【白浪五人男とは?】歌舞伎名台詞の現代語訳とあらすじを徹底解説

【白浪五人男とは?】歌舞伎名台詞の現代語訳とあらすじを徹底解説

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白浪五人男しらなみごにんおとことは、名台詞が数多く登場することで有名な、歌舞伎を見るなら必見の人気演目です。

この記事では、歌舞伎初心者の人や、白浪五人男を見たことがない人でも名セリフの意味五人男のキャラクターあらすじがわかるように説明します。

歌舞伎はセリフの意味やあらすじがわからなくても楽しめますが、知っているほうがより面白くなります。

それでは「白浪五人男」を知らないあなたに、知らざぁ言って聞かせやしょう!

「白浪五人男」名台詞の現代語訳はこうなる!

江ノ島の稚児ヶ淵

弁天小僧菊之助が育ったという江ノ島の稚児ヶ淵

白浪五人男は通称で、正式には青砥稿花紅彩画あおとぞうしはなのにしきえと言います。作者は江戸時代から明治にかけて活躍した歌舞伎作者の河竹黙阿弥かわたけもくあみです。

木阿弥の作品は、5・7・5のリズムで語られる七五調の美しい台詞に特徴があり、この白浪五人男でも多くの名台詞が登場します。

登場人物達がとうとうと語る名台詞の紹介と、それぞれのキャラクターをイメージした口調の現代語訳を書いてみたので、ぜひ御覧ください。

まずは浜松屋で弁天小僧の正体がバレたときの有名な台詞です。

知らざあ言って聞かせやしょう〜弁天小僧

知らざあ言って聞かせやしょう 浜の真砂と五右衛門が 歌に残した盗人ぬすっとの 種は尽きねぇ七里ヶ浜 その白浪の夜働き 以前を言やぁ江ノ島で 年季勤めの児ヶ淵ちごがふち 百味講ひゃくみで散らす蒔銭まきせんを 当てに小皿の一文子いちもんこ 百が二百と賽銭の くすね銭せぇだんだんに 悪事はのぼる 上の宮かみのみや 岩本院で講中の 枕捜しも度重なり お手長講と札付きに とうとう島を追い出され それから若衆わかしゅ美人局つつもたせ ここやかしこの寺島で 小耳に聞いた祖父じいさんの 似ぬ声色こわいろで 小ゆすりかたり 名せぇ由縁ゆかりの 弁天小僧菊之助たぁ 俺がことだ「弁天小僧菊之助」
【現代語訳】
知らねえのなら教えてやるぜ。石川五右衛門が「石川や浜の真砂は尽きるとも世に盗人の種は尽きまじ」と辞世の句に残したように、俺も七里ヶ浜で泥棒稼業をしているんだ。昔は江ノ島の弁天様で坊主の見習いとして奉公していたが、寺の賽銭を盗んでチンケな賭け事をしていたら、泊り客の財布を盗むとか、だんだん悪事がエスカレートしていった。そしたら盗癖のあるとんでもないやつだと噂されるようになって、ついに江ノ島から追い出された。それからは女に化けて、あちらこちらで爺さん(三代目尾上菊五郎のこと)の声色を真似てゆすりたかりをしているんだ。名前は爺さんの息子(初代菊之助)が由来の弁天小僧菊之助とは俺のことだぜ。
【達人メモ その1】
白浪五人男のセリフには掛詞や語呂合わせが多く使われています。上記の弁天小僧のセリフの中では、「児ヶ淵」=江ノ島にある淵、稚児あがりのもじり。「上の宮」=江ノ島にある寺、上る(エスカレートする)と掛詞。「お手長講」=お手長は盗癖のこと、洒落た言い方で盗賊仲間を表現。「寺島」=島の中の寺、初演の五代目菊五郎の本姓・寺島とかけている、などです。また「祖父じいさん」というところは尾上菊五郎家のときだけで、他の家の役者のときは「音羽屋」となります。

次は稲瀬川勢揃いの場から、五人が次々と名乗りをあげるつらねと呼ばれる場面の台詞です。

問われて名乗るもおこがましいが〜日本駄右衛門

問われて名乗るもおこがましいが 生まれは遠州浜松在えんしゅうはままつざい 十四の時に親に離れ 身の生業なりわいも白波の 沖を越えたる夜働き 盗みはすれど非道はせず 人に情けを掛川から 金谷をかけて宿々で 義賊と噂高札うわさたかふだの 廻る配布のたらい越し 危ねえその身の境涯も 最早四十に人間の 定めはわずか五十年 六十余州に隠れのねえ 賊徒の張本ちょうぼん 日本駄右衛門にっぽんだえもん「日本駄右衛門」
【現代語訳】
聞かれてから名乗るのもおこがましいが、静岡の浜松で生まれ、14歳で親と別れて泥棒稼業で生計を立ててきた。金を盗んでも人殺しはしないと人情に厚いことから、東海道を荒らし回りながらも、噂では義賊と呼ばれている。しかし手配書が全国に回っているので、いつお縄になるかわからないまま40歳を過ぎた。人生50年だからもう長くはない。それが日本全国に知れ渡った盗賊のボス、日本駄右衛門だ。

さて其の次は江の島の〜弁天小僧

さて其の次は江の島の 岩本院のちご上がり 平生ふだん着慣れし振袖から まげも島田に由比ヶ浜ゆいがはま 打ち込む浪にしっぽりと 女に化けた美人局つつもたせ 油断のならぬ小娘も 小袋坂こぶくろざかに身の破れ 悪い浮名も竜の口 土の牢へも二度三度 だんだん越える鳥居数 八幡様の氏子うじこにて 鎌倉無宿かまくらむしゅくと肩書も 島に育って其の名さえ 弁天小僧菊之助べんてんこぞうきくのすけ
「弁天小僧菊之助」
【現代語訳】
さてその次の俺は、江ノ島の岩本院の坊主の見習いとして育ち、日頃から振り袖を着たり高島田を結っていたので、すっかり板についた女装で男を騙して金をたかるのが得意技さ。油断のならない小娘を演じていたが、ときには正体を見破られ、悪い噂が立ってしまって、お縄にかかることも二度三度あった。だんだんと悪事を重ねていき、八幡様の氏子からも外されてしまった。江ノ島育ちの俺の名前は、弁天小僧菊之助だ。

続いて次に控えしは〜忠信利平

続いて次に控えしは 月の武蔵の江戸育ち 幼児がきの折から手癖が悪く 抜参ぬけまいりからぐれ出して 旅を稼ぎに西国を 廻って首尾も吉野山 まぶな仕事も大峰に 足をとめたる奈良の京 碁打ごうちと云って寺々や 豪家ごうかへ入り込み盗んだる 金が御嶽みたけ罪科つみとがは 蹴抜けぬけの塔の二重三重ふたえみえ 重なる悪事に高飛びなし 後を隠せし判官ほうがんの 御名前騙りおなめぇがたり忠信利平
「忠信利平」
【現代語訳】
続いて次に控えている俺は、江戸育ちだが、ガキのころから泥棒ばかりして、無許可で伊勢参りをしたころからグレはじめた。関西を旅しながら金儲けがうまくいき、うまい仕事をしようと奈良や京都で、囲碁の棋士と偽って金持ちの家へ入り込んでは盗みを働いた。金を盗んだ罪状は身の丈ほども高く積み上がっているが、そのたびにどうにか逃げおおせた。罪が多すぎて身を隠すこともできないほどだが、役人の名前を騙ってでも悪事を働くのが、この俺、忠信利平だ。
【達人メモ その2】
忠信利平の「忠信」が、歌舞伎三大名作の一つ・義経千本桜の主人公・狐忠信と同じところから、源義経に関する掛詞が使われています。「吉野山」=狐忠信と義経の妾の静御前が旅する舞台。「蹴抜の塔」=追手に取り囲まれた義経が隠れ場所の塔の天井を蹴破って逃げたという話。「判官」=役人の意味だが義経の別称でもある、などがあります。

又その次に連なるは〜赤星十三郎

又その次に連なるは 以前は武家の中小姓ちゅうごしょう 故主こしゅうのために切取きりどりも にぶやいば腰越こしごえや 砥上ヶ原とがみがはらに身のさびを ぎ直しても抜き兼ねる 盗み心の深翠ふかみどり 柳の都谷七郷みやこやつしちごう 花水橋はなみずばし切取きりどりから 今牛若いまうしわかと名も高く 忍ぶ姿も人の目に 月影ヶ谷つきかげがやつ神輿ヶ嶽みこしがたけ 今日ぞ命の明け方に 消ゆる間近き星月夜ほしづきよ 其の名も 赤星十三郎あかぼしじゅうざぶろう
「赤星十三郎」
【現代語訳】
またその次に続く私は、かつては武家の下級武士でした。前の主人のためにと思って心ならずも盗みを働いたが、盗みを働きたいという思いは、研いでも落ちない刀のサビのように心の奥に深く入ってしまった。花水橋での盗みの様子から、現代の牛若丸と称されています。人目を忍ぶ姿も月の影に見えてしまい、夜が明けると消えていく明けの明星のように、今日にも命が消えていきそうな、その名は赤星十三郎です。

さてどんじりに控えしは〜南郷力丸

さてどんじりに控えしは 潮風荒き小ゆるぎの 磯馴そなれの松の曲りなり 人となったる浜育ち 仁義の道も白川の 夜船へ乗り込む船盗人ふなぬすびと 波にきらめく稲妻の 白刃しらはに脅す人殺し 背負しょって立たれぬ罪科つみとがは その身に重き虎ヶ石とらがいし 悪事千里というからは どうでしまいは木の空と 覚悟はかねて鴫立沢しぎたつさわ しかし哀れは身に知らぬ 念仏嫌ぇな 南郷力丸なんごうりきまる
「南郷力丸」
【現代語訳】
さーて、最後に登場するのは、強い潮風で曲がった松の木のように、性根が曲がった人間として浜で育った俺だ。ヤクザ稼業に身を染めて、夜中に船盗人を働き、刀で脅して人殺しもしてきたが、その罪の重さは計り知れないぜ。悪事の噂は千里に伝わると言うからには、どうせ最後ははりつけになるさと覚悟は決めている。でも哀れに思って念仏なんか唱えんじゃねえぞ、それが南郷力丸だ。




白浪五人男の粋な五人の名前とキャラクターは?

白浪五人男の弁天小僧菊之助

白浪とは歌舞伎では盗賊のことを表す言葉で、白浪五人男とは五人組の盗賊ということです。五人それぞれの個性が際立ち、それが魅力的なキャラクターを作り出しています。

五人の盗賊の実在のモデルやキャラクターと、その他の登場人物を紹介します。

【五人男】

日本駄右衛門にっぽんだえもん
【モデル】
名前は日本左衛門にっぽんざえもん(本名・浜島庄兵衛はましましょうべえ)という江戸時代中期の浪人で実在の盗賊の異名から。見た目のモデルは、こちらも実在の盗賊・石川五右衛門。極楽寺山門の場が、五右衛門が登場する歌舞伎の演目・楼門五三桐さんもんごさんのきりの場面にそっくりなのはそのため。
【キャラクター】
五人男のリーダーで貫禄があり、千人もの手下を抱える大盗賊だが、無駄な殺しなどの非道はしないという信念を持つ。実の息子の前では盗賊になったことを恥ており、弁天小僧の死を悼むなど情に厚いところもある。変装で玉島逸当たましまいっとうという武士を名乗る。
弁天小僧菊之助べんてんこぞうきくのすけ
【モデル】
「菊之助」は最初に弁天小僧を演じた五代目尾上菊五郎の祖父・三代目尾上菊五郎の三男の名跡の初代菊之助からとり、「弁天小僧」は江ノ島の弁天様のところで坊主の見習い小僧として育ったことからきている。容姿は作者の河竹黙阿弥が、町で見つけた五代目菊五郎の娘姿を描いた見立絵(浮世絵師・歌川豊国作)から着想を得たと言われる。
【キャラクター】
美少年で女装が得意。子供の時親からはぐれて漁師(南郷力丸の親)に拾われる。女に化けて男を誘惑して金をまきあげる美人局つつもたせなどの悪事を働く。桜の入れ墨がトレードマーク。本当の父親は浜松屋の主人・幸兵衛。
忠信利平ただのぶりへい
【モデル】
日本左衛門の手下だった実在の盗賊・忠信利兵衛ただのぶりべえが名前の由来。「忠信」は歌舞伎の演目・義経千本桜に登場する「狐忠信」とかけている。登場シーンの音楽で鼓が討たれるのは、狐忠信と鼓が関係が深いことから。
【キャラクター】
子供のころから手癖が悪く、盗みを繰り返してあちらこちらに出回っていた、神出鬼没な盗賊。狐忠信が神出鬼没な役柄だったことに由来する。元は赤星十三郎の赤星家の家臣という立場。
赤星十三郎あかぼしじゅうざぶろう
【モデル】
実在した前髪立ちの美少年の辻斬強盗・白井権八しらいごんぱちがモデル。
【キャラクター】
元は家柄の良い武家(信田家)の下級武士だったが、主家が没落したのを救うために盗みを働き勘当され、自害しようとしたところを忠信利平に救われ、そのまま盗賊になる。
南郷力丸なんごうりきまる
【モデル】
日本左衛門の手下だった実在の盗賊・南宮行力丸なんぐうこうりきまるがモデル。南湖なんご(現在の茅ヶ崎)の漁師の息子でかなりの悪党だったらしい。
【キャラクター】
漁師の息子だが、船盗人など数々の悪事を重ねていた。弁天小僧とは昔から兄弟のように育てられて仲がよく、コンビを組んで悪事を働くことが多い。

【その他の登場人物】

浜松屋・幸兵衛こうべえ
呉服商浜松屋の大旦那で、元は小山家につかえていた武士。家宝の「胡蝶こちょう香合こうごう」を失った罪で小山家を去り、呉服商を営んでいる。17年前に初瀬寺はせでらでの喧嘩さわぎで息子を取り違えてしまった。小山家に戻るために胡蝶の香合を探している。
宗之助そうのすけ
浜松屋の若旦那。17年前の初瀬寺はせでらでの喧嘩さわぎで、まちがって浜松屋に連れてこられ実の息子のように育てられた子供。実の親は日本駄右衛門。
浜松屋の番頭
浜松屋の店先を取り仕切る番頭。武家の娘(弁天小僧)に好きな歌舞伎役者の名前を聞くのが恒例になっている。実は店の金を使い込んでおり、そのことを小僧さんたちに見られて滑稽な立ち回りを演じたりする面白い役どころ。
狼の悪次郎あくじろう
日本駄右衛門の手下。最初に浜松屋を訪れて、注文した五人男の揃いの小袖の仕上がりを確かめる。その後、駄右衛門たちを裏切り、胡蝶の香合を奪おうとして弁天小僧に切り捨てられる。
青砥藤綱あおとふじつな
名将との呼び声が高い実在の武将。日本駄右衛門の一味を捕らえようと追っている。「太平記」の中にある、川に落ちた十文のお金を探すために五十文の灯り代を使った話で有名なことから、川に落ちた胡蝶の香合を拾い上げるという設定。本外題の青砥稿花紅彩画の「青砥」はここから来ている。



歌舞伎「白浪五人男」のあらすじ

打ち寄せる白浪
白浪五人男は通しでやるときの正式名称は「青砥稿花紅彩画あおとのぞうしはなのにしきえ」ですが、有名な浜松屋の場と稲瀬川勢揃いの場だけを上演するときは、「弁天娘女男白浪べんてんむすめめおのしらなみ」という題名になります。

ここでは、近年あまり上演されることがない「初瀬寺はせでら」、「神輿ケ獄みこしがたけ」、「稲瀬川谷間いなせがわたにま」以外の、よく上演される場面のあらすじを紹介します。

浜松屋の場

呉服商の浜松屋に美しい武家の娘(二階堂家家臣・早瀬主水はやせもんどの娘)と従者の若侍四十八よそはち)がやってきて、婚礼の準備の品定めをしています。すると、娘が商品の緋鹿子の布をそっと懐に入れ、それを見つけた番頭は万引だと騒ぎ立てます。

店の者たちが二人を取り囲んでもみあい、番頭がそろばんで娘の頭を叩いてケガを負わせます。すると若侍が、布はよその店で買ったものだと言い、証拠の符牒ふちょう(購入の証明書)を見せるのです。

万引ではないことがわかると番頭や店の若旦那(宗之助)は平謝りし、大旦那(幸兵衛)も出てきて謝りますが、若侍は大事なお嬢様を傷つけられたのだから慰謝料をよこせと譲りません。

なんとか百両を払うことで若侍は納得し、娘を連れて帰ろうとしますが、そのとき店の奥から立派な侍(二階堂家家臣・玉島逸当)が現れて二人を呼び止め、二階堂家には早瀬主水という者はおらず、娘も本当は女ではなく男だと言うのです。

正体を見破られた娘は盗賊の弁天小僧菊之助だと白状し、若侍も仲間の南郷力丸だと明かします。カネ目当てのゆすりが失敗に終わった二人は、治療代としての二十両だけを手に入れて店を後にします。

蔵前の場

玉島逸当のおかげで大金をゆすられずに済んだ浜松屋の大旦那・幸兵衛は、息子の宗之助とともに玉島を奥へ案内し接待しようとします。すると、突然玉島は自分は賊徒の首領・日本駄右衛門であると言い出し、さきほど帰ったはずの弁天小僧と南郷力丸も現れました。実は三人はグルで、浜松屋を信用させるための芝居だったのです。

駄右衛門がさらなる大金三千両を浜松屋へ要求し、払えないなら命はないぞと脅します。すると幸兵衛は、息子の宗之助は小さい時に初瀬寺での喧嘩のどさくさで実の息子と取り違えてしまった子供だと明かし、本当の親に申し訳が立たないのでどうか宗之助の命だけは助けてほしいと懇願します。

そして宗之助がそのときに来ていた下着の紋所が、実の親の雄一の手がかりだと言って見せると、それは駄右衛門の下着と同じ紋所なのです。なんと宗之助は駄右衛門の息子でした

幸兵衛はさらに自分の息子が身につけていた巾着が証拠だと話すと、弁天小僧がふところからその巾着を取り出します。弁天小僧が幸兵衛の実の息子だったことも明らかになりました

お互いに再会を喜び、幸兵衛は駄右衛門に「三千両で盗賊から足を洗ってほしい」と頼みますが、駄右衛門は今更足を洗うことはできないので、宗之助には幸兵衛を本当の父と思ってこれからも尽くすように諭します。幸兵衛も弁天小僧に駄右衛門への義理を果たすようにと言い含めると、追手が来たので、三人の盗賊は浜松屋を後にするのです。

稲瀬川勢揃いの場

桜が咲き誇る稲瀬川の堤に、揃いの小袖を着て番傘を持った五人の盗賊、日本駄右衛門弁天小僧菊之助忠信利平赤星十三郎南郷力丸が現れます。

ここには大勢の追手の役人が待ち構えており、五人を捕らえようと取り囲みます。すると、五人は次々と名乗りを上げて、追手たちと大立ち回りを演じます。

極楽寺屋根立腹の場

稲瀬川から逃れた弁天小僧は、胡蝶の香合を実の親である幸兵衛へ届けようとしますが、追手に阻まれて極楽寺の大屋根へ逃れます。ここで、裏切り者の悪次郎を切り捨てますが、そのとき胡蝶の香合を下の川に落としてしまいます。

大勢の追手に囲まれた弁天小僧は、最後まで抵抗しますが、ついに覚悟を決めて、自らの腹に刀を突き立てて壮絶な最後を遂げます。

【達人メモ その3】
弁天小僧が切腹すると、大屋根の舞台がそのまま後ろに90度倒れて次の場面である極楽寺山門の背景が現れます。これは歌舞伎の大仕掛けの一つで、強盗返し(がんどうがえし)という舞台転換方法です。なかなか見られない仕掛けなのでぜひ注目してくださいね。

極楽寺山門の場

極楽寺の山門にいる駄右衛門の元に二人の手下が現れ、弁天小僧がたった今自害したことを告げます。

弁天小僧の死を悼む駄右衛門でしたが、二人の手下は突然駄右衛門に襲いかかります。実は二人は駄右衛門を捕らえようとする青砥藤綱あおとふじつなの家来でしたが、駄右衛門はこれを難なくはねのけて貫禄を見せつけます。

滑川土橋の場

極楽寺山門の下を流れる滑川なめりがわにかかる土橋の上に、二人の部下を引き連れた青砥藤綱が現れます。藤綱は川から胡蝶の香合を拾い上げていました。

藤綱が胡蝶の香合を小山家に返すことを約束すると、駄右衛門は自分を捕らえるようにと藤綱に言います。しかし、藤綱は駄右衛門に情けをかけて見逃すことにし、駄右衛門は再び会うことを約束して幕となります。



白浪五人男は戦隊モノの元祖?

五人の戦隊ヒーロー

白浪五人男を紹介する書籍などには「戦隊ヒーローものの元祖」というようなことがよく書かれています。確かに稲瀬川勢揃いの場で五人が並んで一人ずつ名乗りをあげる場面は、五人組の戦隊ヒーローの場面とよく似ています。

これは偶然ではなく、五人組戦隊ヒーローの初代である「ゴレンジャー」のプロデューサー平山亨氏が、実際に白浪五人男の「つらね」をモデルに、登場シーンを作ったからなのです。

今も昔も、正々堂々と名乗りをあげてから戦うのが、日本人にはとてもかっこよく映るのでしょうね。

白浪五人男の名台詞を実際に聞くには?

新橋演舞場

新橋演舞場

白浪五人男の名台詞を聞くには実際の公演を見るのが一番ですが、「青砥稿花紅彩画」と「弁天娘女男白浪」の最近の上演情報は、以下のようになります。

2024年3月 名古屋平成中村座

2024年3月の名古屋・同朋高校で行われる「名古屋平成中村座 同朋高校公演」で「弁天娘女男白浪」が上演され、中村七之助が弁天小僧菊之助を演じます。

また、劇場に行けない人にはDVDがオススメです。

歌舞伎名作撰 白浪五人男 浜松屋から滑川土橋の場まで [DVD]

弁天小僧を尾上菊五郎、日本駄右衛門を市川左團次、南郷力丸を尾上辰之助(現・松緑)、忠信利平を坂東彦三郎(現・楽善)、赤星十三郎を中村時蔵が演じるという豪華ラインナップです。

また、故・市村鶴蔵が演じる番頭が、浜松屋の最後で語るおもしろトークや、小僧たちと新体操のように踊り回る場面も必見です。

まとめ:白浪五人男で歌舞伎の名台詞を堪能しよう

白浪五人男名台詞あらすじを解説してきましたが、いかがでしたか?

歌舞伎でも屈指の名台詞は、耳に心地よいだけでなく、多くの掛詞語呂合わせが使われているので、意味がわかるともっと楽しめます。

五人男がどんなキャラクターなのかも知っていると、それぞれの背景や他の演目とのつながりも見えて、ますます歌舞伎の奥の深さがわかってきます。

劇場での公演だけでなく、今はDVDでも見ることができるので、ぜひとも歌舞伎随一の名台詞の数々を堪能してくださいね

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