなごといい仲になり、その花子が京の都に来たので会いたいという手紙が届いたので、矢も盾もたまらず会いに行きたいのですが、玉の井の監視の目が厳しくとても外出することなどできません。

そこで右京は一計を案じ、このところ悪い夢を見るので諸国の寺を巡って修行をしたいと玉の井に申し出ます。

これを聞いた玉の井は驚き、二人の侍女・千枝小枝に思いとどまるように説得するよう命じます。

二人の説得に右京は首を縦に振りませんが、結局は玉の井に逆らうことはできず、どうにか一晩だけ持仏堂で座禅修行する許可を得ることができました。

安堵した玉の井と侍女たちが出ていくと、右京は太郎冠者を呼び出し、自分が花子に会いに行く間身替りとなって座禅衾ざぜんぶすま(掛け布団のようなもの)をかぶり、一晩座禅修行をしてくれと頼み込むのです。

嫌々ながらも身替りを引き受けた太郎冠者ですが、自分の愛人で花子とは同輩の紅梅にもよろしくと伝えてほしいと右京に伝言を頼みます。

そして右京は、決して衾を取ってはならぬといい含めると、喜び勇んで愛しい花子の元へと出かけていきました。

衾を被った太郎冠者が持仏堂に籠もっていると、夫の身を案じた玉の井が二人の侍女と共に様子を見にやってきます。

玉の井は、まさか太郎冠者が身替りになっているなどとは気づかないので、差し入れのお菓子やお茶を勧めますが、太郎冠者は頑として受け入れません。

自分の気遣いを断られた玉の井は悲しみ、せめて衾をとって顔だけでも見せてほしいと言い、ついに衾を取ってしまいます。

そこに現れたのは愛しい夫ではなく太郎冠者でした。驚いた玉の井は太郎冠者に夫はどこに行ったのかと詰め寄ります。

玉の井に恐れをなした太郎冠者がすべてを打ち明けると、はじめは嘆いていた玉の井も怒りに変わり、右京を懲らしめるために自分が衾をかぶって帰りを待つことにしました。

その夜遅く、花子との逢瀬を楽しんだ右京がほろ酔い気分で持仏堂へと戻ってきました。

右京は衾を被って座禅をしているのが太郎冠者ではなく玉の井だとはつゆ知らず、いい気になって花子との楽しい思い出を語り始めます。

花子との楽しい一夜の様子を一通り語り終えて満足した右京が、太郎冠者だと思って衾を取ると、なんとそれは怒りに震える玉の井だったのです。

右京は声を失い、その場から逃げようとしますが、玉の井は逃しません。

どこへ行っていたのかと激しく詰め寄る玉の井に対して、なんとかごまかそうとして口からでまかせを言う右京。

二人はいつまでも舞台の上で追いつ追われつのやり取りを続けるのでした。




 

見どころは夫婦の滑稽なやりとり

身替座禅の一番の見どころといえば、右京と玉の井の夫婦のやりとりの面白さです。

いい気分で浮気の様子を話す右京と、それを聞いて衾の中で怒りに震える玉の井の様子や、太郎冠者だと思っていたら本当は玉の井だったとわかったときの右京の驚きの表情などが、どこか身近な出来事のような共感と笑いを誘います

普段は女形をやらない立役の男性役者が、怒ると怖いが一途に夫のことを思う玉の井を演じるというギャップも笑えますが、浮気した夫を妻が問い詰めるというストーリーは、時代や場所を超えて誰にでもわかりやすく楽しめる物なので海外でもよく上演されます。

また、ほろ酔い気分で花子の元から戻ってきた右京が、花道の上で自分と花子の二人の楽しい様子を踊り分ける場面や、若い女形二人が務める侍女たちが、優雅に舞を見せるところも舞踊劇ならではの大きな見どころです。

「身替座禅」と言えば菊五郎

現在、身替座禅で主人公の山陰右京を演じるのをもっとも得意として当たり役となっているのは、当代の尾上菊五郎です。

令和2年11月に歌舞伎座で右京を演じていますが、通算で18公演の右京役となり、近年の歌舞伎役者の中では最多となります。

もともと、初演して大好評だったのが若き六代目菊五郎で、尾上菊五郎家のお家芸である「新古演劇十種」の一つに数えられる演目でもあります。右京を演じる芸風は当代の菊五郎にも着実に受け継がれているようですね。

怖い奥方である玉の井を得意とするのが、市川左團次です。こちらも令和2年11月に演じて通算10公演目で、当代の菊五郎とのコンビは4度目となり、相性もバッチリのようですね。

また、右京と玉の井の両方を演じている役者としては、片岡仁左衛門が右京(10)、玉の井(6)となり近年としては最多となっているようです。

また、すでに亡くなっていますが、十八代目中村勘三郎十代目坂東三津五郎は、初演の六代目菊五郎の孫と七代目坂東三津五郎のひ孫でもあり、二人の右京と玉の井のコンビは名舞台として語り継がれています。

【達人メモ その1】
浮気性の夫・右京を得意とした十八代目中村勘三郎ですが、実際に浮気していたという話も多く残されています。勘三郎の妻・波野好江の著書によると、浮気相手の女の子へのメールを間違えて妻に送ってしまったこともあったり、浮気しても必ずばれていたそうです。まさに、山陰右京を地で行くような役者だったわけですが、多くの人に愛される憎めないキャラクターでもありました。




身替座禅の上演情報

吉例顔見世大歌舞伎が行われている昼の歌舞伎座
身替座禅が見られる最近の歌舞伎の舞台やDVDの情報を紹介します。

2024年3月 名古屋平成中村座

2024年3月の名古屋・同朋高校で行われる「名古屋平成中村座 同朋高校公演」で「身替座禅」が上演され、中村勘九郎なかむらかんくろうが山陰右京を演じます。

【達人メモ その2】
2021年12月に京都南座で山陰右京を勤めた片岡仁左衛門は身替座禅について、「喜劇風に楽しまれるお客様もいらっしゃいますが、私は決して喜劇風ではないと思う。人物・表情・生き様が面白いだけであって、笑わすためのお芝居としていない。」という旨のことを話しています。そう思って見ると想像以上に奥の深い芝居なのですね。

 

歌舞伎座さよなら公演DVD第六巻

第四期歌舞伎座が建て替えられる前の歌舞伎座さよなら公演で、十八代目中村勘三郎と十代目坂東三津五郎という今は亡き名コンビによって「身替座禅」が上演されています。その貴重な映像が見られるDVDがこちらになります。


歌舞伎座さよなら公演 吉例顔見世大歌舞伎/十二月大歌舞伎 (歌舞伎座DVD BOOK)

歌舞伎座さよなら公演のDVDは全八巻、DVD96枚もの大作になり、DVDを単独で購入はできませんが、第六巻には他にも、『仮名手本忠臣蔵』の『大序』『三段目』『四段目』『道行旅路の花聟』『五段目』『六段目』『七段目』『十一段目』と、12月公演昼の部の『操り三番叟』『新版歌祭文-野崎村』『大江戸りびんぐでっど』、夜の部の『双蝶々曲輪日記-引窓』『御名残押絵交張-雪傾城』『野田版 鼠小僧』も収録されているので、ファンにとってはたまらないDVDセットとなっています。

まとめ:笑える歌舞伎舞踊「身替座禅」を楽しもう

歌舞伎舞踊の名作・身替座禅について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。

能狂言を元にした松羽目物と呼ばれる舞踊劇ですが、浮気男と怖い妻の滑稽なやりとりは誰にでもわかりやく、舞踊での情景の豊かな表現も見どころの演目です。

尾上菊五郎家のお家芸である新古演劇十種として当代の尾上菊五郎が得意芸としており、片岡仁左衛門十八代目中村勘三郎の当たり役でもありました。

歌舞伎舞踊の名作・身替座禅を、ぜひ歌舞伎の舞台で楽しんでくださいね。

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