歌舞伎の舞台はこんなにすごい!驚きの仕掛けをわかりやすく解説
歌舞伎の舞台装置にはアッと驚く仕掛けがたくさんあるのはご存知ですか? 役者さんや道具が舞台の下から現れたり、一瞬でちがう場面に切り替わったり、サーカスのように空中を飛び回ったりもします。
そんな驚きと工夫に満ちた歌舞伎の舞台機構の裏側を紹介していきます。
目 次
歌舞伎の舞台は秘密の仕掛けがいっぱい!
歌舞伎の舞台装置は、他の劇場にはない珍しい仕掛けがたくさんあります。今のような特撮技術やCGのない江戸時代から、先人たちの知恵と工夫で作り上げられた舞台装置が、今でも歌舞伎の楽しさを支えているのです。
花道〜スター役者の見せ場
歌舞伎の舞台の最大の特徴といっていいのが「花道」です。舞台の下手(舞台向かって左側)の観客席の中を通るように常設され、主要な役者の登場や退場の場面で使われます。観客席の中を通って舞台まで役者が通る道があるのは、世界的にも歌舞伎だけです。
しかも、この花道は単なる通り道ではなく、その役の心情を表現する場として使われたり、舞台とは別の時代や場所、川、海、空中などを表現して演技が行われたりもします。
一例として、
「熊谷陣屋」では、つらい心の中をクローズアップして表現する場。「吉野山」では昔の旅の情景を回想シーンのように見せる場。「伽羅先代萩」では妖術使いが空中を浮遊する場などとして、花道が舞台のように使われています。
そういう花道での演技は、主に楽屋から舞台までの間を7:3に分ける「七三」というところで行われ、ここで行われる演技は役者の大きな見せ場です。「すっぽん」という役者が出入りできる穴があるのも、この七三の場所になります。
観客にとっても花道の周りの席は役者が間近に見られるので、すぐに予約で埋まってしまうほど人気があります。また、演目によっては舞台上手側にも花道が設置されることがあり、それを「仮花道」と呼びます。
ちなみに江戸時代の元文(1741年)のころの花道は、観客席を斜めに通っていたそうですが、さすがに邪魔だったのか寛延(1748年)のころには真っ直ぐ通る今の形に近いものになったようです。
すっぽん〜妖怪や幽霊が出てくる場所
花道のところでも紹介しましたが、花道の7:3のところには上下に動く床があり、そこから役者が出入りできるようになっています。
床板が上下に動いて役者が出入りする様子が、まるですっぽんが首を出すようなイメージから、「すっぽん」と呼ばれています。
すっぽんは舞台上にある「セリ」の一種ですが、ここからは人間でないものが登場するという決まりになっています。
すなわち、すっぽんから出てくるのは、妖怪や幽霊、動物、妖術使いなど、およそ人間離れした存在だということがすぐわかるようになっているのです。
また、すっぽんやセリを使わないときは上に床板を渡してふさいでいます。
揚幕〜役者が出てくるのはここから
普通、舞台に役者が出入りするのは「揚幕(あげまく)」の中からになります。揚幕にはその劇場の紋が描かれており、舞台上手と花道のつきあたりの二箇所にあります。
揚幕は金属の輪で下げられているので、役者が出入りするたびに「チャリン」という音が出てわかるようになっています。
回り舞台〜場面が一瞬に変わる
歌舞伎の舞台は真ん中が丸く切り取られて、大道具などの舞台装置や役者を乗せたまま、ぐるっと回転できるようになっています。
丸い形がお盆のようなので「盆」と呼ばれています。
これは場面の転換を素早くするためや、交互に場面を入れ替えて見せたり、ときには半分だけ回して違う角度で見せたりするためにも使われます。
そして回転している間も役者は芝居を続けているのも、歌舞伎ならではの特徴です。
セリ〜役者から大道具までいろいろ出てくる
回り舞台の盆の真ん中には四角形に切り取られた「セリ」と呼ばれる場所が4箇所あります。
そこは床板がエレベーターのように上下に動く仕掛けになっており、役者や建物などの大道具、舞台装置などが出てきます。
せり上がってくるので「セリ」と呼ばれており、歌舞伎座では舞台の奥から見て、大ゼリ、松ゼリ、竹ゼリ、梅ゼリの四種類があります。花道に設けられた「すっぽん」もセリの一種です。
この仕掛は場面の転換を早くしたり、観客を驚かせるような劇的な効果を狙ったものです。
セリを使ったもっとも大掛かりな演出に、「がんどう返し」があります。大道具全体を後ろに90度倒すと、そこに次の場面の背景が描かれており、続いて大きな建物がセリから現れてきて、幕を閉めることなくあっという間に場面が転換します。
「白浪五人男」で山門が現れる場面で使われるのが有名です。
またセリが降りる舞台の下の空間を「奈落」と呼びます。
黒御簾と床〜音楽や効果音はここから
舞台の下手側に黒い板で囲まれた小部屋が「黒御簾(くろみす)」、上手側の揚幕の上の小部屋が「床(ゆか)」です。
黒御簾とは黒い御簾(すだれ)が掛けられていることからそう呼ばれています。
御簾を通して舞台の様子が見えるようになっており、中からは演技に合わせてタイミングよく歌舞伎特有の唄である長唄や、舞台や演技を盛り上げる三味線の演奏、太鼓や鼓などの鳴物での効果音などが出されるようになっています。
黒御簾で演奏される音楽を「黒御簾音楽」(または「下座音楽」)といい、演奏による表現が舞台をいっそう豊かなものにしています。
反対側にある床も演奏や唄が行われる場所ですが、こちらは御簾が上げられて演奏者が見えることもあります。
ここでは「竹本」と呼ばれる人たちが義太夫節(ぎだゆうぶし)を演奏します。
義太夫節とは美しい三味線の伴奏で長い物語を語る芸です。
竹本には登場人物の動きや気持ちを語ったり、場所や景色を説明するナレーションのような役目があります。
幕〜種類によって役割がちがう
歌舞伎の幕といえばすぐに思い浮かぶのが、黒、茶(柿色)、緑(萌葱色)の三色でできた「定式幕(じょうしきまく)」です。
定式幕は開演のときは下手から上手に開かれ、芝居のラストでは花道だけを見せるために正面舞台を隠すように閉められたりもします。
江戸時代にはこの三色は幕府に上演を許された劇場で使われていました。
現在、歌舞伎座では左から黒、茶、緑の順番ですが、国立劇場では左から黒、緑、茶の順番になっています。
定式幕の他にもいろいろな幕が使われます。
- 浅葱幕(あさぎまく)
大道具を転換するときなどに一時的に舞台を隠すための明るい青緑色(浅葱色)の大きな幕です。上から吊られた浅葱幕を一気に下に落とす「振り落とし」という仕掛けで観客を驚かせます。 - 浪幕(なみまく)
山や海などの風景が描かれている幕です。これも次の場面の大道具の準備のときなどに舞台を隠す役割があります。 - 霞幕(かすみまく)
舞台上での演奏者の出入りや演奏していないときに隠すための幕です。白布に水色で雲が描かれて霞のように見えるのでこう名付けられました。 - 消し幕
赤幕と黒幕の二種類があり、観客に見せたくないものを隠すための幕です。観客のほうもこの幕は「見えないもの」というお約束になっています。小さいものは動かしながら舞台から消えていきます。大きな黒幕で舞台が覆われているのは「夜」や「暗闇」を表しています。
また、幕間などでは定式幕ではなく、富士山や桜などの模様が鮮やかな「緞帳(どんちょう)」が降ろされています。
他にこんな仕掛けもあります
歌舞伎の舞台では様々なことが行われるので、そのための仕掛けもまだまだあります。
- ワイヤーで空を飛ぶため「宙乗り」
- 滝から本物の水が流れ落ちる「本水」
- 建物が後ろにひっくり返って次の舞台が現れる大仕掛け「がんどう返し(どんでん返し)」
- 建物が一瞬で潰れる大仕掛けの一つ「屋台崩し」
- 舞台や花道が海に変わる「浪布」
- 遠くで戦う様子を子役が表現する「遠見」
他にも様々な動物が小道具で表現されて登場するなど、歌舞伎には多くの仕掛けがなされており、観客を飽きさせないようにしているのです。
まとめ:歌舞伎は音楽も重要な要素
歌舞伎の舞台には様々な舞台装置と仕掛けがあることを紹介してきました。
- 歌舞伎の特徴とも言える役者の見せ場、「花道」
- 花道の中から妖怪変化が出てくる「すっぽん」
- 役者が出入りする「揚幕」
- 舞台が一瞬で変わる「回り舞台」
- 役者や大道具も舞台したからせり上がってくる「セリ」
- 舞台を盛り上げる演奏と効果音の「黒御簾」「床」
- 様々な演出効果を狙った「幕」
他にもあっと驚くような舞台装置と仕掛けで、見る人を飽きさせないように工夫されています。歌舞伎の舞台を見るときはそんな舞台の仕掛けも、楽しんでみてくださいね。