梶原平三誉石切のあらすじ解説!名刀の切れ味が運命を左右する歌舞伎演目

梶原平三誉石切のあらすじ解説!名刀の切れ味が運命を左右する歌舞伎演目

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梶原平三誉石切かじわらへいぞうほまれのいしきりとは、通称「石切梶原いしきりかじわら」とも呼ばれる歌舞伎の時代物演目です。

歌舞伎の芝居ではしばしば悪役側で登場している梶原平三景時を、情に厚い正義の主人公として描くという、いわばスピンオフ的な演目です。

2022年に放送されたNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では、梶原平三景時が「13人の一人」として登場し、歌舞伎役者・中村獅童が演じて話題になりました。

この記事では梶原平三誉石切あらすじ登場人物についてや、梶原という人物が悪人なのか善人なのか役者による演出の違い上演情報などを初めて見る人にもわかりやすく紹介していきます。

梶原平三誉石切とは?

令和2年の歌舞伎座十月大歌舞伎
歌舞伎の演目・梶原平三誉石切とは、享保15年(1730年)に、長谷川三千四・文耕堂の合作の時代物浄瑠璃「三浦大助紅梅靮みうらのおおすけこうばいたづな」の三段目にあたる演目で、「石切梶原いしきりかじわら」とも呼ばれます。

主な登場人物を以下に紹介します。

登場人物

梶原平三景時かじわらへいぞうかげとき
元は源氏方につかえていた武将だが今は平家方につかえている。かつて石橋山の戦いで源頼朝を見逃して命を救ったことがあり、心の中では源氏を慕っている。大庭たちとともに鶴ヶ丘八幡宮に戦勝祈願に来た。刀の目利きとしても名高い。本作では知勇を兼ね備えた情に厚い爽やかな捌き役(正義の判断を下す役)だが、「外郎売」や「寿曽我対面」などの演目では敵役として描かれている。
青貝師六郎太夫あおがいしろくろだゆう
青貝師(装飾工)だが、源氏の武将である娘の許嫁を再起させるために軍資金を工面しようとして、刀剣好きの大庭三郎景親に伝来の宝刀を売りに来る。
六郎太夫娘梢ろくろだゆうむすめこずえ
六郎太夫の娘。許嫁である源氏の武将のために、父とともに宝刀を売りに来る。
大庭三郎景親おおばさぶろうかげちか
平家方の武将。普段から梶原とはあまり仲はよくないが、戦勝祈願ということでともに参拝している。貫禄のある敵役。
俣野五郎景久またのごろうかげひさ
大庭の弟。貫禄のある兄とちがって赤っ面の小悪党で口うるさい。神仏なと信じても意味がないと梶原にも難癖をつける。
奴菊平やっこきくへい
梶原のもとに姿をくらましていた源頼朝が挙兵して衣笠城へ立てこもっているという書状を持ってくる。出番は短いがスター役者が務める目立つ役。
囚人剣菱吞助しゅうじんけんびしのみすけ
宝刀の切れ味を試すために試し切りにされる哀れな囚人。酒好きで、「酒づくし」の台詞で観客を沸かせる。
大名たち
梶原側の大名と大庭側の大名とがいて、ことあるごとに対立している。
牢役人
試し切りのために囚人を連れてくる役。

あらすじ

歌舞伎座十月大歌舞伎の梶原平三誉石切の絵看板
鶴ヶ岡八幡宮には平家の武将である、梶原平三景時と大名たちが戦の勝利を祝うために参拝に訪れています。そこには同じ平家方の武将でありながら梶原とはあまり仲の良くない大庭三郎景親とその弟・俣野五郎景久の姿もあります。

先の戦である「石橋山の戦い」での勝利は神仏のご加護のおかげであると言う梶原に対して、神仏など信じない俣野は「神仏のおかげで勝ったなどと武士にあるまじき発言」と難癖をつけてきます。

しかし、梶原は俣野の暴言にも感情を乱されることなく冷静に対処し、大庭と俣野、その場に居合わせる大名たちと祝の盃を酌み交わします。

するとそこに青貝師六郎太夫と娘のが一振りの刀を持ってやってきます。この刀は六郎太夫の家に伝わる宝刀であり、二人は梢の許嫁である源氏の武将のために軍資金を作ろうと、以前から宝刀に興味があった大庭に買ってもらおうというのです。

宝刀に興味津々な大庭ですが、実際に価値のあるものなのかはわからないので、刀の目利きとして名高い梶原にその場で鑑定を依頼します。

依頼を受けた梶原が手水鉢で手を洗おうとすると、六郎太夫は「私ごときの刀の鑑定でわざわざ手を清められる必要はありません」と言いますが、梶原は「名作の刀であれば、誰が持ち手でも礼儀を尽くすべき」と、礼儀正しく手水で清めてから鑑定に入ります。

手水で自らを清めた梶原は、うやうやしく袋の中から白木の柄の刀を取り出すと、刀身に息がかからないように懐紙を口に加えて鞘から抜き放ちます。

抜いた刀身を、切っ先、物打ち、はばき元、鎬、差裏、差表と順番に鑑定した梶原は、「これほどの名刀は見たことがない」と思わず感嘆の声を挙げ、「ぜひ、購入すべきだ」と大庭に勧めます。

それを聞いた大庭は上機嫌になり、六郎太夫の言い値で買うと言います。六郎太夫が「300両」で買ってほしいと言うと、さすがにその高さに驚きますが、「梶原殿が名刀と言うのだから間違いない」と300両を与えようとします。

ところが、ここで再び俣野が「いかに名刀と言え切れ味を試してみるべきだ」と難癖をつけてくると、居並ぶ大庭側の大名たちも「試し切りをすべきだ」と口を揃えて言い出します。

自分の鑑定にケチをつけられた梶原が不愉快に思っていると、梶原側の大名たちも「文句があるなら二つ胴で試し切りをしたらいい」と言い出します。「二つ胴」とは、死罪が決まっている罪人を二人重ねて刀で切ることで切れ味を試すことです。

大庭もこれにはもっともだと言い、罪人を連れてくるように命じます。ちょうどその時、奴菊平が書状を持ってやってきますが、その内容は先の戦で行方がわからなくなっていた源頼朝が衣笠城に立て籠もっているという知らせでした。

大庭側の大名たちは「すぐに出陣すべき」と騒ぎ出し、梶原側の大名たちは「血気にはやってはいけない」と言って騒然とした雰囲気になります。

ここへ牢役人が現れ、死罪の罪人は一人しかいないとのこと。大庭は「それでは試し切りができないので刀は持ち帰るがよい」と言い出したので、これを聞いた六郎太夫は慌てて、「実は二つ胴の試し切りをした証明書を家に忘れてきたので娘に取りに行かせます」と言って梢に証明書を取りに行かせます。

しかし、実際は証明書などなく、なんと六郎太夫は自分を使って試し切りをやってくれと言うのです。梢に自分が斬られるところを見せないために嘘をついて帰したのでした。

驚く一同ですが、六郎太夫の覚悟が固いことがわかると、刀がほしい大庭は二つ胴の試し切りができたら300両を六郎太夫の娘に払うことを約束し、六郎太夫に縄が懸けられ、もう一人の罪人・剣菱吞助が連れてこられます。

二人が並んで座らされると、これで最期と悲しい顔をした剣菱吞助が酒づくしの台詞をとうとうと語ります。

思えば思えば俺が身の、敵と言うは盗み酒。
一杯飲むとたちまちに、怒り上戸の癖となり、
師匠を殺した咎故に、鬼ころしの罪となり、
こんなおべべを黄桜で、
石の牢へも百年の孤独
今引き出されて最前から、
始終の様子を菊正宗
もはや冥土の迎え酒と、思えば身内も冷酒で、
重い吐息を、白鹿白雪・・・
せめてこの身が富士見酒なら、助かることがある賀茂鶴
この大関の人前で、重ねておいて名剣菱の、
試しに焼酎吉四六とは、ええもう二つ胴よくなあ・・・
剣菱呑助の酒づくしの台詞

呑助の台詞が終わると、俣野が自分が二つ胴の試し切りをするといきり立ちますが、梶原がこれを押し止め、「刀の目利きをした自分を差し置いて二つ胴を試そうとは何事だ!」と一喝すると、俣野は震え上がり刀を梶原に手渡します。

刀を受け取った梶原は六郎太夫に情けの言葉をかけ、六郎太夫もその気遣いに感謝の意を述べ、娘が戻らないうちに試し切りをしてほしいと涙をこぼします。

するとそのとき、証明書などないことに気がついた梢が戻ってきます。縛られている父親を見て、すべてを悟った梢は梶原に父を助けてほしいと懇願しますが、梶原は何も答えません。

梢は居並ぶ大名たちにも梶原を説得してほしいと懇願しますが誰も答えてくれず、ついに役人に取り押さえられ気を失ってしまいます。

それを見た大庭が、無慈悲にも梶原に二つ胴を試すように促すと、うつ伏せに寝かされた六郎太夫の上に剣菱吞助もうつ伏せに重ねられ、二つ胴の準備が整いました。

梶原が気合と共に鋭い拝み打ちで刀を降り下ろすと、剣菱吞助の胴体が真っ二つになりますが、六郎太夫の胴は切れていません。

梢が六郎太夫にかけより助け起こすと、切られて死んだと思った六郎太夫は驚き、二つ胴に失敗した梶原は苦い顔をしています。

これを見た俣野は得意げに梶原を非難し、大庭も梶原の目利きを信じて大損するところだったと悪態をついて帰っていきました。

300両が手に入らなかった六郎太夫は、これでは梢の許嫁に申し訳が立たぬと自害しようとしますが、梶原がこれを押し止めます。

梶原はこの刀は本当に名刀の切れ味があり、二つ胴が来れなかったのは自分があえて切らなかったことを明かします。そして自分がこの刀を買取ると言うのです。

これを聞いて喜ぶ親子ですが、梶原は刀の差裏に「八幡」と銘が打たれているので、二人は源氏方の者ではないかと尋ねます。

親子は悩みますが、いかにご恩があろうとも平家方の梶原に対しては娘婿の名を明かすわけにはいかない、それが気に入らなければ斬られても構わないと信念を貫く姿勢を見せます。

その心意気に感動した梶原は、自分はかつて源頼朝を逃したことがあり、今は平家方だが心は源氏方にあると明かすのです。

それを聞いた六郎太夫は安心しますが、家宝の刀がなまくらだと言われることだけが心残りだと言うと、梶原は心配しなくてもよいと二人を手水鉢の両側に立たせます。

手水の水に二人の影が映るのを見て刀を抜いた梶原は、なんと一刀のもとに石の手水鉢ごと真っ二つに斬ってしまうのです。

これを見た六郎太夫はその切れ味の確かなことに喜び、梶原は望みの金を与えるから自分の館に来るようにと言って花道を引っ込みます。六郎太夫と梢がその後を嬉しそうに追いかけて幕となります。



梶原景時は悪人なのか善人なのか?

主人公の梶原平三景時は、この作品中では知勇に優れ情に厚い真の武士として描かれていますが、歌舞伎の他の演目(外郎売、寿曽我対面)では敵役の悪人として登場しています。

梶原平三景時という人物は、どうしてこのように善悪の立場が替わるのでしょうか?

この理由としては、実際の歴史上の梶原の立場の変遷にあると考えられます。

梶原はもともとは源氏方の立場ですが、意に反して平家に仕えていました。

しかし、あらすじにも出てくる「石橋山の戦い」において源頼朝を見逃して命を救ったことで、後に頼朝の恩人として取り立てられることになります。

ところが、頼朝には信頼されていた梶原ですが、義経とはうまくいかなかったようです。

あるとき梶原が、海戦のときに船がすぐに後退できるように舳先に逆櫓をつけるという画期的な提案をしたのですが、これを聞いた義経は「戦う前から後退することを考えるなどとは何事だ、そんな臆病者は好きなだけ逆櫓をつけたらいい」ということを言って梶原を侮辱しました。これに怒った梶原は、義経を讒言で陥れようとするようになったそうです。

他にも、頼朝の信頼が厚いのをいいことに、ことあるごとに「頼朝公のゲキだ」と口癖のように言っては周囲を威圧していたとも語り継がれています。

そんなことから源氏の家臣たちからは評判が悪く、梶原家の家紋である「やはず紋」(矢の後ろにつける部分)がゲジゲジに似ていると言って、「ゲジゲジ侍」とあだ名されていたとか。

義経との関係を見ると、悪人としてのイメージが強く、それが舞台での役柄に影響しているようですが、「梶原平三誉石切」では、頼朝との関係の中では本来は情に厚い正義の人であるということを伝えたかったのかもしれませんね。

役者で変わる石切の場面

梶原平三誉石切での一番の見せ場が、石の手水鉢を梶原が真っ二つに切るところです。

この場面は演じる役者によって違いがあります。

2020年10月の歌舞伎座で片岡仁左衛門が演じた梶原は、手水鉢の両横に六郎太夫と梢を立たせ、自分は手水鉢の後ろから観客に顔が見えるように刀を振り下ろし、二つになった手水鉢の間を通って前に出てきます。

しかし、さよなら歌舞伎座公演において松本幸四郎(現・白鸚)が演じた梶原は、六郎太夫と梢を手水鉢の両脇には立たせずに、自分は観客に背を向けて刀を振り下ろしています。

他にも、鳥居の色が赤色のときは華やかさを演出する「市村羽左衛門系」で、灰色の石造りの鳥居のときは、梶原の心の内を表現することを重視した「中村吉右衛門系」という違いや、剣菱呑助の台詞が日本酒ではなく洋酒の名前になっていることもあります。

ぜひ、役者による演出の違いも楽しんでみたいものですね。



「梶原平三誉石切」の上演情報

歌舞伎演目「梶原平三誉石切」の上演情報を以下にお知らせします。

2024年1月 新国立劇場

2024年1月の新国立劇場「令和6年初春歌舞伎公演」で、尾上菊之助による「梶原平三誉石切」が上演されます。

まとめ:敵役の梶原が善人を演じる貴重な舞台を楽しもう

歌舞伎の演目・梶原平三誉石切は、悪人として描かれることが多い梶原平三景時が、情に厚い正義の主人公として活躍する演目です。

梶原は歴史的にその評価が大きく替わった人物ですが、この演目では源氏側から見たときに悪人ではない梶原の姿を見ることができます。

演じる役者によって石切の場面の演出に違いがでるので、そんな違いを探してみるのも一興です。

ぜひ、歌舞伎の舞台で梶原平三誉石切を観劇してみてくださいね。

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