【ナウシカ歌舞伎】新作から古典歌舞伎へ菊之助の挑戦は続く!【あらすじ紹介】

【ナウシカ歌舞伎】新作から個展歌舞伎へ菊之助の挑戦は続く【あらすじ解説】

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2019年12月に公開された新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」は、世界的にも人気のジブリアニメ初の歌舞伎化として、歌舞伎ファンとアニメファンのみならず多くの人の注目を集めました。

ナウシカの歌舞伎化を主導した尾上菊之助おのえきくのすけは、現代の漫画を原作としたこの作品を、一過性のブームではなく古典歌舞伎として長く後世に残るものにしたいと考えているようですが、それは可能なのでしょうか?

コロナ禍も落ち着いてきた2022年7月にナウシカ歌舞伎は再演されることになりました。ここでは、壮大なナウシカ歌舞伎のあらすじナウシカ歌舞伎が作られた経緯、歌舞伎化を主導した尾上菊之助の思い、取り入れられた様々な歌舞伎の手法上演情報などについても解説していきます。

ナウシカ歌舞伎を見た人も、これから見ようと思う人も、ナウシカ歌舞伎をより深く楽しむための参考にしてくださいね

新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」とは?

2019年に初演された新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」は、昼夜二部で全7幕36場の通し上演という近年まれに見る長編歌舞伎です。

原作となったのは、世界的に評価の高いジブリアニメを世に送り出してきた宮崎駿が1982年に描いた全7巻の漫画で、1984年には劇場アニメとして公開され、その完成度の高さと人間の生き方を問う深いテーマ、独特の世界観に魅力的な登場人物達など、現在も人気の高いジブリアニメの記念碑的作品と言えます。


アニメ映画「風の谷のナウシカ」

この作品の大ファンでもあった尾上菊之助おのえきくのすけが5年前(2014年頃)から歌舞伎化を考え、2019年12月に新橋演舞場で新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」として上演しました。

アニメ映画は原作漫画の2巻までで終わっていますが、菊之助は漫画原作の全7巻すべてを、なんと全部で6時間にも及ぶ昼夜通し公演として上演したのです。

主役のナウシカは菊之助が勤め、ナウシカと対を成す存在とも言えるトルメキアの皇女・クシャナ中村七之助なかむらしちのすけ、ナウシカの叔父で剣士として名高いユパ尾上松也おのえまつや、トルメキアに滅ぼされたペジテの王子・アスベル尾上右近おのえうこんが演じるなど、原作での主要な役に若手の人気俳優たちが起用されました。さらに王蟲の声を昆虫好きで知られる市川中車いちかわちゅうしゃ(香川照之)が担当し、墓所の霊の声を今は亡き中村吉右衛門なかむらきちえもんが担当するなど、歌舞伎ファンにとってはたまらない配役となっています。

歌舞伎ファンだけでなく「ナウシカ」が好きなアニメファンにも期待が高く、チケットは発売してすぐに完売となるほどでした。

ナウシカ歌舞伎の主な登場人物

新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」に登場する主なキャラクターを紹介します。

ナウシカ
風の谷の族長ジルの娘。メーヴェというグライダーのような乗り物を操り風を読んで自由に空を飛ぶことができ、蟲たちとも心を通わせる不思議な力を持つ。風の谷の人々から慕われる優しい姫だが、怒りにまかせて我を忘れて闘うような一面も。16歳。【初演:尾上菊之助】
クシャナ
大国・トルメキア王国の第四皇女。巨神兵を手に入れるため風の谷に艦隊で侵攻してくる。男勝りで非情な性格に見えるが、部下たちからは信頼の厚い人物として慕われており、ナウシカとも心を通わせていく。敵国からは「トルメキアの白い魔女」と呼ばれ恐れられている。25歳。【初演:中村七之助】
ユパ
ナウシカの叔父で剣の達人として名高い人物。腐海の謎を解くために世界中を旅している。ナウシカの良き理解者。45歳。【初演:尾上松也】
アスベル
トルメキアに滅ぼされたペジテの王子。復讐のためにトルメキア艦隊にガンシップで攻撃をかける。ナウシカと出会い、その心に惹かれて行動をともにするようになる。トルメキアに殺されたラステルは双子の妹。16歳。【初演:尾上右近】
クロトワ
トルメキアの軍人でクシャナの軍参謀。平民からの叩き上げで野心家でもあり食えない男。ブ王の命令でクシャナを監視していたが、クシャナに惹かれ忠誠を誓うようになる。【初演:片岡亀蔵】
ブ王
トルメキアの王。自らの権力を維持するためには娘であるクシャナまで亡きものにしようとする非情な男だが、最期はナウシカを助けるために犠牲となり、クシャナに王位を譲るといった人としての一面を見せる。【初演:中村歌六】
皇弟ミラルパ
大国・土鬼(ドルク)の神聖皇弟。超常の力を持ち、化学的処置で肉体を100年以上若く維持している。冷たい憎しみの塊のような心を持つ。【初演:坂東巳之助】
皇兄ナムリス
ミラルパの兄で大国・土鬼(ドルク)のもうひとりの神聖皇帝。超常の力を持つミラルパに実権を握られていたが、ミラルパが弱ったところで殺害し権力を奪う。肉体移植により若い姿を保っている。ミラルパよりさらに冷酷な人物。【初演:坂東巳之助】
巨神兵(オーマ)
かつての科学文明が作り出した超兵器。世界を滅ぼすほどの力を持つが、生まれたての状態は赤ん坊のように幼い心をもつ。ナウシカを母と慕うようになりオーマと名付けられた。【オーマの精:尾上右近】
王蟲(オーム)
巨大なダンゴムシのような姿をした腐海の森の主。14の青い目は仲間の蟲を殺されると怒りによって赤くなる。ナウシカとも心を通わせることができる。【声:市川中車】




ナウシカ歌舞伎のあらすじ

「風の谷のナウシカ」は原作の漫画とアニメでは少し内容が違いますが、歌舞伎のナウシカは原作を元に作られています。ここでは2019年に新橋演舞場で初演された内容から、前編と後編に分けて場面ごとにあらすじを紹介します。

風の谷のナウシカ 前編

前編は一、二、三幕の構成で、歌舞伎のケレンと呼ばれる見た目にも派手な演出が多数登場し舞台を盛り上げていきます。

序幕 青き衣の者、金色の野に立つ

ナウシカの舞台「風の谷」の風景

第一場 プロローグ(口上)

この世界では、有毒な瘴気(しょうき)を発する巨大な菌類が生い茂る腐海(ふかい)が大地を覆い、この腐海には王蟲(オーム)をはじめとする巨大な蟲たちが生息しています。人々はわずかな土地にへばりついて生活していますが、このわずかな土地を巡って、トルメキア王国と土鬼(ドルク)帝国の2つの国が争いを始めようとしています。この争いの鍵となるのが、世界を焼き尽くす力を持つ巨神兵(きょしんへい)とそれを操るための秘石。人類は滅亡の淵に立ってなお争いをやめることができず、自ら滅びに向かって進んでしまう。しかし、この世界には古からのある伝説が伝えられており、人が滅びに向かうとき救いの主が現れて、人々を汚れのない青き清浄の地へ導くと信じられていた・・・。

第二場 腐海の場

小国「風の谷」の姫・ナウシカは、腐海の奥で巨大な王蟲の抜け殻を発見し、そこで大王ヤンマに捕まり気絶していたキツネリスを助けテトと名付けます。そのとき近くにトルメキアの輸送船が墜落します。駆け付けたナウシカが倒れている一人の少女を見つけると、少女はペジテの王女・ラステルと名乗り、ナウシカに兄のアスベルに渡してほしいと謎の秘石を託して息を引き取ります。

第三場 風の谷場内広場の場

そのころ風の谷の族長ジルの元に弟であり腐海一の剣士と呼ばれるユパが久しぶりに帰ってきました。城の人々もユパの帰りを喜びますが、そこに突如トルメキア軍の艦隊が押し寄せます。指揮官であるトルメキアの皇女・クシャナは、トルメキアに謀反を起こしたペジテの残党が逃げ込んだので差し出せと迫ります。この暴挙に怒ったナウシカは、トルメキアの兵士がラステルの墓を暴いたことを知ってさらに激昂し剣を取って兵士と闘いますが、ユパが仲裁に入ってその場を収めます。クシャナは一旦引き下がりますが、同盟を結んでいる風の谷に土鬼との戦のための兵を出すことを要求し、風の谷からはナウシカと城オジたちが参戦することになりました。

第四場 ナウシカの実験室

出兵の前夜、ユパがテトを追いかけて城の奥に入っていくと、そこでナウシカが育てた腐海の植物を見つけます。きれいな土と水では腐海の植物は瘴気を出さないということを知ったナウシカは、汚れているのは土と水であり腐海がそれを浄化しているのだとユパに語ります。ユパはナウシカの考えに感銘し、ナウシカに必ず帰ってこいと伝え、自らも再び腐海へと旅立ちます。

第五場 空中ガンシップの場

ナウシカはガンシップに乗りクシャナ達の艦隊と編隊を組んで飛行していると、上空からペジテのガンシップが編隊を急襲してきます。トルメキアの戦艦は攻撃を受けながらもペジテのガンシップを撃墜すると、ナウシカはメーヴェに乗って腐海に墜落したガンシップを追います。

第六場 腐海・森の奥の場

腐海に墜落したガンシップに乗っていたのはラステルの兄・アスベルでした。アスベルは一命をとりとめますが、腐海の蟲たちに襲われて絶体絶命のピンチに陥ります。そこにナウシカが現れ蟲たちを鎮めると、二人は腐海の奥底へと入っていきます。

そこへ巨大な王蟲が現れナウシカの心に語りかけます。ナウシカは子供の頃に王蟲の子供を助けようとした出来事を思い出します。王蟲は二人の命を助けると言い、遠く南の森が我らの助けを求めているので行かねばならぬと去っていきました。

第七場 腐海・森の底の場

腐海の底で目覚めたナウシカは、王蟲の声を思い出していました。そこへ戻ってきたアスベルにナウシカはラステルに託された秘石を渡し、腐海が世界を浄化していると語ります。そして二人はメーヴェに乗って腐海の底から脱出していくのです。

第八場 酸の湖・トルメキア軍宿営地の場

酸の湖の側に着陸したクシャナの軍に新しい参謀・クロトワが派遣されてきました。そこに風の谷の城オジ・ミトが、ナウシカが帰らないので探しに行きたいとクシャナに訴え出ます。クシャナは秘石のありかを教えれば軍をあげてナウシカを探してやると言いますが、ミトは知らないとうそぶき、ナウシカが帰ってきたら直接聞いたら良いと言います。ミトの言葉に納得したクシャナは、自身もナウシカのことが気になっているので探しに行く許可を与えるのです。

第九場 土鬼マニ族浮遊砲台の場

ドルクの浮遊砲台ではマニ族の少女・ケチャがトルメキアに民を殺されたことを深く恨んでおり、ドルクの兵士達は蟲を使ってクシャナの軍に奇襲をかける機会を伺っています。そこへメーヴェに乗ってナウシカとアスベルがが来たのを見たケチャは、トルメキアの偵察かと疑いますが、トルメキア人ではないとわかりマニ族僧正の前に連れていきます。ナウシカは殺し合いをしてはならないと訴えますが、僧正は神聖皇帝の命令で王蟲を使った作戦はもう止められないと言います。そこへ風の谷のガンシップがナウシカを取り戻しに来たことを知ると、ナウシカとアスベルは僧正を人質にとり、自分たちをガンシップに引き渡すよう迫ります。残って民を戦に向かわぬように説いてみると言うアスベルを置いて、ナウシカはミトとともにガンシップに乗って飛び立ちます。

第十場 元の酸の湖・トルメキア軍宿営地の場

酸の湖に布陣するクシャナ軍の前に土鬼の兵が現れ、同時に王蟲の大群が押し寄せてくるとの知らせが入ります。トルメキアと同盟を組む辺境の部隊は次々と離脱していき、クシャナは兄皇子たちにはめられて土鬼の計略にかかったことを知り、必ず恨みを晴らすことを誓いその場を去ります。

第十一場 酸の湖・中州の場

メーヴェに乗ったナウシカは、ドルクの飛行ガメに吊るされた王蟲の子供を見つけると、剣でロープを切って酸の湖の中州に着地します。ナウシカは仲間の元へ戻ろうと酸の湖に入ろうとする王蟲の子供を止めようとして自らが酸の湖で足を焼かれ倒れてしまいました。すると、王蟲の子供の精が現れ、ナウシカをやさしくいたわります。王蟲の子供の精がナウシカとともに舞を踊ると、王蟲の血でナウシカの服が青く染まりました。これを見ていた王蟲の群れから怒りが消え、ナウシカと王蟲の子供の精は金色の触手に包まれ、まるで金色の野に立っているようです。これを見たマニ僧正は驚き、「その者青き衣を纏て金色の野に降り立つべし」と古からの言い伝えを口ずさむのでした。



二幕目 悪魔の法の復活

第一場 工房都市セム酒場の場

セラミック鉱山で栄えるセムの酒場では、女達が舞い踊り男たちは酒を楽しんでいます。そこへユパが現れ食事をしていると、店の女将が用心棒として店に残ってくれないかと頼みます。話を聞くと、最近蟲使いたちが店に顔を出すようになり、気味が悪くて仕方がないとのこと。ユパは蟲使い達がドルクの金貨を持っているのを不審に思い、後をつけてみることにします。

第二場 腐海・土鬼の基地 王蟲培養室の場

ドルクの基地で僧会が行われ、そこでは王蟲を使ってトルメキア軍を殲滅する作戦が立てられています。しかしマニ僧正だけは王蟲を戦に使うことを反対し、他の僧たちから皇帝に逆らうなら破門だと非難されます。そこで蟲使いたちが培養している王蟲を披露すると、後をつけてきたユパが登場し、王蟲を戦に使うなど言語道断と僧達を咎めます。蟲使い達がユパに襲いかかりますが、そこへマニ僧正の護衛としてついてきたアスベルも乱入し、ユパを助けて大乱戦になり王蟲の水槽をすべて破壊してしまいます。

第三場 腐海・荒野の場

ケチャがユパとアスベルを船に乗せたことをマニ僧正に伝えると、マニ僧正は土鬼皇弟に王蟲を戦に使うことの愚かさを訴えるためにこの場に残ると伝えます。土鬼軍司令のチヤルカが皇帝の来訪を告げると、皇弟ミラルパが現れます。マニ僧正は王蟲を戦に使うことの傲慢さ愚かさをミラルパに訴えますが、ミラルパは聞く耳を持たず超常の力でマニ僧正に襲いかかります。僧正はマニ族の民たちとナウシカたちにむけて最後の言葉を残して亡くなります。マニ僧正が言う青き衣の者はナウシカのことだと気づいたミラルパは超常の力を使ってナウシカを襲いますが、マニ僧正の魂がこれを阻止します。

ナウシカはクシャナと再開して秘石を持ち主に返したと伝えます。クシャナ、ミラルパ、ユパ、アスベル・・・それぞれの思いが複雑に絡み合います。



三幕目 白き魔女、血の道を征く

戦いに明け暮れるトルメキアと土鬼

第一場 空中・トルメキア装甲コルベット操舵室の場

クロトワがクシャナに友軍の陣に加わるように進言すると、クシャナは自分を殺して秘石を奪おうとするクロトワの企みを見抜きすべてを話せと迫ります。すべてがバレたクロトワは、出世をあきらめクシャナに忠誠を尽くすことを誓います。クシャナが誰に命じられて自分の命を狙ったのかと問い詰めると、クロトワはブ王陛下本人だと伝え、それを聞いたクシャナはついに正体を現したなと不敵に笑うのでした。

第二場 サパタ都城城外 土鬼攻城砲台の場

トルメキア軍への憎悪に燃える土鬼の兵たちが戦の前に踊りを捧げています。皇弟ミラルパは肉体を維持するための装置に入っているので自由に動けませんが、ナウシカを殺せとチヤルカに命令を下します。

第三場 サパタ都城城外 トルメキア軍本陣の場

新しく来た将軍への不満を募らせるクシャナの兵たちの元に、クシャナが帰還します。クシャナは将軍を追い出し、再び軍を指揮することを宣言します。トルメキアの兵たちが捕虜とした土鬼の兵を奴隷としているのを見たナウシカは悲しみ、クシャナに捕虜を解放するように訴えます。クシャナは戦友の忠告なら聞いてもよいと、ナウシカに共に闘うように言い、ナウシカもクシャナと共に戦場に向かうことになるのです。

第四場 サパタ都城城外 戦場攻城砲台の場

クシャナが指揮するトルメキア軍の奇襲で土鬼軍の前線が破られたとの報告がチヤルカの耳に入ります。クシャナの隣に青き衣を纏うナウシカを見たチヤルカは、あの者を殺せと命じますが、あえなく土鬼の攻城砲台は落とされてしまいました。一時行方がわからなくなったナウシカも帰還しますが、トリウマのカイを失います。言ったとおり自らの手を血で汚してきたナウシカに対して、クシャナは自らの道を行くように伝え、ナウシカも南へ向かうと言い二人は別れることになりました。

捕虜となっていた土鬼の兵が解放されたのを見たミラルパは、さらに強力な粘菌を使ってトルメキアを攻めるようにチヤルカに命じます。

クシャナと別れたナウシカは、テトと共にメーヴェに乗って南へ向かって旅立って行きました。



風の谷のナウシカ 後編

後編は四、五、六、七幕の構成になっており、登場人物たちの心情を深く描きながらクライマックスへ向けて物語は加速していきます。

四幕目 大海嘯

第一場 プロローグ(口上)

道化が物語の背景をあらためて解説し、紹介された主要な人物たちが次々に登場しながら自らの思いや心境を語って聞かせます。

最後に現れたナウシカが、美しい湖のほとりでチククという少年に導かれマニ族の上人と出会い、上人がマニ僧正と似ていることに驚きます。上人は大海嘯が起こり人類が滅びるときが近いことをナウシカに語りますが、ナウシカは世界のために大海嘯を止めることを誓い、チククとともに旅立ちます。

第二場 土鬼戦艦玉座の場

空を行く土鬼戦艦の中では、土鬼の博士たちが新しく開発した粘菌の苗をまだ兵器として使うべきでないとチヤルカはミラルパに進言します。しかしミラルパはトルメキアを皆殺しにするために使うと言い放ち、それより青き衣の娘こそが禍なので油断するなとチヤルカに警告します。そのとき、蟲の大群が向かってきていると報告が入り、さらに眠っていた粘菌が目覚めて瘴気を放ち膨れ上がって手に負えなくなり艦内は大騒ぎになります。その様子に気づいたナウシカが大海嘯の前触れではないかと胸騒ぎを感じているところに、再びミラルパが闇となって襲いかかりますが、チククが不思議な力でこれを阻止します。チヤルカは魂が戻ったミラルパを逃し、粘菌もろとも艦を焼き払おうとしますが、粘菌に捕まってしまいます。そこに現れたナウシカがチヤルカを助け艦を爆破して脱出しますが、生き残った粘菌は地上に落ちて再び繁殖しはじめました。

第三場 聖都シュワの場

ミラルパは浴槽の中で体を癒やしていましたが、肉体がすでに限界にきており当分動けなくなっていました。長年弟に屈してきた皇兄・ナムリスは、このときとばかりに弱った弟・ミラルパを殺して皇帝の座に着きます。新たな帝国を作るという野心に燃えるナムリスは、ヒドラと呼ばれる人工の生物を兵士とし、巨神兵をも復活させようとしていました。

第四場 チャルカの船司令室の場

粘菌がどんどん広がり土鬼の国土を食い尽くして行く様子にチャルカはどうすることもできません。粘菌の心の叫びを聞いたナウシカは、粘菌が憎しみと恐れしか知らない生き物だということを知り、少しでも多くの人を救うためになんとか大海嘯を止めなければと王蟲たちのもとへ向かいます。ナムリスがトルメキアへの進軍を開始したことを知ったチャルカは、ナウシカの心に触れて愚かな戦争を止めなければと決意するのでした。

第五場 トルメキア軍 カボの基地の場

自らの第三軍を取り戻したクシャナは、こんどは艦を奪うためにカボのトルメキア基地へ襲撃をかけます。そこへ蟲の大群が近づいていると知ったクシャナは、すぐに出発しようとしますが、兄の第三皇子が現れ形勢が逆転してしまいます。兄に自らの母を侮辱されたクシャナは激怒しますが、クロトワが間に入り裏切ったふりをしてクシャナを助け、自身は銃弾に倒れます。逃げようとした第三皇子の艦が蟲の大群に襲われ墜落するのを見届けたクシャナも蟲に囲まれ死を覚悟しますが、蟲たちはクシャナを殺さずに行ってしまいました。クシャナが上げた信号弾を見て駆け付けたのはユパとアスベル達。アスベルはクシャナを敵と斬りかかろうとしますが、クシャナはユパに自らの命を預けるので兵たちを艦にのせてほしいと頼みます。真の王道を歩む者がいなければ世界は滅ぶとクシャナはユパに語りますが、そこへヒドラたちが現れクシャナをさらっていき、ユパが後を追います。アスベルとケチャは大海嘯の気配を感じ、ナウシカの元へと急ぐのでした。

第六場 大海嘯の場

大海嘯を目の前にして不敵な笑みを浮かべるナムリス・・・もはや止める術はないのでしょうか。

五幕目 浄化の森

腐海の森のイメージ

第一場 粘菌合流地点の場

【所作事 重懐青黄昏たたなづくあおきまほろば
王蟲の抜け殻の目を持って現れたナウシカが、大海嘯を止めるため王蟲を鎮めようと舞を踊ります。

第二場 腐海の森の場

誰かが呼ぶ声でナウシカが目覚めると、闇がナウシカの心に入り込もうとしてきました。しかし、ふたたび誰かの声によりナウシカは闇を払いのけます。そこに現れたのが森の人・セルム。大海嘯を止められなかったと嘆くナウシカに、セルムは秘密を明かすために来たと語り腐海の森へと誘います。胸騒ぎを感じながらもナウシカはセルムについて森の奥へと入って行くのです。

第三場 腐海の尽きる所の場

ナウシカが行き着いたところは、美しい水と空があり、木々や鳥たちが生きる清浄の地でした。セルムは、ここが腐海の尽きる所であり、こうなるまで千年の時がかかる、腐海は大いなる命であり、大海嘯は終わりではなく汚れなき世界の始まりでもあると語ると、向こうで待っているとナウシカに伝えて行ってしまいました。しかし、ナウシカは千年後に人類が滅びずに生き残っていたら、そのときにはこの汚れなき地に来ると言って仲間たちの待つ世界へと戻っていくのでした。

第四場 元の粘菌合流地点の場

息絶えた王蟲の死骸から新たな腐海の森が誕生していきます。そこにセルムが現れ倒れているナウシカを助け起こすと、森へ帰ると言い、心を共にするナウシカに共に生きようと伝えます。しかし、ナウシカはこの世界に残ると言い、セルムも「あなたは森と人をつなぐ架け橋です」と言い残して森の奥へと去っていきました。そこへチククとチャルカ、蟲使い達が現れ、ナウシカと共に行くことを誓うのです。



六幕目 巨神兵の覚悟

巨神兵のような岩

第一場 トルメキア王都トラス ヴ王宮殿玉座の間の場

道化が再び登場し、トルメキア王宮の内情を語ります。戦に破れて戻ってきた第一皇子と第二皇子の前にヴ王が現れ、逃げ帰ってきた二人を叱責します。言い訳する二人を一喝したヴ王は、巨神兵を手に入れ世界の王となるために土鬼の首都・シュワの墓所へ自ら出陣することを宣言します。

第二場 土鬼民衆蜂起の場

土地を粘菌によって失った土鬼の民たちがいがみあっているところにチャルカが現れ、ナウシカの声を聞くように伝えます。ナウシカは憎しみ合うことをやめるように皆に訴えます。アスベルが秘石をナウシカに託すと、ナウシカは巨神兵を止めるために一人旅立つのでした。

第三場 土鬼皇兄ナムリス婚礼の場

クシャナを捕らえたナムリスは、クシャナを妻に迎え土鬼とトルメキアの二重帝国を作ると告げると、クシャナもこれを承諾します。自らの野望に邁進するナムリスの前に秘石を持ったナウシカが現れ、ユパも加勢して巨神兵の復活を阻止しようとしますが、秘石に呼応した巨神兵が動き出します。ナムリスはナウシカに、「巨神兵を使って世界を救って見せろ」と言い残すと艦から落ちていきました。巨神兵の心を読んだナウシカが秘石を返すと、巨神兵はナウシカのことを母と呼び、ナウシカは巨神兵を「オーマ」と名付けます。ナウシカはオーマとともにシュワの墓所を目指し、クシャナやユパもシュワで再び会うことを誓うのでした。



大詰め シュワの墓所の秘密

中世ヨーロッパ風のトルメキア軍

第一場 土鬼山地の場

クシャナが土鬼の山地に残した自らの軍の元にユパと共に戻ってきました。クシャナはナムリスの遺骸を土鬼の長老たちに引き渡すと、シュワの墓所に行くために艦を貸してほしいと伝えます。クシャナは土鬼の民には決して手を出すなとクロトワに命じますが、トルメキアを恨むマニ族の者たちが襲ってきます。クシャナをかばったユパが撃たれ、クシャナも争いは避けられぬと覚悟しますが、そのときユパの体にマニ僧正の魂が入り、争ってはならぬと民たちに訴えました。後のことをナウシカに託してユパは息絶えます。

そのころナウシカはオーマの発する毒で体が弱っていました。そこへ現れた謎の人物がナウシカをどこかへいざないます。

第二場 ヒドラの庭の場

ナウシカが来たのは、美しい花が咲き鳥や動物たちが穏やかに暮らす美しい庭園でした。そこにナウシカの亡き母が現れ、何も心配することはないとナウシカに語りかけますが、ナウシカは実の母ではないと気が付きセルムに救いを求めます。そこにセルムの魂が現れ、ナウシカの母・庭園の主の正体はヒドラであると喝破し、ナウシカの心が闇に落ちないように励まします。腐海が生まれた真実に気がついたナウシカに、庭園の主はシュワの墓所にその秘密があると告げて去っていきます。セルムの魂が共にあることを感じながら、ナウシカはシュワの墓所に向かいます。

第三場 シュワ場内墓所社頭の場

巨神兵オーマとシュワの墓所が激しい撃ち合いを繰り広げ荒廃したたシュワの都にトルメキアのヴ王と道化が現れます。そこに覆面をした謎の男たちが現れ、新たな王を墓の主の元へと案内すると言い、ヴ王と道化は墓の主の元へと向かいます。

第四場 墓所の主の場

文字が書かれた波打つ肉の塊の前に案内されたヴ王たちの前に神官が現れ、これこそが墓の主の御神体だと語ります。新しい王は墓の主が選ぶのでそれまで待てと言う神官に怒ったヴ王は切りつけますが、不死の肉体を持つ神官は死にません。そこへナウシカが現れ墓の主を呼び出すと、墓の主は苦しみの世界が終わるまでこの光を絶やすなとささやきます。しかし、ナウシカがそれは偽りであると言い放つと、墓の主は道化の体に乗り移って真実を語りだします。新しく生まれる汚れなき人間が新たな世界をつくると語る墓の主に、ナウシカは清さも汚れもあるのが人間だと反論し、今の世界の人間である自分たちが生きることの意義を訴えます。ついに墓の主の精が姿を現し、ナウシカを殺そうとしますがヴ王がナウシカをかばって倒れます。ナウシカがオーマの精を呼び出すと、墓の主の精と激しく争います。最後はナウシカの手によって墓の主は闇へと返り、オーマも力尽きました。

第五場 エピローグ

チャルカとチククは、シュワの墓所が滅び墓の主もオーマも闇に返ったことを知ります。ナウシカは青き衣を纏って現れ、クシャナをヴ王に引き会わせます。瀕死のヴ王はクシャナに王位を譲ることを宣言し、一人も殺してはならぬとクシャナに言い含め、ナウシカに早く会いたかったと言い息を引き取ります。クシャナは王道を開くためにトルメキアに戻ると言い、それぞれの者がこれからなすべきことに決意を表します。ナウシカは亡くなった多くの命を悲しみながら、それでも歩き続けることを誓うのでした。

より詳しく内容を知りたい方は原作漫画「風の谷のナウシカ」をご覧ください。

漫画「風の谷のナウシカ」全7巻

なぜ「ナウシカ」を歌舞伎にしたのか?

これまでも「ワンピース」(2015)や「ナルト」(2018)などの人気アニメ作品が歌舞伎化され、プロジェクションマッピングなど現代の技術を駆使したダイナミックで派手な演出もあって、歌舞伎を知らない若い世代へ「歌舞伎」をアピールすることに成功してきました。

しかし、ナウシカを歌舞伎化するにあたっての菊之助の考え方は、極めて伝統的な「古典歌舞伎」の手法で後世に長く残る作品にしたいということのようです。

菊之助「先人たちが築き上げてくださったものを次の世代に渡していく、古典の引き出しを開けて漫画の世界から立体的に立ち上がらせていただこうというふうに思っています」「とにかく古典に落とし込んで、歌舞伎だったらこうだよ。ジブリの作品を江戸時代の歌舞伎役者だったらどういうふうに考えるんだろうという視点で僕は考えていきたいんですよね」NHK ETV特集 2020/1/25放送

では、なぜ「ナウシカ」を選んだのかというと、

菊之助「宮崎監督が1982年に書いた作品が、まさに時代が作品に追いついたような感じがしていて、ナウシカという少女を通してそのすごい深いテーマを訴えてる。この作品の魅力に私は魅了されています。」NHK ETV特集 2020/1/25放送

という風に菊之助は語っており、単に「風の谷のナウシカ」が好きだというだけでなく、今の時代に歌舞伎として演じるのにふさわしい壮大さと深いテーマ性をもった作品だと感じたからのようですね。

【達人メモ その1】
2019年公演の三日目にナウシカを演じる菊之助が左腕を骨折するというアクシデントに見舞われます。しかし、翌日からはギプスで腕を固定し、宙乗りをなくすなど演出に変更を加えて舞台に復帰し、そのまま千穐楽まで勤めています。このへんにもナウシカ歌舞伎を絶対に成功させたいという菊之助の強い思いが感じられますね。

見どころは歌舞伎ならではの演出!

宙乗りで鳥のように空を飛ぶ
ナウシカ歌舞伎は、原作の持つ壮大なストーリーや独特なキャラクターの魅力はもちろんですが、古典歌舞伎の様々な演出を巧みに取り入れているところも大きな見どころとなっています

特に歌舞伎を初めて見る人は、ちょっと知っておくとより楽しめるものになりますよ。

まず、歌舞伎のケレンと呼ばれる見世物的でアクロバティックな要素を持つ演出を紹介します。

【宙乗り】
ワイヤーで役者が宙に釣り上げられる演出のこと。ナウシカがメーヴェで飛行しながら旅立つ場面で使用。

【ぶっ返り】
登場人物が隠していた本性を現すときに衣装が裏返って模様が変わる演出。皇弟ミラルパがナウシカを襲うために生霊になる場面で使用。

【本水(ほんみず)】
本物の水を大量に舞台上に吹き出す演出。役者はずぶ濡れになり観客にも水がかかる。ユパとアスベルが王蟲の培養されている水槽を破壊するときに使用。

【引き抜き】
上に来た衣装を後見が後ろから糸を抜くことで一瞬で衣装を変える演出。ナウシカのピンクの服が青き衣へと変わる場面などで使われている。

他にも歌舞伎ならではの多くの演出がナウシカの舞台を盛り上げています。

【留め女(男)】
歌舞伎の「鞘当さやあて」などで見られる、争う二人の男の間に割って入って止めるときの役のこと。原作のナウシカではトルメキア兵とナウシカの闘いをユパが身を挺して止める場面があり、ナウシカ歌舞伎ではこの場面でユパが「留め男」を演じている。

【飛び六方(とびろっぽう)】
「勧進帳」の弁慶が花道を飛び跳ねるように下がっていくのが有名。アスベルとユパが王蟲の培養水槽を破壊した後、二人で花道を退場するときに行っている。

【遠見(とおみ)】
舞台の奥を遠く離れているように見せるために同じ衣装を来た子役を使う演出。メーヴェに乗ったナウシカ(菊之助)が舞台袖に下がってからナウシカの格好をした子役が小さいメーヴェに乗って登場するところで見られる。

また、古典歌舞伎の様々な演目の要素を随所に取り込んでいるのも大きな特徴です。

ナウシカが王蟲の子供を助けようとして心を通わせていく場面では、古典歌舞伎では花や木が心を持つ精霊として現れ舞い踊るという演出があるのを利用して、子役が演じる王蟲の子供の精を登場させナウシカと舞い踊ります。

たくさんの王蟲が粘菌に飲み込まれて死んでいく場面では、絶望し死を覚悟したナウシカが、悲しみだけでなくかつては喜びがあったことも表現するために、歌舞伎舞踊の藤娘で踊りが変わることで違う心情を表現するという技法が使われ、踊りには京鹿子娘道成寺で使う振り出し傘や、鷺娘のぶっ返りなどの演出も取り入れられています。

舞台装置では土鬼の戦艦のデザインが将門の舞台を元に作られていたり、テーマ音楽は100曲以上和楽器で編曲。他にもナウシカの衣装を歌舞伎で使う狩衣(かりぎぬ)をアレンジし、闘いのイメージを出すために歌舞伎の立ち会いで登場する四天が裾につけている房糸である馬簾(ばれん)を使うなど、様々な工夫を重ねながら原作のイメージを壊さないで、かつ歌舞伎に見えるようにしているのです

また、歌舞伎の定式幕(黒、柿、萌黄色の三色の幕)の代わりに、原作で描かれている蒼き衣の者の伝承を伝えるタペストリーが巨大な幕として再現され、昼の部夜の部ともに最初のプロローグの口上で物語の説明に使われています。

このように古典歌舞伎の手法で漫画のナウシカを表現するために、役者と裏方さんたちが様々な苦労を本番直前まで重ねながら、新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」は2019年12月に公開されました。

【達人メモ その2】
スタジオジブリのプロデューサー鈴木敏夫は、最初にナウシカ全7巻を歌舞伎にすると聞いたとき「無謀だと思った」そうですが、菊之助やスタッフたちの熱意にうたれ応援するようになります。衣装や舞台背景などの相談にものっており、宮崎駿は本当は腐海の森にピンク色を入れたかったという話をし、実際に歌舞伎の舞台で実現しています。

2019年と2022年は何が違う?

コロナ禍も落ち着いてきた2022年7月に「風の谷のナウシカ」が歌舞伎座で再演されることが決定しました。通し上演ではなく前半部分をメインにクシャナを中心とした物語を「上の巻」としての上演となります。

ここでは2019年と2022年の舞台の違いを、時間の都合などでカットされたと思われる場面以外での違いを紹介します。

キャストの違い

2022年はメインキャストに大きな変更がありました。

【クシャナ】中村七之助→尾上菊之助
【ナウシカ】尾上菊之助→中村米吉
【ユパ】尾上松也→坂東彌十郎
【クロトワ】片岡亀蔵→中村吉之丞
【ケチャ】中村米吉→中村莟玉

今回はクシャナがメインの物語になるので、尾上菊之助がクシャナを演じることになります。しかし、前回の中村七之助のクシャナの存在感がとてつもなく大きく、ファンからも「クシャナ殿下は実在した!」などと激賞されていました。菊之助は七之助以上のクシャナを演じることが要求されますが、簡単ではなさそうです。

その菊之助に代わってナウシカを演じるのは中村米吉です。前回はケチャで出演しており、菊之助のナウシカの演技を間近に見ているので適役と言えますが、前回菊之助が演じたナウシカの心情をどれだけ表現できるのかに期待されます。

他にはユパを大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で注目された坂東彌十郎、クロトワを前回第三皇子などを演じた中村吉之丞、ケチャを中村莟玉が演じます。前回出演していない彌十郎と莟玉がどんな演技を見せるのかも注目です。

また、菊之助の二人の子供も出演することになっており、長男・尾上丑之助が幼き王蟲の精、長女の寺嶋知世が幼き日のナウシカを演じます。

演出・セリフなどの違い

演出やセリフなどにも細かい変更が加えられているので、そのうちいくつかを紹介します。

風の谷にクシャナ率いるトルメキア軍が侵攻してきたとき、ナウシカが巨体の装甲兵と立ち回りを演じる場面があります。この場面は2019年の初演時ではユパがすぐに間に入って止めていましたが、2022年のときは立ち回りの時間が長くなり、ナウシカが装甲兵の背中に刀を突き立てるという、実際に原作にある場面が追加されました。

他にも、2022年の舞台で原作にある内容が追加されたのは、

●「チコの実」をナウシカからもらって食べたアスベルが「長靴いっぱい食べたいよ」というセリフ
●クシャナが亡くなった兵達へ自らの髪の毛を切って手向けにするという場面

他にも、アニメ版でクシャナが「おぞましきものを見るだろう」と言ったセリフをナウシカを探しに行くミトに対して言う場面や、クシャナがクロトワが自分を殺すために派遣されたことを追及する場面で隠れていた刺客を撃ち殺すという原作にない場面が追加されるなど、原作だけでなくアニメ版の内容を取り入れたり、舞台で見せるための演出を考えて構成し直されているようです。

風の谷のナウシカ」が古典歌舞伎として長く受け継がれていくために、これからも様々な改良を加えながら上演され続けてほしいものですね。

ナウシカ歌舞伎の上演情報

新橋演舞場で上演された風の谷のナウシカのポスター

2019年12月 新橋演舞場

2019年12月の新橋演舞場で、「風の谷のナウシカ」が初演されました。その時の上演情報を紹介します。

新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」 ※公演終了
日時
令和4年(2019年)12月6日(金)~25日(水)
昼の部 午前11時~
夜の部 午後4時30分~
※貸切日 9日(月)、10日(火)、11日(水)
劇場
新橋演舞場
昼の部
演目
風の谷のナウシカ
除幕 蒼き衣の物、金色の野に立つ
 第一場 プロローグ(口上)
 第二場 腐海の場
 第三場 風の谷場内広場の場
 第四場 ナウシカの実験室
 第五場 空中ガンシップの場
 第六場 腐海・森の奥の場
 第七場 腐海・森の底の場
 第八場 酸の湖・トルメキア軍宿営地の場
 第九場 土鬼マニ族浮遊砲台の場
 第十場 元の酸の湖・トルメキア軍宿営地の場
 第十一場 酸の湖・中州の場
二幕目 悪魔の法の復活
 第一場 工房都市セム酒場の場
 第二場 腐海・土鬼の基地 王蟲培養室の場
 第三場 腐海・荒野の場
三幕目 白き魔女、血の道を征く
 第一場 空中・トルメキア装甲コルベット操舵室の場
 第二場 サパタ都城城外 土鬼攻城砲台の場
 第三場 サパタ都城城外 トルメキア軍本陣の場
 第四場 サパタ都城城外 戦場攻城砲台の場
配役
【ナウシカ】尾上菊之助
【クシャナ】中村七之助
【ユパ】尾上松也
【ミラルパ】坂東巳之助
【アスベル/口上】尾上右近
【ケチャ】中村米吉
【ミト】市村橘太郎
【クロトワ】片岡亀蔵
【ジル】河原崎権十郎
【城ババ】中村萬次郎
【チャルカ】中村錦之助
【マニ族僧正】中村又五郎
【王蟲の声】市川中車
夜の部
演目
風の谷のナウシカ
四幕目 大海嘯
 第一場 プロローグ(口上)
 第二場 土鬼戦艦玉座の場
 第三場 聖都シュワの場
 第四場 チャルカの船司令室の場
 第五場 トルメキア軍 カボの基地の場
 第六場 大海嘯の場
五幕目 浄化の森
 第一場 粘菌合流地点の場
 第二場 腐海の森の場
 第三場 腐海の尽きる所の場
 第四場 元の粘菌合流地点の場
六幕目 巨神兵の覚悟
 第一場 トルメキア王都トラス ヴ王宮殿玉座の間の場
 第二場 土鬼民衆蜂起の場
 第三場 土鬼皇兄ナムリス婚礼の場
大詰め シュワの墓所の秘密
 第二場 ヒドラの庭の場
 第三場 シュワ場内墓所社頭の場
 第四場 墓所の主の場
 第五場 エピローグ
配役
【ナウシカ】尾上菊之助
【クシャナ】中村七之助
【ユパ】尾上松也
【セルム/墓の主の精】中村歌昇
【ミラルパ/ナムリス】坂東巳之助
【アスベル/オーマの精】尾上右近
【道化】中村種之助
【ケチャ】中村米吉
【第三皇子/神官】中村吉之丞
【上人】嵐橘三郎
【クロトワ】片岡亀蔵
【チャルカ】中村錦之助
【ヴ王】中村歌六
【墓所の主の声】中村吉右衛門

>>2019年12月 新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」の詳細はコチラ

歌舞伎座「七月大歌舞伎」

2022年7月の歌舞伎座「七月大歌舞伎」第三部で、「風の谷のナウシカ」が「上の巻」として上演されます。前回ナウシカを演じた尾上菊之助は、今回クシャナを演じ、ナウシカには中村米吉が抜擢されました。長男の尾上丑之助は幼い王蟲の精、長女の寺嶋知世が幼いナウシカを演じます。

歌舞伎座「七月大歌舞伎」 ※公演終了
日時
令和4年(2022年)7月4日(月)~29日(金)
※休演日 11日(月)、20日(水)
劇場
歌舞伎座
第三部 午後6時30分〜
演目
風の谷のナウシカ
上の巻
ー白き魔女の戦記ー
配役
【クシャナ】尾上菊之助
【ナウシカ】中村米吉
【アスベル/口上】尾上右近
【ケチャ】中村莟玉
【幼い王蟲の精】尾上丑之助
【幼きナウシカ】寺嶋知世
【クロトワ】中村吉之丞
【ミト】市村橘太郎
【ジル】河原崎権十郎
【城ババ】中村萬次郎
【チャルカ】中村錦之助
【ユパ】坂東彌十郎
【マニ族僧正】中村又五郎

>>歌舞伎座「七月大歌舞伎」の詳細はコチラ

衛星劇場

CSテレビで歌舞伎の舞台を多く放送している衛星劇場で、2023年11月3日に新橋演舞場で上演された新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」が放送されます。

>>衛星劇場 新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』

まとめ:ナウシカ歌舞伎は受け継がれて古典歌舞伎へ

新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」について解説してきましたがいかがでしてでしょうか?

尾上菊之助が5年の歳月をかけて多くの役者やスタッフとともに作り上げた新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」は、全7幕35場の長編歌舞伎でした。

人気漫画のイメージを壊すことなく、伝統的な古典歌舞伎の様々な手法や演出を駆使して作られたこの作品は、多くのファンに喝采を浴びましたが、菊之助が目指す古典歌舞伎として語り継がれる演目になるかどうかはこれからです。

2022年7月に歌舞伎座で再演されることになり、まさにその一歩を踏み出したばかりのナウシカ歌舞伎を観劇するのは、新たな歌舞伎の歴史を目撃することになるかもしれませんね。

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