【義経千本桜】狐忠信が宙を飛ぶ!四の切・川連法眼館のあらすじ解説【歌舞伎演目】

【義経千本桜】狐忠信が宙を飛ぶ!四の切・川連法眼館のあらすじ解説【歌舞伎演目】

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四の切しのきりとは、歌舞伎三大名作の一つに数えられる全五段の演目「義経千本桜よしつねせんぼんざくら」の四段目の最後にあたる、「川連法眼館かわつらほうげんやかたの場」を略した呼び方です。

狐の化身が主人公として活躍し、歌舞伎の特殊な演出であるケレンが数多く見られることでも人気の演目です。

この記事では、四の切あらすじ見どころについて、初めて見る人にもわかりやすく解説し、上演情報DVDについても紹介していきます。

義経千本桜・川連法眼館【四の切】とは?

義経千本桜・川連法眼館(四の切)の歌舞伎座絵看板
義経千本桜」は江戸時代の寛延元年(1748年)に中村座で初演された時代物の演目で、竹田出雲(二代目)、三好松洛、並木千柳の三人の作者による合作です。

平家滅亡後を描いた全五段の大作で、通しで上演されることもありますが、人気のある「鳥居前」(二段目)、「大物浦」(二段目)、「すし屋」(三段目)、「吉野山」(四段目)、「四の切」(四段目)が単独で上演されることも多くなっています。

四の切しのきり」とは略称で、正式には「川連法眼館かわつらほうげんやかた」と言います。この「四の切」という呼び方の由来は、「」の最後の場面を「切場きりば」と言い、川連法眼館は義経千本桜の四段目の最後にあたる場面であるので「四の切」と呼ぶようになったそうです。

登場人物紹介

源九郎狐げんくろうぎつね狐忠信きつねただのぶ
源義経の家臣・佐藤忠信の姿に化けて静御前の警護をしている狐。静御前が「初音の鼓はつねのつづみ」を打つとどこからともなく現れる。実はこの鼓は雨乞いの儀式のために源九郎狐の親狐の生き皮で作られている物。
静御前しずかごぜん
源義経の愛妾。兄・頼朝に追われる身となって都を落ち延びた義経を追って狐忠信と共に旅をしている。川連法眼の館で義経と久々の対面を果たす。
源九郎判官義経みなもとくろうほうがんよしつね
源氏の武将・源義経。平家討伐に活躍するも、兄・頼朝の不興を買って逃亡中。愛する静御前の護衛を狐が化けているとは気づかず佐藤忠信(狐忠信)に任せ、自分を支持する川連法眼の館に潜伏中。
佐藤四郎兵衛忠信さとうしろうびょうえただのぶ
義経の忠臣。母の病気見舞いと自身の療養のために故郷に帰っていたが、義経が頼朝に追われていることを知って急いで義経のもとに参上する。義経に静御前のことを聞かれても身に覚えがなく困惑する。
駿河次郎するがじろう
義経の配下の四天王の一人。顔の色は白色の落ち着いた大人の男性役

亀井六郎かめいろくろう
駿河と同じく義経の配下の四天王の一人。赤い顔は「赤っ面」と呼ばれる激しく荒々しい性格を表す
川連法眼かわつらほうげん
川連法眼館の主。幼少の義経が預けられていた鞍馬山の僧侶の弟子の一人。義経にとっては兄弟子に当たる人物。



義経千本桜「四の切」のあらすじ

源氏の武将・源義経とその家来たちは、兄・頼朝に謀反を疑われて吉野山中の川連法眼の館に身を隠していました。

そこへ義経の忠実な家来である佐藤忠信が、主君の窮地を知り急遽駆けつけ、久々の主従の対面を果たします。

忠信との再会を喜ぶ義経は、都を離れる前に愛妾の静御前の護衛を忠信に任せていたので彼女の安否を尋ねます。

ところが、忠信は自分は母親の看病と自らも破傷風にかかってその養生のために故郷に帰っていたので、静御前のことは何も知らないと言うのです。

これを聞いた義経は、忠信が頼朝側に寝返ったのではないかと疑い、家来の駿河次郎亀井六郎を呼び出し忠信を問い詰めます。

忠信が困惑していると、今度は静御前と佐藤忠信が館に到着したとの知らせが入り、ますます不審に思った義経は亀井に命じて様子を探りに行かせます。

そこへ静御前が一人現れ、愛しい義経との再会を喜びますが、その場にいる忠信を見て「どうして先に来ているの?」と驚くのです。

戻ってきた亀井は「静御前と一緒だった忠信の姿が消えた」と言うので、義経は静御前に忠信の様子を尋ねます。するとどうやら、この場にいる忠信と静御前と一緒だった忠信は別人のようなのです。

静御前が言うには、同行していた忠信は姿が見えなくなっても「初音の鼓」を打つと必ず姿を見せていたとのこと。

そこで義経は、目の前にいる忠信は館の奥で詮議し、もう一人の忠信は静御前が初音の鼓を打って呼び出し、もし怪しい者であれば討ち取るようにと静御前に小刀を手渡します。

義経たちが奥へ下がり、ひとり残った静御前が鼓を打つと、どこからともなく忠信が姿を現しました。

しかし、どうも様子がおかしいので、静御前が隙きを見て忠信に切りかかると、ニセ忠信はとうとう正体を明かし、自分はかつて雨乞いの儀式のために生き皮を「初音の鼓」にされた狐夫婦の子供(源九郎狐)だと言うのです。

源九郎狐は、「初音の鼓」は自分にとって親のようなものなので、忠信の姿に化ければ静御前の持つ初音の鼓のそばに付き従うことができると思ったと言います。

しかし、今まで静御前や義経を騙していたことを侘び、初音の鼓の響きの中に、「義経たちに迷惑にならぬよう古巣へ帰るように」と親狐の言う声が聞こえたと言って再び姿を消してしまいます。

このやりとりを奥で聞いていた義経は、自らの境遇と照らし合わせて源九郎狐の立場を悲しみ、静御前と共に涙します。そしてもう一度鼓を叩いて呼び出すよう静御前に命じますが、なぜか鼓は鳴りません。

すると、突如天井の欄間から姿を消した源九郎狐が出現します。

義経は、源九郎狐の親を思う心と静御前の護衛を務めたことの褒美として、「初音の鼓」を与えます。

源九郎狐は大喜びで鼓と戯れ、お返しに吉野山の悪僧たちが義経を討とうと夜討ちしてくることを教え、鼓とともに古巣へと帰っていくのでした。

見どころは派手なケレンの連続

義経千本桜の中でも、四の切では狐忠信が「」の本領を発揮する場面となっているので、ケレンと呼ばれる歌舞伎特有の派手な演出が多く使われ、狐忠信が意外なところから突然登場したりして観客を大いに沸かせます。

  • 階段から突然出現・・・「出があるよ!」という掛け声がかかり花道に明かりがつき、観客がそちらに気を取られた一瞬に舞台上の階段裏から狐忠信が登場
  • 早替り・・・藤色の裾をぼかした長袴姿の狐忠信が床下に消えると、一瞬で真っ白な毛縫いの白狐の衣装に早替りした源九郎狐として縁の下から登場。また、源九郎狐が姿を消した後、本物の忠信に替わって窓から顔を出す
  • 欄干渡り・・・狐の姿で細い欄干(てすり)の上に乗り、ちょこちょこと跳ねるように渡って行く
  • 黒御簾にダイブ・・・親の鼓に涙の別れをした源九郎狐が黒御簾の中に飛び込んで消える
  • 欄間抜け・・・一度舞台から消えた源九郎狐が天井の欄間を抜けてくるりと一回転して着地
  • すっぽんから登場・・・花道の七三しちさんと呼ばれるところからせり上がって来る
  • 狐六方・・・狐のような身振りの六方で花道を引っ込んで退場する。宙乗りで引っ込むのを「宙乗り狐六方」と言う

他にも、片膝立ちでブレイクダンスのようにくるくる回ったり、吊りあげられて桜の木に登ったりもします。

歌舞伎のアクロバティックなケレンを存分に味わえるのは、義経千本桜「四の切」の大きな見どころになっています。

また、狐忠信本物の佐藤忠信同じ役者が演じるのも重要なポイントです。

本物の忠信は、忠義に厚い武士らしさを表現し、狐忠信では狐っぽさを表現しなければならず、その演じ分けも大きな見どころになります。

特に狐らしく見せる演技は他にはないため、語尾を上げたかわいらしい声で早口で喋ったり、手を軽く握って狐を表現したり(狐手)、神通力を使って悪い僧兵たちをこらしめたりと、様々に工夫が凝らされているので注目です。

そして、源九郎狐が親を慕って初音の鼓に戯れる姿は、狐の親子の愛情の深さが心にしみるいい話であり、家族の愛情に恵まれなかった義経の前では一層涙を誘う物語となっています。

「四の切」といえば市川猿之助

四の切(川連法眼館の場)の最後の場面では、義経から初音の鼓をもらった源九郎狐が古巣に戻っていくところを、歌舞伎の演出の中でも特徴的な「宙乗り」で花道の上を引っ込んで行くことがあります。

この演出は江戸時代から行われていましたが、一時期は派手なケレンの演出を避ける傾向から行われなくなっていました。

この「宙乗り」の演出を現代に復活させたのが三代目市川猿之助(現・猿翁)です。

当時、三代目猿之助の派手な演出は「喜熨斗きのしサーカス」(喜熨斗は猿之助の本名・木下サーカスとかけている)と呼ばれて揶揄されることもありましたが、実際の舞台では猿之助の「宙乗り」は観客に大好評でした。

三代目猿之助は生涯でなんと5,000回もの「宙乗り」を行いギネスブックにも登録されており、現代では他の役者も「四の切」で宙乗りを行っています。

四代目市川猿之助もこの「宙乗り」の演出を受け継いで得意芸としていました。もう一度四代目猿之助の狐忠信を見られるといいのですが・・・。



義経千本桜は歌舞伎三大名作の一つ

歌舞伎の演目の中でも特に人気があり、江戸時代から何度も上演されている時代物の大作三作品を、「三大名作」と呼んでいます。

最初は人形浄瑠璃として大阪の竹本座で上演されますが、人気があったのですぐに歌舞伎化されました。人形浄瑠璃を元にした歌舞伎の演目は義太夫狂言ぎだゆうきょうげんと呼ばれます。

人形浄瑠璃として初演された順番に紹介すると、

菅原伝授手習鑑すがわらでんじゅてならいかがみ(1746年)
仮名手本忠臣蔵かなでほんちゅうしんぐら(1747年)
義経千本桜よしつねせんぼんざくら(1748年)

となり、作者は竹田出雲(菅原伝授は初代、他は二代目)、三好松洛、並木千柳の三人の合作となっています。

「菅原伝授手習鑑」は全5段、「仮名手本忠臣蔵」は全12段、「義経千本桜」は全5段と三作品とも長編なので、現在は全編を通しで上演することは少なくなり、特に人気のある演目を単独で上演することが多くなっています。

「菅原伝授手習鑑」では「寺子屋」「車引」、「忠臣蔵」では「勘平腹切」「祇園一力」、「義経千本桜」では「大物浦」「吉野山」「四の切」などが人気があり、よく上演される演目です。

義経千本桜・四の切上演情報

歌舞伎三大名作の義経千本桜・四の切の最近の舞台での上演情報を紹介します。

2024年3月 名古屋平成中村座

2024年3月の名古屋・同朋高校で行われる「名古屋平成中村座 同朋高校公演」で「義経千本桜・川連法眼館(四の切)」が上演され、中村勘九郎なかむらかんくろうが狐忠信を演じます。

義経千本桜・四の切が見られるDVD

三代目市川猿之助(現・猿翁)が狐忠信を演じて、宙乗りの演出を見せてくれるDVDを紹介します。静御前は坂東玉三郎、義経は市川門之助が務め、「四の切」の後に続く「奥庭の場」と「蔵王堂花矢倉の場」も収録されています。


歌舞伎名作撰 義経千本桜 四の切 [DVD]

まとめ:狐の親子愛が心にしみる「四の切」は必見

歌舞伎三大名作の一つ、義経千本桜川連法眼館(通称・四の切)について解説してきましたがいかがでしたでしょうか。

主人公の狐忠信の演技には、歌舞伎の特徴的な演出・ケレンが豊富に使われており、そのアクロバティックな動きは観るものを驚かせます。

また、派手な演出とは裏腹に、狐の親を思う愛情が心にしみる物語でもあり、兄に追われる身となった源義経静御前の境遇にも涙を禁じえないものがあります。

江戸時代から続く人気演目の「四の切」を、ぜひ一度歌舞伎の舞台で堪能してくださいね。

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