歌舞伎役者の屋号の格付けとは？ランクの高い役者は誰？
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送る歌舞伎役者には、それぞれ「屋号（やごう）」と呼ばれる特別な呼び方があります。この屋号は家の伝統を表すだけでなく、役者の格付け（ランク）や序列を知る手がかりにもなるのです。
屋号は歌舞伎役者が代々受け継いで名乗る「家の呼び名」です。市川團十郎家の「成田屋（なりたや）」、尾上菊五郎家の「音羽屋（おとわや）」など、家ごとに固有の屋号があり、長い歴史と伝統を象徴しています。
歌舞伎の舞台では客席から「大向う（おおむこう）」という掛け声が役者の”見どころ”となる場面でかかりますが、このとき呼ばれるのがその役者の”屋号”です。
本記事では、そんな屋号の由来や意味、そして気になる歌舞伎役者の「格付け」や「序列」、「大向こうの掛け声」についてなど、初心者の方にも分かりやすく解説します。
目 次
歌舞伎役者が名乗る“屋号”とは？その由来と意味
歌舞伎役者が名乗る屋号とは、その家が代々受け継いできた「看板」のような呼び名です。
たとえば、市川團十郎の家の屋号は成田屋、尾上菊五郎の家は音羽屋。どの屋号にも、その家が歩んできた歴史や由緒が込められています。
市川家が「成田屋」と名乗るのは、祖先が成田不動尊を篤く信仰していたことに由来します。一方の「音羽屋」は、初代・菊五郎の父が、生誕地に近い京都清水寺の音羽の滝にちなんで「音羽屋半平」を名乗っていたことが由来とされています。
このように、屋号は役者の家ごとの伝統や信仰、地縁などによって名付けられてきました。
また、歌舞伎役者には名跡（みょうせき）と呼ばれる受け継ぎ名があり、こちらはいわゆる「芸名」にあたります。名跡には独自のイメージがあり、「市川團十郎」と聞けば勇壮で荒事を得意とする役者像が思い浮かぶように、長い歴史の中で培われてきた型や人物像があります。
こうした屋号や名跡といった独特の制度を持つ歌舞伎役者の世界は、一般に梨園（りえん）と呼ばれています。歌舞伎役者の妻を「梨園の妻」と呼ぶのは、こうした歌舞伎独特の世界に由来するものです。
屋号によって格付けやランクは決まるの？
歌舞伎の世界では、屋号にはそれぞれの家が歩んできた歴史や格式があり、一般的には「古くから続く家ほど名門とされる」傾向があります。たとえば、次のような家系は歴史的にもよく知られています。
市川團十郎家の成田屋
↳ 市川團十郎の家系図はこちら
尾上菊五郎家の音羽屋
↳ 尾上菊五郎の家系図はこちら
松本幸四郎家の高麗屋（こうらいや）
↳ 松本幸四郎の家系図はこちら
片岡仁左衛門家の松嶋屋（まつしまや）
↳ 片岡仁左衛門の家系図はこちら
中村勘三郎家の中村屋（なかむらや）
↳ 中村勘三郎の家系図はこちら
これらは歌舞伎の歴史の中で長く受け継がれてきた家柄として広く知られていますが、とはいえ「屋号の格式＝役者個人の格」というわけではありません。
名門に生まれれば早くから舞台に立つ機会は増えるものの、観客からの評価や役者としての地位は、あくまで
- 演技力
- 舞台での実績
- 人気
- 出演歴（キャリア）
といった、役者自身が積み重ねていくものによって形づくられます。
歌舞伎は興行である以上、より多くのお客さんを惹きつける力を持つ役者ほど重要な役を任され、その評価が結果的に役者としての格につながっていきます。
つまり、屋号は家の歴史や格式を示すものであり、役者の格はその人自身の芸によって築かれるもの。
この二つは関連しつつも、別々に考えると理解しやすいでしょう。
現在の主な歌舞伎役者の屋号一覧は以下のページを御覧ください。
実際の“格”を示す仕組み：幹部・名題・名題下とは？
屋号や家の歴史とは別に、歌舞伎役者には舞台上の実務や立場を示す公式な区分があります。現在の歌舞伎では、役者の立ち位置はおおまかに「名題（なだい）」「名題下（なだいした）」に分けられ、さらにその上に「幹部」があります。
名題（なだい）とは
名題は、一定の経験と実力を認められた役者が昇進できる区分で、いわばプロとして一人前と認められた証です。名題になるには、
- 役者として10年以上の舞台経験を積んでいること（名題試験の受験資格）
- 日本俳優協会が実施する名題資格審査（名題試験）に合格する
- 関係者（先輩俳優・贔屓・興行主など）の承認を得る
- 名題昇進披露を行う
といった手続きが必要で、舞台でもより重要な役を任されるようになります。
名題下（なだいした）とは
名題に昇進していない役者を総称して名題下と呼びます。以前はさらに細かい階級に分かれていましたが、現在は区別されていません。
名題下の大きな特徴は、仕事の専門性です。たとえば、
- 立廻り（殺陣やアクション）を担当する
- 馬の脚や雑役など、舞台を支える重要な役目を務める
- 名題昇進資格を持ちながら、立廻りの技に誇りを持ち名題下に留まる役者もいる
歌舞伎の立廻りは高度な技術が求められ、名題下は舞台を支える専門職として重要な役割を担っています。
幹部俳優とは
幹部俳優は、歌舞伎公演において主要な役を務める中心的存在で、興行の「顔」となる役者たちです。役柄や番付の扱いも大きく変わり、まさに舞台を支える屋台骨といえる立場です。
幹部と名題・名題下は、単なる上下関係ではなく、舞台で担う役割や責任、専門性の違いと考えると理解しやすいでしょう。
幹部・名題・名題下の見分け方
歌舞伎俳優の現在の立場は、歌舞伎座の筋書（公演のプログラム）や、公式サイト「今月の出演俳優」で確認できます。掲載順は幹部 → 名題 → 名題下 → 子役の順になっており、誰がどの区分に属しているかが一目で分かるようになっています。
特に幹部俳優は名前の横に屋号が記載されるため、「この役者は成田屋なんだ」「ここが音羽屋なんだ」といった情報も同時に確認できます。観劇前にチェックしておくと、舞台で気になった役者の立場や背景が分かり、より深く楽しめるようになりますよ。
チラシ・ポスターでわかる！歌舞伎役者の序列の見分け方
歌舞伎の公演チラシや劇場前のポスターには、出演俳優の写真や名前がずらっと並んでいます。実はこの配置のしかたにはある種のルールがあり、そこから歌舞伎役者の序列を読み取ることができます。
基本は「右上スタートのジグザグ」
例として、比較的わかりやすい2023年6月の歌舞伎座チラシで説明していきましょう。
2023年6月歌舞伎座チラシにおける序列順
このチラシでは、右上に単独で配置されている尾上菊五郎がその月の最上位（座頭格）。左上の片岡仁左衛門も同じく特別な座頭格として扱われています。
それ以下は、右 → 左 → 右 → 左……中央へと向かうにつれて序列が下がる配置になっており、だいたい次のような流れになっています：
中村魁春 → 中村歌六 → 中村又五郎 → 中村芝翫 → 片岡孝太郎 → 中村錦之助 → 尾上松緑 → 尾上菊之助（現・八代目 菊五郎） → 中村七之助
「ざっくりした目安」として使うのがおすすめ
もちろん、役の重さやチラシのレイアウト、襲名披露・追善興行などの特別な事情で順番が前後することもありますが、「右上が最上位 → 左 → 右 → 左……中央にいくにつれ序列が下がる」という基本を知っておくだけでも、毎月の変化が読みやすくなります。
興味がある方は、公式サイト「歌舞伎美人・公演チラシアーカイブ」で過去のチラシを見比べてみてください。役者の序列や格付けがわかってくると、歌舞伎界の“今”が見えてくるので楽しいですよ。
兄弟でも屋号が違う？──養子制度と家系の不思議
歌舞伎の家では代々名跡を継いでいくため、兄弟なのに屋号が違う、あるいは 親子で屋号は同じなのに姓が違うというような不思議なケースがしばしば見られます。
その代表例が、二代目 松本白鸚（高麗屋）と故・二代目 中村吉右衛門（播磨屋）です。二人は実の兄弟でありながら、それぞれ違う屋号を名乗っています。これは初代 中村吉右衛門に跡継ぎの男子がいなかったため、吉右衛門の娘が八代目 松本幸四郎に嫁ぐときに、「男児が二人生まれたら、次男を吉右衛門家へ養子に出す」と約束し、実際に次男として生まれた男児が養子に出されたからです。
もう一つ例を挙げると、松本幸四郎家（高麗屋）と市川團十郎家（成田屋）は歴史的に養子のやり取りを重ねてきた深い関係があります。父が「高麗屋」の松本白鸚であるにもかかわらず、息子である現在の十代目 松本幸四郎が以前は七代目 市川染五郎を名乗っていたのも、この両家の結びつきの強さを物語っています（2025年現在、”市川染五郎”は十代目幸四郎の息子が継承）。このようにして、同じ屋号を名乗る親子でも、姓が「松本」と「市川」のように異なる場合が生まれます。
また、坂東玉三郎や片岡愛之助のように一般家庭の生まれでありながら、大名跡の養子となって名跡を継ぐというケースもあります。
他にも、六代目 中村歌右衛門（成駒屋・故人）の養子である中村梅玉（高砂屋）と中村魁春（加賀屋）のように、親子・兄弟すべて屋号が異なる例や、中村又五郎一門のように萬屋から播磨屋へと屋号が変わるなど、いろいろと複雑なところがあるようですね。
その他の歌舞伎俳優の屋号一覧は、こちらのページを御覧ください。
「成田屋！」「音羽屋！」大向うの掛け声は誰でもできる？
歌舞伎の大きな特徴のひとつに、観客が役者へ向けて声をかける「大向こう」があります。初めて観劇する人は、突然後ろから大きな声が飛んで驚くかもしれませんが、これは芝居を盛り上げるための伝統的な演出で、基本的に誰がかけてもかまわないことになっています。
叫んでいるのは、役者の登場や見得などの決めどころに合わせた屋号です。
「成田屋！」
「音羽屋！」
「高麗屋！」など、
観客がタイミングよく声をかけることで、舞台がさらに引き締まります。
屋号以外の大向こうもあり、長く休んでいた役者が復帰したときには「待ってました！」、
男女がいい雰囲気になる場面では「ご両人！」など、
場面に応じた声が飛ぶこともあります。
ミュージカルや普通の演劇では上演中に観客が声を出すのはマナー違反ですが、歌舞伎では観客も芝居の一部を担うという、世界的にも珍しいスタイルになっています。とはいえ、的確なタイミングで大向こうをかけるには経験が必要です。慣れないうちは無理に声をかけず、まずは雰囲気をつかむところから始めるのが良いでしょう。
まとめ：歌舞伎は役者の”屋号”・”格付け”を知ればもっと面白くなる！
歌舞伎は、役者がどの家に属するかを示す屋号と、その役者がどの立ち位置にいるのかを感じさせる格付け（序列）を知るだけで、見え方が大きく変わります。「音羽屋だから尾上菊五郎と関わりが深い」「この人が今月の一番格上の役者」といった背景が分かると、同じ舞台でも理解がぐっと深まります。
実際に観劇するときは、劇場前のポスターの並び順や、大向うが飛ぶ場面、筋書に載っている役者の屋号を意識してみてください。どの役者が中心で、どこが見どころなのかが自然と浮かび上がり、歌舞伎がさらに面白く感じられるはずですよ。
参考資料
【書籍📚】
「かぶき手帖」
「歌舞伎の解剖図鑑」
【ウェブサイト🌐】
「歌舞伎美人」
「歌舞伎オンザウェブ」
一部AIを用いたライティング・画像編集支援を行っていますが、最終的な編集・事実確認・表現調整はすべて人の手で行っております。