色彩間苅豆(いろもようちょっとかりまめ)〜かさねの怨念が恐ろしい歌舞伎演目
色彩間苅豆(通称・かさね)とは、歌舞伎にはよくある読み方の難しいタイトルの演目ですが、内容は幾重にも重なる罪の因果に翻弄される男と女を描いた作品で、ちょっと怖い怪談話です。
この記事では、歌舞伎舞踊の演目・色彩間苅豆の登場人物とその相関図や、あらすじ、見どころを、見たことがない方にもわかりやすく解説し、実際の歌舞伎の舞台で見られる上演情報なども紹介します。
目 次
色彩間苅豆(いろもようちょっとかりまめ)とは
本外題(正式名称)は「色彩間苅豆」ですが、通称「かさね」と呼ばれることが多い演目です。男女の複雑な人間ドラマが描かれますが、実は世話物ではなく舞踊の演目に分類されます。
文政6年(1823年)6月の江戸森田座で初演されました。もともとは、怪談物を得意とする歌舞伎作者・鶴屋南北が、醜い村娘・累が自分を殺した男を祟るという説話をもとに書いた「法懸松成田利剣」という長編演目の一節です。
しばらく上演が途絶えていましたが、大正9年(1920年)に六代目尾上梅幸と十五代目市村羽左衛門が復活上演して人気になり、その後は六代目梅幸型と六代目菊五郎型が現在まで伝えられています。
登場人物と相関図
与右衛門 |
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色悪と呼ばれる二枚目だが女を裏切ったり殺したりする冷酷な役。元は久保田金五郎という武士だったが、百姓助の妻・菊と密通し、それに気づいた助を鎌で殺害して、今は百姓に身をやつしている。助と菊の娘だとは知らずに腰元のかさねとも不義密通し、心中の約束をして故郷の羽生村に戻っている。 |
腰元 かさね |
助と菊の娘で与右衛門と同じ家中の美しい腰元。与右衛門と密通してその子供を腹に宿しており、心中してほしいと与右衛門を追ってくる。ちなみに与右衛門の17歳年下になる。 |
百姓助 |
かさねの父親。妻の菊と与右衛門が密通していることを知ったことで、与右衛門に鎌で殺されている。舞台には登場しないが、鎌が刺さった助のドクロと卒塔婆(供養のために用いる細長い板)が川に流れてくる。 |
菊 |
助の妻でかさねの母。与右衛門と密通していた。舞台には登場しない。 |
捕手・沢田と飯沼 |
罪を犯した与右衛門を捕らえようとする役人。与右衛門ともみ合い書状(逮捕状)を落としてしまう。 |
あらすじ
物語の舞台は下総国羽生村(現在の茨城県常総市)。
百姓与右衛門は、かつては久保田金五郎という武士でしたが、百姓助の女房・菊との密通がばれて、助を殺してしまったという過去を持っています。
さらに、同じ家中での恋愛はご法度だったにも関わらず、仕えていた家中の腰元・かさねと男女の関係になってしまいます。
与右衛門はかさねと心中する約束をしたものの、武士の身分を捨てて故郷である羽生村に帰り、一人死ぬつもりで木下川(きねがわ・鬼怒川)のほとりの夜道を歩いていました。
そこにやって来たのが、与右衛門の後を追ってきたかさね。かさねは与右衛門の子を宿していることを伝え、共に死んでくれと訴えます。
当初は渋っていた与右衛門も、かさねのくどきについに心中を決意するのですが、そこにドクロを乗せた卒塔婆が流れてくるのです。
不思議に思った与右衛門がドクロを引き寄せると、その目には鎌が刺さっており、卒塔婆には「俗名 助」と、かつて与右衛門が殺した助の名前が書いてあります。
驚いた与右衛門はかさねに見られないように卒塔婆を折ると、かさねの足が痛み出します。さらに鎌を引き抜いてドクロを2つに割ると、こんどはかさねが顔を押さえて苦しみだすのです。
そこへ与右衛門を捕らえようと捕手の役人たちがやってきて、与右衛門ともみ合ううちに書状を落としていきます。なんとか逃れた与右衛門が書状を拾って読むと、それは自分の罪状が書かれた逮捕状でした。
それを見たかさねが、浮気相手の恋文だと誤解して奪おうとしますが、立ち上がったかさねは左目が潰れて紫色にただれた醜い顔になっていたのです。それはまさに与右衛門が殺した助の顔と同じものでした。
顔が醜く変わったことに気づかないかさねは、与右衛門への思いを楽しそうに語り出し、与右衛門を追いかけます。
しかし、全てを悟った与右衛門は自らの因果に恐れおののき、醜く変わったかさねに鎌で切りかかり、さらに手鏡でかさねに自分の顔がどうなっているのかを見せて、これまでの因果を暴露します。
血みどろになったかさねが橋の上に倒れて息絶え、与右衛門はその場から逃げ出そうとしますが、怨霊となったかさねが手招きすると、見えない力が与右衛門を引き戻すのです・・・与右衛門の罪の深さが、かさねから逃げることを許さないのでした。
見どころは女の怨念「連理引」
色彩間苅豆の見どころは、かさなる因果の恐ろしさと、愛する男に対する女の怨念の強さです。
殺した男の娘と深い仲になる与右衛門と、自分の母と密通し父を殺した男を愛してしまったかさね・・・まさに因果が「かさね」られています。
美しい腰元・かさねの姿を見ていた観客は、一転して醜い顔に変わって愛する男を足を引きずりながら追い回す凄惨な姿にゾッとさせられます。
演じる役者も、当代きっての二枚目の立役が与右衛門を演じるほどその残忍な悪人ぶりが際立ち、かさねは美しい立女形が演じるほどその醜い姿に変わる怪異さが増します。
殺されても怨霊になって与右衛門を手招きして引き戻す様子は、「連理引」という歌舞伎独特の演技です。裏切った男を女が怨念で引き戻すときに使われます。
また、歌舞伎音楽の清元の名曲としても知られており、捕手が与右衛門に打ち掛かるところで「夜や更けて・・」と端唄の音曲が流れるところは聞き所です。
与右衛門が月明かりにかざして書状を読む姿形の美しさは、色悪の役の見せ所となっています。
「色彩間苅豆」ってどう読む?意味は?
歌舞伎の演目の本外題(タイトル)にはなんと読むのかわからないようなものが多くありますが、「色彩間苅豆」も、普通に読むことはほぼ不可能なタイトルです。そのせいか、通称の「かさね」で呼ばれることのほうが多いようです。
タイトルを分解すると、「色彩(いろもよう) 間(ちょっと) 苅豆(かりまめ)」 となり、それぞれの意味は以下のようになります。
- 色彩・・・男女の恋愛模様。
- 間・・・色恋からまったく違う話へ変わることを表す。
- 苅豆・・・かさねを鎌で殺すこと、男女の色模様そのもの、他の女と一緒になるために豆刈りの帰りに妻を殺したという事件から、などの説がある。
歌舞伎の演目は実際の事件を元にしたものも多く、それを直接表現しないで少しひねったタイトルをつけることがありますが、当時の人にとっては何を表しているのかすぐわかるようなものでした。
そこには実際の出来事に対する皮肉や、作者のちょっとした遊び心が溢れているのです。
「色彩間苅豆」の上演情報
色彩間苅豆(かさね)の上演情報を紹介します。
2024年12月 京都南座
2024年12月の京都南座「吉例顔見世興行」で「色彩間苅豆」が上演され、中村萬壽が腰元かさね、中村萬太郎が与右衛門を演じます。
まとめ:かさねの怨念の怖さを実感しよう
歌舞伎舞踊の演目・色彩間苅豆のあらすじや見どころについて解説してきました。
美しい男女のからみが、一転して凄惨な殺しと女の怨念の凄まじさを見せつける舞台に変わる様子は、観るものに強烈なインパクトを与えます。
歌舞伎特有の難読で難解なタイトルも印象的ですが、美形の役者と美しい女形が演じるほど与右衛門とかさねの愛憎劇の悲惨さが伝わる舞台になります。
機会があればぜひ歌舞伎の舞台で「色彩間苅豆」を観劇してみてくださいね。