スーパー歌舞伎とは?ワンピースだけじゃないスーパーな魅力を徹底紹介

スーパー歌舞伎とは?ワンピースだけじゃないスーパーな魅力を徹底紹介

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スーパー歌舞伎とは、三代目市川猿之助(現・二代目市川猿翁えんおう)によって始められた、今までの歌舞伎にはなかった演出や手法を取り入れた「歌舞伎を超えた歌舞伎」です。

そして、現在はスーパー歌舞伎の精神を受け継いで新しく作られたスーパー歌舞伎II(セカンド)四代目市川猿之助によって創られ、「ワンピース」や「新版オグリ」などのヒット作を生み出し、歌舞伎ファンだけでなく多くの若者ファンを惹きつけています。

ここでは、市川猿之助家によって生み出された「スーパー歌舞伎」「スーパー歌舞伎II(セカンド)」が従来の歌舞伎とどう違い、どんな演目があるのかについても紹介しながら、その隠された魅力に迫ります。

スーパー歌舞伎は何が「スーパー」なのか?

三代目市川猿之助によって創設されたスーパー歌舞伎

歌舞伎のジャンルの分け方にはいくつかありますが、成立した時代で分けると、江戸時代から上演されてきた「義太夫狂言」や「純歌舞伎」などの古典歌舞伎と呼ばれるものがあり、明治中期以降にできた「新歌舞伎」、昭和になって戦後新しく作られた「新作歌舞伎」というふうになります。

スーパー歌舞伎は昭和以降の作品なので新作歌舞伎の一種でもあるのですが、三代目市川猿之助は従来の歌舞伎のイメージを覆し、「歌舞伎であって歌舞伎を超えるもの」としてスーパー歌舞伎と名付けました。

では、スーパー歌舞伎は従来の歌舞伎と何が違うのかを、三代目猿之助が求めた三つのポイントスピードスペクタクルストーリー)で説明します。

現代人にあった「スピード」

まず、第一のポイントは、スピードです。

従来の歌舞伎の舞台はゆったりしたテンポで流れています。そのゆったり感が歌舞伎の魅力でもあるのですが、江戸時代から続いてきたものなので、必ずしも現代人の感覚に合っているとは言えず、「テンポがのろくて退屈」という声もありました。

三代目猿之助は、現代人の好むテンポに合わせるために、舞台転換の時間をできるだけ短くすることで観客の高ぶった感情を途切れないようにし、演技のリズムや、めりはりにも気を使いました。さらに、出演者の台詞のテンポを早くすることで、現代人の感覚にピッタリと合うスピード感を出すことができるようになったのです。

理屈抜きで面白い「スペクタクル」

第二のポイントは、スペクタクルです。

「スペクタクル」とは視覚的に強い印象を与えることですが、三代目猿之助はこれを理屈抜きでインパクトを与えるものと捉えました。もともと宙乗り早替りなどの歌舞伎特有の演出であるケレンを得意としており、その舞台演出は面白いと人気がありました。

スーパー歌舞伎でも多くのケレンが見られますが、宙乗りには西洋の演劇で行われているフライング技術を導入したり、度肝をぬくような豪華絢爛な衣装や、それまで歌舞伎の舞台では使われていなかった最新の照明設備に、大量の鏡で光を反射させた幻想的な舞台空間など、まさに視覚的に強烈な印象を与えることで、理屈抜きでインパクトを与えることに成功したのです。

わかりやすく感動的な「ストーリー」

そして第三のポイントストーリー性です。

従来の歌舞伎はあまり内容のない荒唐無稽な物語が多く、義理人情や忠義の物語などがテーマになっていることがほとんどなので、現代社会では実感がわきにくく、そぐわないというのが三代目猿之助の考えでした。

現代に通じるテーマを取り上げながら、歌舞伎の優れた演出や特色も生かして、起承転結のはっきりしたわかりやすく感動的なストーリーの脚本が必要だと考えていたところに、哲学者・梅原猛と出会って意気投合し、そこから生まれたのがスーパー歌舞伎第一作となる「ヤマトタケル」です。

梅原が書いた膨大な原稿を読んだ猿之助は、その出来栄えに驚嘆しました。

芝居の構成がしっかりとしており、登場人物の台詞に説得力があり生き生きとしている。時空を超えた男女のスケールの大きな愛の世界があり、敵役の描写も見事なものだったそうです。

その膨大な原稿を芝居の台本にするのは大変な作業だったそうですが、これで猿之助が求めた三つ(スピード、スペクタル、ストーリー)が揃うことになります

また、台詞回しを口語にすることでわかりやすくしたことや、心に響く歌舞伎本来の音楽に合わせた演技見得だんまりなど本来の歌舞伎が持つ手法も駆使しながら、歌舞伎を超える歌舞伎を目指したスーパー歌舞伎「ヤマトタケル」は完成します。

初演の舞台になった新橋演舞場では、なんと劇場始まって以来の大入りを記録することになりました。

始めは普段の歌舞伎ファンが多かったのが、後からはあまり歌舞伎を見ないような客も来るようになりました。さらに、歌舞伎の観客は95%が女性だったのが、「ヤマトタケル」では男性が4割を占めるほどになったそうです。

三代目猿之助の新たな試みであるスーパー歌舞伎は、間違いなく歌舞伎の魅力を多くの新しいファンに伝えるものとなったのです。

スーパー歌舞伎II(セカンド)の始まり

三代目猿之助が始めたスーパー歌舞伎の「ヤマトタケル」を子供時代に見た四代目市川猿之助は、「とてつもなく新しいものが誕生した」と感じたそうです。

一時は猿之助一門から離れた四代目猿之助ですが、三代目猿之助が病に倒れた後、「猿之助の名跡を受け継いでほしい」と言われたことから、四代目市川猿之助を襲名することを自分の運命として受け入れます

そして、三代目猿之助の「歌舞伎を超えた歌舞伎」の精神を受け継いで、新たな試みである「スーパー歌舞伎II(セカンド)」を2014年に始めることになり、2020年までに三作品を世に送り出しています。

スーパー歌舞伎は市川猿之助の改革精神から始まった

明治以降の新歌舞伎ではリアリズムを追求するあまり、音楽や踊りを無視して役者の芝居だけになってしまいました。

古典歌舞伎に至っては、早替りや宙乗りなどの歌舞伎独特の演出をしなくなったことが、歌舞伎本来の魅力を失い楽しめなくなってしまいます。

この風潮を憂えた三代目猿之助は、そういう歌舞伎の現実に真っ向から異を唱えます。

猿之助は従来の歌舞伎のもつ良さを守りつつ、その時代の文化を吸収して新しいものを創造することを「型破りの創造」と呼び、その精神を常に歌舞伎の舞台で表現しようとします。

たとえば、歌舞伎三大名作の一つ「義経千本桜」の四の切しのきりという場面で、それまでやらなくなっていた宙乗りをするスタイルを復活したのは三代目猿之助です。今では四の切の宙乗りは大人気になり、どの役者もやるようになりました。

また、歌舞伎の世襲や門閥を改革するために、積極的に一般家庭に生まれた国立劇場研修生を一門に入れて弟子にし、大きな役を与えることで、右近(現・右団次)、笑也、笑三郎、春猿(現・新派俳優 河合雪之丞)、猿弥などの優秀な歌舞伎役者を育ててきました。

その一方で、古典歌舞伎の新しい演出や、長らく上演されていなかった演目を復活上演させるなど、伝統的な歌舞伎を大切にすることも忘れていません。

三代目猿之助が昭和61年(1986年)にスーパー歌舞伎を創設してから、他の歌舞伎役者も次々と現代人の心に訴える新しい歌舞伎を生み出しています。

四代目猿之助のスーパー歌舞伎II(セカンド)以外にも、十八代目中村勘三郎によってコクーン歌舞伎赤坂歌舞伎が始まり、九代目松本幸四郎と中村勘九郎、七之助の「阿弖流為あてるい」は歌舞伎NEXTとして上演され、市川海老蔵も六本木歌舞伎で新しい荒事の演目を作り出すなど、三代目猿之助のスーパー歌舞伎が大成功を収めたことは、他の歌舞伎役者たち、特に若い世代に大きな影響を与えています。



スーパー歌舞伎の演目紹介

海賊船

これまでスーパー歌舞伎は、第一作である「ヤマトタケル」から数えて9作品、スーパー歌舞伎II(セカンド)は3作品が上演されていますが、その一覧と代表的な三作品「ヤマトタケル」「ワンピース」「新版オグリ」を紹介します。

スーパー歌舞伎
1986年 ヤマトタケル
1989年 リュウオー・龍王
1991年 オグリ・小栗判官
1993年 八犬伝
1996年 カグヤ
1997年 オオクニヌシ
1999年 新・三国志
2001年 新・三国志II・孔明篇
2003年 新・三国志III・完結篇
スーパー歌舞伎II(セカンド)
2014年 空ヲ刻ム者―若き仏師の物語―
2015年 ワンピース
2019年 新版オグリ

ヤマトタケル

ヤマトタケル」は、1986年に新橋演舞場で初演されたスーパー歌舞伎の記念すべき第一作目です。

哲学者・梅原猛が、神話に登場するヤマトタケルの生涯を壮大な人間ドラマとして書き下ろした脚本を、三代目猿之助が斬新な演出で見事に歌舞伎化した作品です。

<あらすじ>
太古の日本に存在した「大和の国」には、双子の皇子・大碓命おおうすのみこと小碓命おうすのみことがいました。

兄・大碓命は父親であるすめらみことへの疑心から謀反を企てていました。小碓命は兄の謀反を止めようとしてもみ合ううちに、誤って兄を殺してしまいます。これに怒った帝は、小碓命を大和の国に逆らう熊襲の征伐へと追いやります。

父の許しを得るために小碓命は女に化けて熊襲兄弟に近づき、油断した二人を見事に討ち取ります。そして、熊襲の勇者の名である、タケルをとって「ヤマトタケル」と名乗るようになりました。

タケルは熊襲征伐に成功したことを喜んで帝に報告しますが、帝は許す様子を見せず、今度は蝦夷の征伐を命じられることになります。兄を殺した罪を償い、父からの信頼を取り戻すために、愛する弟橘姫と、ただ一人の従者・タケヒコを伴い、まだ見ぬ蝦夷の地へとタケルは旅立つのです・・・

ワンピース

四代目市川猿之助が始めたスーパー歌舞伎II(セカンド)の第二作として選ばれたのは、超人気漫画のワンピースでした。

ワンピースの作者・尾田栄一郎が歌舞伎好きということもあって、歌舞伎化という話が来たそうですが、当の四代目猿之助はワンピースを読んだこともなかったとか。

2017年に再演されたときに、公開三日目に主役のルフィを勤める猿之助が左腕を骨折するというアクシデントに見舞われますが、そのとき代役に立った尾上右近が見事にルフィを演じきり、猿之助の穴を埋める活躍を見せました。

「内容を知らない自分が読んで面白い脚本であれば誰が見ても面白いはず」という、四代目猿之助の考えはズバリと当たって大ヒットとなり、全国動員数40万人を記録しています。

<あらすじ>
主人公の海賊ルフィは、大海賊ゴールド・ロジャーが残した大秘宝「ワンピース」を手に入れて海賊王になることを夢見て、仲間たちと冒険の旅を続けていました。しかし、敵対する海軍との激しい戦いで、仲間達とばらばらになってしまいます。

ルフィは仲間たちとの再会を目指す途中で、兄である海賊エースが海軍に捕まり処刑されることになったと知ると、エースが囚われている大監獄へと救出に向かいます。

監獄へ侵入したルフィはかつての敵ボン・クレーに再会し、監獄の中で自由を謳歌するオカマのイワンコフイナズマとも協力して、共にエースを救出し監獄を脱出しようと激しい戦いを繰り広げます。

しかし監獄署長マゼランの圧倒的力の前にルフィは窮地に陥り、エースも処刑場へと移送されてしまいます・・・

新版オグリ

スーパー歌舞伎の「オグリ・小栗判官」として三代目市川猿之助が1991年に初演した作品を、スーパー歌舞伎II(セカンド)新版オグリ」として2019年に四代目市川猿之助による新たな脚本で復活した作品です。

「オグリ・小栗判官」はブロードウェイで使われたフライング技術を導入した画期的な作品でしたが、「新版オグリ」では新橋演舞場初の客席左右同時両宙乗りを行うなど、さらに進化しています。

<あらすじ>
オグリは文武両道でその容姿も麗しい青年でしたが、自由な生き方を目指して「小栗党」を結成します。

ある時、照手姫てるてひめという美しい娘を嫁入りの輿入れの中から強奪し、オグリと照手姫は惹かれ合いますが、怒った姫の父親によってオグリたちは殺され、照手姫も川に流されてしまいます。

地獄に落ちたオグリと仲間たちは閻魔大王に逆らって争いますが、結局捕らえられて醜い姿となって現世に返されます。

生き返ったオグリは偶然出会った僧と熊野を目指すことになりますが、途中で再会した照手姫はオグリと分からずにまた別れて行ってしまうのです・・・

「ナウシカ」「ナルト」もスーパー歌舞伎?

新作歌舞伎ナルトは世界的忍者漫画が原作

スーパー歌舞伎II(セカンド)「ワンピース」のヒット以降、漫画を原作とした歌舞伎作品の「ナルト」、「風の谷のナウシカ」が作られました。

漫画を原作とする歌舞伎は「ワンピース」のイメージが強かったせいか、これら2つの作品もスーパー歌舞伎シリーズと誤解している人が多いようです。しかし、「ナルト」も「風の谷のナウシカ」も「新作歌舞伎」と位置づけられる、新たな脚本で作られた作品ということになり、スーパー歌舞伎ではありません

しかし、どちらも歌舞伎のスタイルを持ちながら、現代の若者に理解しやすい内容で、若手の歌舞伎役者による斬新な演出を取り入れているところは、スーパー歌舞伎の精神に通じるものがあります。

江戸時代には、人形浄瑠璃のヒット作を歌舞伎に移したものが人気を集めていたように、歌舞伎は世の中の流行りを敏感に取り入れて発展してきました。今後も漫画を原作とする歌舞伎作品は増えていくのかもしれませんね。

スーパー歌舞伎を見るには?

2020年6月現在、スーパー歌舞伎、スーパー歌舞伎II(セカンド)の公演情報やシネマ歌舞伎での上演予定はありませんが、情報が入り次第お知らせします。

三代目猿之助主演のスーパー歌舞伎「ヤマトタケル」のDVDは発売されているので、まだ見ていない方はぜひ御覧ください。

歌舞伎名作撰 ヤマトタケル [DVD]

まとめ

三代目市川猿之助によって創設された「スーパー歌舞伎」は、従来の歌舞伎よりも、スピード、スペクタクル、ストーリーを重視した内容で、現代の観客の心に響く新たな歌舞伎として、大ヒットを収めました。

四代目市川猿之助はスーパー歌舞伎の精神を受け継いだ「スーパー歌舞伎II(セカンド)」を創設し、「ワンピース」などのヒット作を生み出しています。

スーパー歌舞伎の成功は他の役者たちにも影響を与え、「コクーン歌舞伎」「歌舞伎NEXT」「六本木歌舞伎」など、従来の歌舞伎の概念を打ち破るような作品が次々と生まれ、「ワンピース」の成功以後は、「ナルト」「風の谷のナウシカ」などの漫画を原作とした新作歌舞伎も作られるなど、若い人にも歌舞伎の魅力を伝えることができる作品が創られ始めました。

三代目猿之助の「歌舞伎であって歌舞伎を超えるもの」を作ろうとする精神は、これからの歌舞伎界を大きく変えていく原動力となっているのです。

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