歌舞伎「連獅子」迫力の毛振りに隠された意味は?あらすじや衣装も解説
歌舞伎の連獅子は、歌舞伎らしい派手な衣装と豪快な毛振りでとても人気がある、歌舞伎舞踊の演目です。
ここでは、連獅子のあらすじや毛振りの意味、歌舞伎役者の親子共演が多いこと、派手な衣装についてなど、まだ連獅子を見たことがない人にもわかりやすく解説します。
また、2019年のラグビーワールドカップのマスコットに連獅子をモデルにしたキャラクターが選ばれた理由も紹介しています。
目 次
歌舞伎舞踊・連獅子のあらすじ
背景に松羽目模様を描いた舞台に、狂言師の右近と左近が登場し、それぞれ赤い獅子頭と白い獅子頭を持って舞を踊り始めます。この舞は、唐にある文殊菩薩が住むと言われる清涼山で、獅子の親子が険しい山を登る様を表現しています。
親獅子は仔獅子に厳しい試練を与えるために、千尋の谷へ蹴り落とし、這い上がってくる仔獅子を何度も蹴り落とします。しかし、このような厳しい試練を乗り越えて仔獅子が這い上がってくると、親獅子も一緒になって喜び舞い踊るのです。
すると、だんだん狂言師たちに獅子の精が乗り移り、本当の獅子のようになって狂ったように蝶を追いかけて、そのままどこかへ消えてしまいました。
その後に現れるのが、浄土宗の僧侶・編年と法華宗の僧侶・運念です。旅の途中の二人は、最初は良い道連れができたと喜びますが、お互いの宗派がわかると、とたんに態度を変えて相手の宗派を非難し始めます。二人の滑稽なやりとりが見どころの場面です。
二人の僧侶が言い争いをしていると、遠くから一陣の風が吹き、それが不気味な獅子の咆哮のように聞こえてきました。僧侶たちが恐れおののいて退場すると、今度は姿形も獅子となった狂言師の右近と左近の登場です。
二人はそれぞれ白と赤の床まで届くほどの長い毛を勇壮に振り回し、咲き誇る牡丹の花に戯れて舞い踊ります。
そして、豪快に毛を振り回して獅子の狂いを見せると、獅子の座に直って、千秋万歳(長生きを祝福しいつまでも健康であるようにという意味)を祝うのでした。
石橋物とは、能の「石橋」を元にしたもので、連獅子以外にも「鏡獅子」「枕獅子」などがあります。能で使われる松羽目を背景にしているのも、元は能の舞台だからです。
連獅子の毛振りの意味は?
連獅子に限らず、歌舞伎で獅子が踊る石橋物と呼ばれる演目では、獅子が長い毛を派手に振り回す様子が有名です。歌舞伎をよく知らない人でも、歌舞伎のイメージと言えば頭をぐるぐる回して毛を振り回す様子が思い浮かぶのではないでしょうか。
あの激しい毛振りは単に派手な演出というだけでなく、民俗学的にはトランス状態(神がかり)になって、はたから見ると狂っているように見える状態を表しているそうです。また、本来は架空の動物である獅子ですが、百獣の王という意味もあることから、勇猛で力強い様を象徴しているとも言えるようです。
毛振りのやり方にはいくつか種類があり、毛を左右に振るのは「髪洗い」、ぐるぐると回転させるのは「巴」、舞台に叩きつけるように振るのは「菖蒲叩き」または「菖蒲打ち」」と呼ばれます。
毛振りのやり方は役者や家によってちがいがありますが、劇聖と呼ばれた九代目市川團十郎は「腰で振れ」と教えたと伝えられています。
獅子が登場する舞台には牡丹の花がつきものとなっていますが、これは獅子の寄生虫、いわゆる「獅子身中の虫」の特効薬が牡丹の露ということからだそうです。激しい毛振りをするのは「獅子身中の虫」が騒ぐことによる、かゆみのためとも言われています。
一番の見どころは歌舞伎役者親子の共演
獅子の派手な毛振りが印象的な石橋物ですが、その中でも連獅子は歌舞伎役者の親子共演が多いのも人気の一つです。
近年では、令和元年(2019年)に松本幸四郎と市川染五郎親子が共演しています。また、十八代目中村勘三郎と二人の息子・中村勘九郎・中村七之助での親子三人で演じる連獅子も有名です。親獅子と仔獅子二人の場合と、父獅子、母獅子、仔獅子の三人の場合もあります。
平成23年(2011年)には片岡仁左衛門と孫の片岡千之助が連獅子を踊り、祖父と孫の連獅子は戦後初めてということで話題になりました。
平成29年(2017年)の博多座では、中村芝翫とその三人の息子(中村橋之助、中村福之助、中村歌之助)による、親子四人での連獅子も行われています。
令和2年(2020年)の正月の歌舞伎座・初春大歌舞伎では、市川猿之助と市川團子の叔父と甥による連獅子が上演され、NHKでも一部放送されました。このとき初めて連獅子を演じた市川團子は大役をしっかりと務めましたが、インタビューでは高校生らしく、「勉強との両立を目指してがんばりたい」とコメントしています。
令和3年(2021年)の歌舞伎座二月大歌舞伎では「十七代目中村勘三郎追善」公演で中村勘九郎と中村勘太郎親子が連獅子を演じました。勘太郎はわずか9歳という若さで仔獅子を演じ、これは連獅子を演じた最年少記録となっています。
親獅子が仔獅子を厳しく鍛える様子が、歌舞伎役者親子の厳しい芸の継承と重なって見えるのが人気の秘密かもしれませんね。
連獅子は派手な衣装も見もの
カツラのことを「頭(かしら)」といい、連獅子で獅子の精となった時のカツラは、親獅子を「白頭(しろがしら)」、仔獅子を「赤頭(あかがしら)」と言います。長い毛は動物のヤクの毛が使われているそうです。
顔にはむきみの隈取りが施され、衣装は親獅子は紺地の羽織に白地の袴、仔獅子は緑地の羽織に赤地の袴で、どちらも派手な金箔模様と牡丹の花があしらわれています。
こうした見た目の派手さも、連獅子という舞踊をいっそう見ごたえのあるものにしているのですね。
ラグビーワールドカップのマスコットに選ばれた理由
2019年に日本で行われたラグビーワールドカップは、日本代表の活躍もあり大いに盛り上がりました。大会公式マスコットには、歌舞伎の連獅子をモチーフにしたレンジーが採用されましたが、その選ばれた理由を公式サイトから引用します。
■名称:ユニット名 (日本語)レンジー (英語)Ren-G
古来より幸福を招き邪悪を退けるとされてきた想像上の聖獣、獅子は日本文化に能や歌舞伎の連獅子であったり、獅子舞であったり、狛犬であったりと様々な形で表れてきました。この日本に古来より住んでいる精霊が、ラグビーワールドカップの日本そしてアジア初開催決定をきっかけにラグビーとその5つのコア・バリューと出会って生まれたのが、レンジーです。このために外見は、顔がラグビーボールの形になっていて、外見には連獅子や獅子舞に似た部分もある。信頼を元にチャレンジ(困難)を乗り越えるレンジーの姿は連獅子の物語、そしてラグビーに共通するものがあります。https://www.rugbyworldcup.com/news/306389
ちなみに5つのコアバリューというのは、5つの価値(品位INTEGRITY、情熱PASSION、結束SOLIDARITY、規律DISCIPLINE、尊重RESPECT)のことです。ラグビーの普及のために困難を乗り越える姿が、連獅子の親が仔を厳しく鍛える物語とたしかに通じるものがありますね。
写真の連獅子の像は、東京の調布駅前に設置されていたものです。調布市にある味の素スタジアムでもラグビーの熱戦が繰り広げられました。
連獅子の上演情報
歌舞伎舞踊・連獅子の上演情報は以下のようになります。
2024年10月 大阪松竹座
2024年10月の大阪松竹座「十三代目市川團十郎白猿襲名十月大歌舞伎」で市川團十郎と市川新之助親子による初の「連獅子」が上演されます。
連獅子を見るにはDVDがおすすめ
歌舞伎の連獅子は人気があるので上演回数も多い演目ですが、DVDがあればいつでも自宅で見ることができます。以下に紹介するのは映画館で歌舞伎が見られる「シネマ歌舞伎」で上演されたものです。今は亡き十八代目中村勘三郎が、中村勘九郎、中村七之助の二人の息子と共演するもので、三人の構成が父、母、子の『三人連獅子』と呼ばれる貴重な映像が見られるのも注目です。
同じく中村勘三郎が主演の「らくだ」も収録されているので、勘三郎ファンは必見です。
まとめ:歌舞伎舞踊の有名な連獅子を楽しもう
歌舞伎の連獅子は、その見た目の派手さと豪快な毛振りが有名で、2019年のラグビーワールドカップのマスコットにも選ばれるなど、歌舞伎の特徴を表す代表的な演目の一つです。
見ごたえのある歌舞伎舞踊であると同時に、歌舞伎役者の親子共演が、親獅子が仔獅子を厳しく育てる物語と重なって見えるのもファンにとっては魅力的な演目です。
ときには親子三人で演じられることもあり、今では劇場だけでなくDVDでも見ることができます。
あなたもぜひ一度、連獅子の豪快な毛振りと華やかな舞踊を堪能してくださいね。