歌舞伎演目「三人吉三」のあらすじ紹介!因果に翻弄される悪党達の物語
歌舞伎の演目「三人吉三」とは、正式には「三人吉三巴白浪」または「三人吉三郭初買」と言い、三人の悪党とその周りの人達が複雑な因果に翻弄される物語です。
女装の盗賊お嬢吉三の「こいつは春から縁起がいいわぇ〜」と言う名セリフや、三人の吉三の名を持つ悪党が初めて出会った場面で見せる見事な見得のポーズが有名な人気の演目です。
この記事では「三人吉三」のあらすじや複雑な人間関係相関図をわかりやすく解説し、上演情報やDVD、動画配信なども紹介するので、興味のある人はぜひ御覧ください。
目 次
三人吉三の複雑な人間関係は?
歌舞伎演目「三人吉三」は、幕末から明治にかけて活躍した狂言作者の河竹黙阿弥による世話物で、安政7年(1860年)1月の江戸市村座で初演されました。そのときの正式名称は「三人吉三郭初買」でしたが、近年は「三人吉三巴白浪」で上演されることが多くなっています。
偶然出会った「吉三」という名を持つ三人の盗賊とその親兄弟たちが、過去の因果の糸に翻弄されていく物語です。江戸末期の退廃的な雰囲気と黙阿弥得意の七五調の耳に心地よいセリフ回しで人気の演目です。
登場人物たちの複雑な人間関係とそれぞれの人物像を次に紹介していきます。
「三人吉三」人間関係相関図
三人吉三の人間関係を以下の相関図に紹介します。
※庚申丸とは安森家の家宝の脇差であり、これを紛失したことで安森源氏兵衛は切腹し、お家も断絶の処分を受ける。
「三人吉三」登場人物一覧
お嬢吉三 |
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美しい女装姿の盗賊。五歳のときに親元から誘拐されて盗賊になる。実の親は八百屋久兵衛。 |
お坊吉三 |
旗本安森源氏兵衛の息子で武家のお坊ちゃんだったが、家宝の庚申丸を盗まれてからお家は断絶し、それからは盗賊として生きることに。 |
和尚吉三 |
旗本の家臣・土左衛門伝吉の息子。一度出家して和尚になるが、今は盗賊に成り下がる。十三郎という弟がいることは知らない。 |
夜鷹おとせ |
父親である土左衛門伝吉の元で夜な夜な路頭で男を誘う夜鷹(娼婦)を営む女。十三郎は幼い時に別れた双子の兄だがそのことは知らず、客として相手をした十三郎と恋仲になってしまう。十三郎が落とした百両を拾う。 |
木屋の手代・十三郎 |
幼いころ実の親である土左衛門伝吉に捨てられ、八百屋久兵衛に拾われて息子として育てられた。おとせの双子の兄だが、そのことは知らず恋仲になってしまう。木屋の主人の使いで庚申丸を売ったが、その代金百両を落として自殺しようとする。 |
土左衛門伝吉 |
かつて海老名の家来で、安森家から庚申丸を盗んだ張本人。息子の和尚吉三とは仲違いしており、娘のおとせには夜鷹をさせている。自分の息子とは知らず死のうとしていた十三郎を助ける。 |
金貸し・太郎右衛門 |
悪どく金を稼ぐ高利貸し。海老名に庚申丸を購入するための百両を貸す。 |
研師・与九兵衛 |
川底から見つかった庚申丸を手に入れ、木屋の主人に50両で売る。その後、庚申丸を手に入れた海老名から刀研ぎを頼まれる。 |
旗本・安森源次兵衛 |
お坊吉三の父。家宝の庚申丸を盗まれた罪で切腹し、お家は断絶になってしまった。 |
旗本・海老名軍蔵 |
家来だった伝吉に命じて安森家から庚申丸を盗ませた黒幕。安森家の没落を目論んでいる。 |
八百屋久兵衛 |
お嬢吉三の実の父。「お七」と名付けて女の子のように育てていたが、五歳のときに誘拐されてしまう。代わりに法恩寺の門前に捨てられていた十三郎を拾って息子として育てる。溺れていたおとせを助けた。 |
三人吉三のあらすじと見どころ
三人吉三は全7幕14場という長編の芝居ですが、近年は、三人の吉三の出会いとお嬢吉三の名セリフで一番人気のある場面、「大河端庚申塚の場」が単独で上演されることが多くなっています。
ここでは「大河端庚申塚の場」だけでなく、三人の因果が明らかにされる「巣鴨吉祥院の場」と、ラストの派手な立ち回りの「本郷火の見櫓の場」を紹介します。
序幕 〜大河端庚申塚の場〜
夜も更けた大河端の庚申塚の前で二人の男、研師の与九兵衛と金貸しの太郎右衛門が何やら話をしています。
なんでも、先日与九兵衛の紹介で名刀庚申丸の購入資金として太郎右衛門が百両を貸した旗本・海老名軍蔵が何者かに殺されたとのこと。
太郎右衛門は百両が貸し倒れになってしまうと嘆きますが、与九兵衛が手にしている刀が庚申丸だと気がつくと、それを百両のかわりによこせと迫り、二人はもみ合いながらどこかへ行ってしまいます。
次に現れたのは夜鷹のおとせ。おとせは昨夜相手をした客が百両という大金を落としていったので、さぞ困っているだろうと探しているのです。
そこへ振袖姿の美しい娘がやってきて、道に迷って困っているのだと言います。
かわいそうに思ったおとせは、娘を案内してあげることにしますが、その道すがら懐に入れていた百両を落としてしまいます。
すると、それを見た娘はそれまでのしおらしい様子から一変し、百両を奪うとおとせを川に突き落としてしまいました。
なんとこの娘は本当は男で、お嬢吉三という名うての盗賊だったのです。
百両を手に入れたお嬢吉三の前に、さきほどどこかへ行った二人の男・与九兵衛と太郎右衛門が「百両」と聞きつけてそれを奪おうとやってきますが、お嬢に返り討ちにあい、庚申丸まで奪われてしまいます。
百両と庚申丸を手に入れたお嬢が、「こいつは春から縁起がいいわぇ」とご満悦で帰ろうとすると、「ちょっとお待ちなせぇ」と何者かが声を掛けてきました。
あわてて女のふりをするお嬢ですが、一通り見ていた声の主は、自分はお坊吉三という盗賊で、「その百両をよこせ」と言うのです。
開き直ったお嬢が百両を渡すことを拒み庚申丸を抜くと、お坊吉三も刀を抜き、二人は激しく争います。
そこへもうひとりの男が現れ、二人の間に割って入り刀を足で押さえつけます。
その男は和尚吉三と名乗り、奇しくも三人の「吉三」という名をもつ盗賊が揃いました。
和尚はここで三人が出会ったのも何かの縁だというと、お嬢とお坊もこの機会にぜひ三人で義兄弟の契を結ぼうと言い出します。
こうして三人の盗賊は和尚を兄貴として義兄弟となり、百両は和尚が預かることになるのでした。
二幕目 〜巣鴨吉祥院の場〜
和尚吉三は日頃の親不孝の償いとして、百両を父親の土左衛門伝吉に渡そうとしますが、不正の金はいらないと断られ、密かに父親の家に置いていきます。
そのとき、伝吉が語る言葉から、おとせと十三郎が本当は双子でありながら、そのことを知らずに男女の仲になってしまい、人としてはあってはならない畜生道に落ちてしまったことを知ってしまいます。
和尚が百両を置いていったことを知った伝吉は、こんなものいるかと外の人影に向かって投げ捨てますが、それを拾ったのは和尚ではなく釜屋武兵衛という男。
思いがけず百両を手に入れて喜ぶ武兵衛でしたが、通りがかったお坊に奪われます。さらに追ってきた伝吉はお坊に斬り殺されてしまうのです。
悪事を重ねて追われる身となった和尚は、隠れ家である巣鴨の吉祥院へ逃れますが、そこには同じように追われる身となったお嬢とお坊も来ていました。
三人がこれまでのことを語り合ううちに、お坊が和尚の父・伝吉を殺してしまったこと、お嬢が和尚の妹・おとせから百両を奪ったことが明らかになります。
お譲とお坊はそれぞれ自分の所業が悲劇の原因だと言って死のうとします。しかしすべての原因は伝吉がお坊の父親・安森源氏兵衛から庚申丸を盗んだことからだということを知った和尚は、近親相姦という不義を働くおとせと十三郎を殺して、その二人の首をお嬢とお坊の身替りとして役人に差し出し二人を逃がすことにするのです。
大詰 〜本郷火の見櫓の場〜
和尚の策略も虚しく首は偽物だとばれてしまい、三人とも役人に追われる身となってちりぢりに逃げていました。
三人を捉えるために昼は追手の目が厳しく、夜は町々の木戸が閉ざされているので、三人も身動きがとれません。
ある雪の降りしきる夜、本郷の火の見櫓の前で木戸を挟んでお譲とお坊は久々の対面を果たします。
お坊は庚申丸を実家へ、お嬢は百両を実父の八百屋久兵衛へと届けたいが、見張りが厳しくいかんともしがたいと嘆きます。
ところが、火の見櫓のおふれを読むと、三人を召し捕れば櫓の太鼓を鳴らしてすべての木戸を開け放つと書いてあるではないですか。
そこでお嬢は捕まることを覚悟で櫓に登り太鼓を打ち鳴らそうとしますが、追手の役人たちに見つかり囲まれてしまいます。
お嬢は役人たちを蹴散らして櫓に駆け上がり太鼓を打ち鳴らすと、すべての木戸が開かれ、騒ぎを聞きつけた和尚も二人の元へと駆けつけて、三人の義兄弟は久々の対面を果たします。
そこへたまたま通りかかったのがお嬢の実の父・八百屋久兵衛。三人は久兵衛に庚申丸と百両を託すと、追ってきた大勢の役人たちと大立ち回りを演じます。
役人たちを退けた三人は、「もはや思い残すことなし」と、お互いに差し違えて果てるのです。
すべての罪を清めていくように、三人の屍の上には白い雪がいつまでも降り積もっていくのでした。
お嬢吉三の名セリフ紹介
「三人吉三」の作者である河竹黙阿弥は、七五調と言われる独特の台詞回しが有名です。
「三人吉三」以外でも、「白浪五人男」という演目では、女装の盗賊・弁天小僧が言う、「知らざあ言って聞かせやしょう」で始まるセリフや、五人の盗賊が並んで一人ずつ自己紹介をしていくセリフをなどでも「七五調」が使われています。
ここでは、お嬢吉三が大河端庚申塚の場で夜鷹おとせから百両を奪った後に言う名セリフを紹介します。
篝も霞む(7) 春の空(5)
つめてえ風も(7) ほろ酔いに(5)
心持ちよく(7) うかうかと(5)
浮かれ烏の(7) たゞ一羽(5)
塒へ帰る(7) 川端で(5)
棹の雫か(7) 濡れ手で泡(6)
思いがけなく(7) 手に入る百両(6)
ほんに今夜は(7) 節分か(5)
西の海より(7) 川のなか(5)
落ちた夜鷹は(7) 厄落とし(5)
豆沢山に(7) 一文の(5)
銭と違った(7) 金包み(5)
こいつぁ春から(7) 縁起がいいわぇ(6)「お嬢吉三」
※()内はおよその文字数
少し字余りの部分もありますが、おおむね7文字5文字の組み合わせでセリフが書かれており、実際に聞いてみると、とても心地よいリズムになっているのがわかりますよ。
河竹黙阿弥は悪人や盗賊が主人公の「白浪物」と呼ばれる作品を得意とし、七五調の流麗な台詞回しと、ワルだがかっこよく、それでいて悲しい過去を背負っている魅力的な登場人物たちの描写で現代でも人気があります。歌舞伎のセリフのイメージが「七五調」を連想させるのは黙阿弥の影響が大きいのです。
歌舞伎の名セリフについては以下のページも御覧ください。
三人吉三の上演情報
三人吉三の今後の上演情報やDVDについて紹介します。
2024年2月 御園座
2024年2月の御園座「二月御園座大歌舞伎」で「三人吉三巴白浪」が上演され、和尚吉三を市川男女蔵、お嬢吉三とお坊吉三を公演の前半・後半で大谷廣松と中村莟玉が交互に演じます。
三人吉三 DVD&Blu-ray
十八代目中村勘三郎によって始められたコクーン歌舞伎。そのDNAを受け継いだ中村勘九郎が和尚吉三、中村七之助がお嬢吉三を演じ、お坊吉三には尾上松也を迎えたコクーン歌舞伎「三人吉三」です。
従来の歌舞伎とは違う新たな演出で、シネマ歌舞伎でも上演された人気作がDVD&Blu-rayで見られますよ。
まとめ:三人吉三の生き様に心が打たれる
歌舞伎演目「三人吉三」について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか?
三人の盗賊とその周りの人々が過去の複雑な因果で結ばれ、最後は破滅的な結末を迎えるのですが、不思議な縁で結ばれた三人の吉三の絆の深さが心にしみる物語でもあります。
河竹黙阿弥によるリズミカルな七五調のセリフ回しや、主人公の三人の吉三が見事な見得を決める場面など、歌舞伎ならではの魅力も満載です。
ぜひ一度歌舞伎の舞台で「三人吉三」を観劇してみてくださいね。