歌舞伎三大名作『義経千本桜』とは?あらすじ・見どころ・登場人物を徹底解説
🎭 歌舞伎を代表する三大名作のひとつ、 『義経千本桜』。
📚 源義経の都落ちを軸に、平知盛ら平家残党の運命、いがみの権太の人情、狐忠信の不思議譚が交錯します。時代物×世話物×伝奇が一体となった超大作です。⚡️
📝 本記事では、『義経千本桜』の
あらすじ・登場人物・名場面の見どころを初心者にもわかりやすく解説。さらに、構成(各段)も整理して、観劇前の予習に役立つ要点をまとめます。
✨ 初めて見る方でも、物語の流れと見どころを押さえれば、『義経千本桜』が歌舞伎三大名作と称される理由が自然と見えてきますよ。💡
目 次
歌舞伎三大名作!『義経千本桜』とは?
歌舞伎演目『義経千本桜』は、源義経の都落ち後を舞台に、義経・平家残党・市井の人々の生と死が重層的に描かれる、五段続の大作。
延享4年(1747)11月に大坂竹本座で人形浄瑠璃として初演され、翌年となる寛延元年(1748)5月には歌舞伎化され江戸中村座で初演されました。「菅原伝授手習鑑」「仮名手本忠臣蔵」と並ぶ歌舞伎三大名作に数えられます。
| 初段 | 大内(仙洞御所)/北嵯峨庵室/堀川御所 |
|---|---|
| 二段目 | 伏見稲荷(鳥居前)/渡海屋・大物浦 |
| 三段目 | 椎の木/小金吾討死/すし屋 |
| 四段目 | 道行初音旅(吉野山)/蔵王堂/川連法眼館(四の切) |
| 五段目 | 吉野山の段 |
その中でも特に人気があって有名な以下の場面は、単独でも何度も上演されています。
- 「伏見稲荷(鳥居前)」⛩️ … 義経と静御前が別れ、再会の証として初音の鼓を託す。
- 「渡海屋・大物浦」⚓️ … 知盛の入水〈碇知盛〉、壮絶な大詰。
- 「すし屋」🍣 … いがみの権太が悪と情のあいだでもがく人情劇。
- 「道行初音旅(吉野山)」🎶 … 静と忠信のロマンティックな道行。
- 「川連法眼館(四の切)」🦊 … 狐忠信が宙乗り・早替りで暴れ回るケレンの極み。
✨ 一幕ごとに趣向が違い、それぞれ独立して楽しめますが、通して観ると時代物の豪壮さ・世話物の人情・伝奇のケレンが響き合い、『義経千本桜』という作品のスケールが一気に広がります。まさに“歌舞伎の縮図”ともいえる醍醐味です🌟。
義経千本桜の登場人物
『義経千本桜』には、義経一行、平家の武将、そして庶民の権太一家まで多彩な人物が登場。時代物のスケールと世話物の泣き、伝奇の楽しさが同居します。主な登場人物を整理しておきます。
立場抜群の武勲を誇る源氏の若武者。兄・頼朝に疎まれ、都落ちして吉野へ。
人物像武勇と気品を兼ねるが、運命に翻弄される悲劇性も。
登場場面「鳥居前」「渡海屋・大物浦」「川連法眼館」ほか。
立場義経の寵愛を受けた白拍子
人物像義経に初音の鼓を形見にもらい忠信をお供に吉野へ向かう。歌舞伎ではお姫様として描かれる。
登場場面「鳥居前」「道行初音旅」「川連法眼館」
立場義経家臣・忠信/狐の化身
人物像静御前のピンチを救い共に吉野に向かう。鼓の皮となった親狐を慕って忠信に化けて静御前に近づいた。本物の忠信も登場する。
登場場面「鳥居前」「吉野山」「川連法眼館」
立場平家の猛将
人物像廻船問屋・渡海屋の主人銀平として身分を偽っているが、本当は平家の勇猛な武将。義経を討つために白装束をまとい亡霊の姿で挑むが敗れ、碇とともに入水する壮絶な最期を遂げる――碇知盛の名場面。
登場場面「渡海屋・大物浦」
立場渡海屋の女房・お柳として登場するが、その正体は平家の女官・典侍の局
人物像滅亡した平家の再興を信じ、知盛と共に安徳帝を守る。母のような包容力と凛とした覚悟を備え、静御前とは対をなす女性の強さを象徴する存在。
登場場面「渡海屋・大物浦」
立場銀平(実は平知盛)の娘・お安の姿に身をやつした幼帝
人物像大物浦で平家再興を願う知盛と共に登場。幼いながらも高貴な風格を漂わせ、滅びゆく平家の象徴として描かれる。史実では男子だが歌舞伎では女の子になっている。
登場場面「渡海屋・大物浦」
立場義経に仕える僧兵
人物像怪力無双で義経の忠臣。『義経千本桜』では登場場面は多くないが、主君を支える影の存在として随所に威厳を見せる。
登場場面「鳥居前」「渡海屋・大物浦」他
立場平維盛の家臣。若葉の内侍・六代君の護衛として高野山への道中に付き従う。
人物像若武者。多勢の追手に斬り込んで二人を逃がし、自らは討死。その首が後段「すし屋」で思わぬ役割を果たす。
登場場面「木の実」「小金吾討死」
立場平重盛の息子で三位中将
人物像壇ノ浦の戦いで入水したとされるが、実は生き延びてすし屋の奉公人・弥助と偽り身を隠して暮らしている。高貴さを隠しきれない品格を持つ。妻は若葉の内侍、息子は六代君。
登場場面「すし屋」
立場すし屋の放蕩息子
人物像父親に勘当されるような放蕩息子で、ゆすり・たかりもお手の物。だが本当は、奥さんと子どものためにまっとうに生き直したいと願っている。その不器用な優しさが、悲劇を呼ぶことになる。
登場場面「木の実」「すし屋」
立場大和国下市で鮓屋を営む。権太の父親。かつては平重盛の船運を手伝った船頭
人物像かつて重盛の黄金三千両を運ぶ途中で盗んでしまった過去を持つが、重盛に許されたことで深く恩を感じ、その子・平維盛を匿い命を懸けて守ろうとする。息子・権太の放蕩ぶりに怒って勘当している。
登場場面「小金吾討死」「すし屋」
立場鎌倉方の武将。頼朝に仕え、平家残党の詮議を行う
人物像冷静沈着な詮議役。「すし屋」では維盛の首が偽物であることを承知の上で受け取り、頼朝の恩返しの意を代弁するように、維盛たちを見逃す。
登場場面「すし屋」
立場頼朝方の追っ手。義経を追い、吉野山に潜む。
人物像粗暴で短絡的な性格。静御前を捕えようとするが、狐忠信の妖術に惑わされ退治される。敵役ながら滑稽味があり、場面の緩急を生む存在。
登場場面「鳥居前」「吉野山」
立場義経の家臣。駿河次郎とともに常に主君に付き従う。
人物像実直で忠義に厚い武士。鳥居前から大物浦、そして川連法眼館まで義経を守り抜く。駿河次郎と息の合った行動を見せる。
登場場面「鳥居前」「大物浦」「川連法眼館」
立場義経の家臣。亀井六郎と行動を共にし、主君を守る。
人物像沈着冷静で判断力のある家臣。六郎と対をなす存在で、義経一行の理性的な支えとなる。三幕を通して義経の忠臣ぶりを示す。
登場場面「鳥居前」「大物浦」「川連法眼館」
立場吉野山を支配する衆徒の頭。若き日の義経(牛若丸)と鞍馬で面識があり、その縁をたよりに館を開いて一行をかくまう。
人物像思慮深く誠実な人物。表では頼朝方に従う姿勢を見せつつも、心中では義経への情を捨てず、危険を承知で庇護する。山の主としての威厳と温かさをあわせ持つ。
登場場面「蔵王堂」「川連法眼館」
義経千本桜のあらすじと見どころを解説
ここでは近年よく上演される名場面『鳥居前』『渡海屋・大物浦』『木の実』『小金吾討死』『すし屋』『道行初音旅(吉野山)』『川連法眼館(四の切)』を中心に、あらすじと見どころを要点で解説します。
⛩️ 鳥居前 〜義経と静の別れ、初音の鼓のはじまり〜

鳥居前
兄・源頼朝に謀反の疑いをかけられ、都落ちする源義経とその一行。
夜更けの伏見稲荷で一行がひと息つくと、義経を慕う静御前が追いつきます。けれど危険な旅に女を連れてはいけぬと、義経は同道を許さず、再会までの形見として初音の鼓を手渡します。
泣きすがる静を梅の古木に鼓の緒で縛りつけ、やむなく一行は西国へ向かうのです…😢
取り残された静の前に、頼朝方の追っ手・逸見藤太が現れます。静を捕らえようとしたその瞬間、飛び出すのが義経の家臣・佐藤忠信。
豪快な立廻りで敵を蹴散らし、静を救い出します。戻った義経は忠信の働きを称え、自らの鎧と「源九郎」の名を授けて静の守護を託しました。ここから“狐忠信”の物語が動き始めます。
- 🥊💔 義経と静御前の別れ
…梅の古木に縛られる静の姿が胸を打つ。
再会の願いと現実の非情さが交錯する中、”初音の鼓”だけが二人の絆。 - 🥋✨ 荒事の粋を集めた忠信の立廻り
…火焔隈・化粧襷・菱皮の鬘・四天姿で演じられる勇姿はまさに歌舞伎的ヒーロー像。
元禄見得、石投げの見得など荒事のエッセンスがぎっしり詰まる。 - 🦊🎭 幕切れの狐六方
…花道の引っ込みでは、忠信が狐の化身であることを暗示する「狐六方」。
原作では伏せられていた正体を、歌舞伎では早くも明示して観客を魅了する。 - 💫🥊 鼓がつなぐ物語のプロローグ
…ここで託された鼓が、のちの吉野山・川連法眼館へ続く縦糸に。
『義経千本桜』の主役の一人、源九郎狐を語るうえで欠かせないエピソードです。
🌊 渡海屋・大物浦 〜復讐の炎から鎮魂の海へ〜

大物浦の「碇知盛」
⚔️京から追われた源義経一行は、摂津国・大物浦にある廻船問屋・渡海屋で九州へ渡る船を待っています。
この宿の主人・銀平は、実は壇ノ浦で戦死したはずの平知盛であり、典侍の局と安徳帝も、女房のお柳・娘のお安と立場を偽り、ともにこの渡海屋に潜伏していたのです。⚓️
平家の怨みを晴らさんとする知盛は、義経一行を海上におびき出して討とうと一計を案じます。🌊
悪天候の中、義経一行を無理に船出させた知盛は、ついに正体を現します――銀烏帽子に白装束、亡霊の鎧姿となって、典侍の局や女官たちが見送る中、義経の船を追って出航します。👻🚢
🌅渡海屋の奥座敷では、知盛と義経たちの海上での戦いの様子を典侍の局たちが見つめていました。
やがて知盛の家来が戦況を報告に駆けつけますが、知盛の策略は義経に見破られており、戦局は不利であることが伝えられます🔥
海上の合図の火が次々と消えていくのを見た典侍の局たちは戦の敗北を悟り、一人また一人と海へ身を投げていきます。最後に典侍の局が安徳帝とともに入水しようとしますが、かけつけた義経の家臣に阻まれます⛩️
⚡️血まみれとなって戻った知盛は、なおも義経を襲いますが、「安徳帝の命は保証する」という言葉に戦いをやめると、自らの体に碇綱を巻きつけ、海へ身を投じて壮絶な最期を遂げるのです⚓️💀
典侍の局も帝を義経に託して自ら命を絶ち、弁慶が吹く鎮魂の法螺貝の音が響く中、義経一行は静かに大物浦を後にします🕊️🎐
- 🎭 銀平→知盛の変身
…渡海屋の市井の顔から、白装束の幽霊姿へ。障子が開く一瞬で舞台の空気が総毛立つ。 - 🪝 《碇知盛》の入水大技
…背面飛びで海へダイブ。頭上高く巨大な碇を掲げ、V字に開いた足の裏が天井を向いたまま落ちるのが理想形。タイミングを誤れば大怪我必至の真剣勝負。 - 🩸 凄みの造形:血痕・乱髪
…死闘で染まった衣裳と乱れ髪が、復讐の鬼としての迫力を極限まで引き上げる。 - 👑 安徳帝の一声がもたらす反転
…「仇に思うな、これ知盛」——この一言で、知盛の心に鎮魂の静けさが戻り、英雄的な最期へ。 - 📯 法螺貝が鳴らす鎮魂
…知盛が海へ消えた後、弁慶の法螺貝が静かな海に響く。哀切と余韻が客席を包み、のちの義経の悲劇を暗示。
🌰 木の実 〜小さな茶店で交わる運命のいたずら〜
大和・下市村の茶店に、平維盛の妻・若葉の内侍と一子・六代君、家来の主馬小金吾がやってきます🍵
一行は維盛をたずねて高野山へ向かう途中で、休息のため茶店に立ち寄り、若君の気晴らしに木の実を拾って過ごします🌿
そこへ通りがかりの男が現れ、荷物の取り違えをきっかけに金をゆすり取るという騒動が起きます。男は村でも評判の悪い無頼漢、いがみの権太でした⚡️
小金吾は怒りますが、平家の残党と知れれば命取りになるため、涙をのんで銀を差し出し、一行は去ります😢
残された茶店の女・小せん(権太の妻)がこれ以上悪事を重ねることをやめるよう改心を促します。息子の善太にも懇願されて、権太も思いとどまり、家族は帰宅の途につきます🏡
- 🍂 落人の悲哀
…明らかな強請(ゆす)りにあっても、平家の残党と知られることを恐れ、ただ従うしかない若葉の内侍母子。沈黙の中に誇りと無力さが交錯する。 - 🧙 権太の変貌
…人懐っこい親切心から一転、金を奪う悪人の顔に。だが妻や子に諭されると耳を傾ける姿に、人の情がかすかに透けるところが、後に重要なポイントになる。
⚔️ 小金吾討死 〜忠義の最期と、権太の父の決断〜
藤原朝方の追手に囲まれた主馬小金吾は、若葉の内侍母子を逃がすために必死の立ち回りを繰り広げ、満身創痍となりながらも敵を討ち払い、なんとかその場を逃れます⚔️
追手から逃れたものの瀕死の重傷を負った小金吾は、若葉の内侍と六代君に対して高野山へ行き維盛に会うことを懇願し、二人を立ち去らせて息絶えます😢
そこへ偶然通りかかった村人たちの中に、権太の父親である釣瓶鮓屋の弥左衛門がいました。鎌倉方の梶原景時から維盛の首を差し出すよう命じられていた彼は、小金吾の死骸を見て何を思ったか、その首を切り落として包みに隠し持ち帰るのです🕊️
- ⚔️ 捕り縄とドンタッポの妙技
…“立ち回りの神様”坂東八重之助が工夫を凝らして作り上げた捕り縄を使う独特の大胆な動き。ゆったりとしたドンタッポのリズムが印象的。 - 🧔 少年の姿に宿る大人の覚悟
…小金吾は元服前の若衆ながら実年齢は成人。死を目前にしても若君に冷静な指示を与える姿に、家臣としての誇りと成熟がにじむ。
🍣 すし屋 〜親子の情と命を懸けた改心〜

「すし屋」権太のモドリ
下市村の「釣瓶鮓屋(つるべずしや)」では、娘のお里が下男の弥助との祝言を控え、母のお米とともに父・弥左衛門の帰りを待っています。そこへ家出していた兄の権太が現れ、年貢を盗まれたと泣きつき、母からこっそり銀をせびります。そこへ弥左衛門が帰宅したため、権太は鮓桶に銀を隠して奥へ身をひそめました🍶
弥左衛門は密かに持ち帰った首をその鮓桶に入れます。実は下男の弥助は平家の公達・平維盛の仮の姿で、弥左衛門はかつて維盛の父・重盛に恩義を受けた縁で維盛をかくまっていたのです。そこへ一夜の宿を求めて現れたのは、妻の若葉の内侍と幼い六代君。三人は思わぬ再会を果たします。維盛に惚れているお里は事実を知り悲しみに暮れますが、維盛一家を密かに逃がすことに。ところが奥で話を聞いていた権太は、捕まえて報奨金をもらうと叫んで鮓桶を抱えて維盛たちを追って家を飛び出します🌙
そして、鎌倉方の梶原平三景時が維盛探索のため弥左衛門のすし屋に来訪。弥左衛門が応対に困っていると、権太が現れ、維盛の首と内侍母子を捕らえたと差し出します。梶原は首を確認して本物と断じ、頼朝の陣羽織を褒美として権太に与えて帰っていきます⚔️
激怒した弥左衛門が権太を刺すと、瀕死の権太は真実を明かします。弥助の正体を察した彼は、改心して維盛を逃がすために動いていたのです。梶原に差し出したのは桶に入っていた小金吾の首で、縄をかけられたのは若葉の内侍母子に扮した自らの妻・小せんと息子・善太でした😭
権太がお米に笛を吹かせたのを合図に維盛が姿を現し、頼朝の陣羽織を裂くと、袈裟と数珠が現れます。かつて父・重盛に救われた恩に報いるため、頼朝は梶原を通して維盛を助け出家させようとしていたのです。維盛は高野山へ旅立ち、弥左衛門も内侍母子の供をして去っていきます。母とお里に看取られ、権太は静かに息を引き取りました🕊️
- 🥰 お里と弥助の色模様
…上品な弥助と、素朴で健気なお里の対比が微笑ましい。父の言葉を聞いての「夫婦の練習」や、夜の名台詞「お月さんも寝やしゃんしたわいな」など、可愛らしくも艶のある場面が続く。 - 👤 弥助の正体が明かされる瞬間
…すし屋の奉公人と思いきや、実は平家の武将平・維盛。庶民の中に潜む高貴さ、静かに滲む品格が見どころ。 - 🧡 権太の「モドリ」
…悪人と見えた権太が、父に刺されてから真相を明かす感動の場面。刺されるまでは悪人として演じ通すのがセオリーで、善人の本性をにじませすぎない“さじ加減”が役者の腕の見せどころ。 - 🧑🎨 左目尻のホクロの由来
…この役を当たり役にした五代目 松本幸四郎のトレードマークが左目尻のホクロ。以来、権太を演じる際にホクロを描くのが伝統になったという、粋な芝居ごころ。
悪人に見えた人物が、じつは情や善意を秘めていたと最後に明かされる演出を「モドリ」と言います。本心がわかるまでは悪人として演じ通すのが型。途中で“いい人”を匂わせすぎるのはタブーとされ、演者の技量が試されます。他の例としては、『実盛物語』の瀬尾十郎、『摂州合邦辻(せっしゅうがっぽうがつじ)』の玉手御前、などがあります。近年では、『風の谷のナウシカ』でナウシカとクシャナの関係にも“モドリ”の手法を重ねていると八代目 菊五郎は語っています。
🌸 道行初音旅(吉野山) 〜桜に舞う恋と忠義の道行〜

「道行初音旅」吉野山での一幕
都を追われた義経を慕い、静御前は満開の桜咲く大和・吉野へと旅立ちます。旅の途上、ともにここまで来た義経の家臣・佐藤忠信を探して初音の鼓を打つと、その澄んだ音に呼ばれるように忠信が旅姿で現れます。二人は義経から賜った鎧と鼓を前に語り合い、忠信は源平合戦の記憶を力強く語ります。
花霞の中で寄り添い時に涙しながら、二人の主従は吉野の山々を目指します。そこへ鎌倉方の追手逸見藤太が、静を奪わんと立ちはだかりますが、忠信は軽妙な立廻りでこれを退けます。
やがて、静が鼓を打つたびに忠信の身ぶりにどこか怪しいそぶりが――それは後に明かされる“正体”への伏線となっていくのです。
- 🦊 時折のぞく狐の本性
…静が戯れて鼓を取ろうとすると、「さわるな!」と言わんばかりに忠信がきっと静を見上げる瞬間。主従の関係を忘れた一瞬の素顔です。所々で見せる狐の手を思わせる丸い指先の形にも注目。 - 🌸 詩情あふれる舞踊美
…満開の桜に包まれながら進む静と忠信の道行は、義太夫と三味線の音に寄り添って展開される品格ある舞踊劇。しっとりとした情感の中に、主従の信頼と心のつながりが穏やかに描かれます。
🐉 川連法眼館(四の切) 〜狐忠信の正体と別れ〜

「川連法眼館」正体を現した源九郎狐
吉野山の僧たちの頭川連法眼(かわつらほうげん)の館に、ひそかに身を潜めている義経。そこへ旅装姿の佐藤忠信が現れます。義経は「伏見で静御前を預けたはず」と問いただすが、忠信はなにも知らないと困惑。そこに「静御前が忠信を伴って到着した」との知らせが入り、館の中には二人の忠信が存在するという不思議な事態に。
義経は真偽を確かめるため、忠信を奥に下がらせ、静に命じて初音の鼓を打たせます。すると、鼓の音に惹かれるようにもう一人の忠信が現れ、鼓を見つめて恍惚とした表情をみせるのです。その姿を静が問いただすと、忠信はついに自らの正体を語り始めます――彼はその鼓の皮にされた夫婦狐の子であり、親を慕うあまり人間に姿を変えて静に付き従ってきた狐の化身だったのです。
義経は、肉親の縁薄い自らの境遇を思い、狐を哀れに感じて初音の鼓を与えます。喜び勇んだ狐忠信は、義経を狙って悪僧たちが夜襲をしかけてくることを告げると、やってきた悪僧たちを怪しげな技で散々に翻弄し、故郷の山へと帰っていくのでした。
- 🦊 忠信⇄源九郎狐の演じ分け
…同じ俳優が、実直な武士・佐藤忠信と、無邪気でおどけた源九郎狐を演じ分ける妙味。変身後は真っ白な毛並みの長いぬいぐるみのような狐姿となり、狐手や語尾を上げた台詞で狐らしさを表現する。 - ✨ ケレンの冴え
…早変わり、欄干渡り、階段の三段の仕掛けなど、驚きの趣向が連発。
御殿から消えて縁の下・舞台袖へと現れる狐の神通力表現も見もの。 - 🥁 初音の鼓が結ぶ情と哀しみ
…鼓の皮となった両親を慕う狐の切ない思いに、家族の縁に恵まれなかった義経が自らを重ねて鼓を与える。
その思いが舞台全体を包み込み涙を誘う。
狐忠信がラストに宙乗りで去っていく演出は、昭和43(1968)年4月、国立劇場で二代目 市川猿翁(故人・当時三代目 猿之助)が取り入れたことから始まりました。従来は舞台上手(かみて)の木の上に登ってポーズを決めて幕となる音羽屋型のラストでした。猿翁の澤瀉屋型はスケールの大きな空の演出、音羽屋型は情緒を重んじた静の終幕。どちらにも、それぞれの魅力がありますね。
🎭 『義経千本桜』 — 近年の名優&これからの期待
歌舞伎三大名作の一つ『義経千本桜』は、幾度も上演され、多くの名優がそれぞれの役を磨いてきました。
その中でも物語の主軸を担う三人――知盛・権太・忠信について、当たり役として名高い俳優と、今後に期待される俳優を紹介します。
⚔️ 一世一代の平知盛:片岡仁左衛門
戦後、知盛をもっとも多く勤めたのは二代目 市川猿翁で、その回数は11回にのぼりますが、狐忠信の印象が強い猿翁による知盛は、やや意外にも思えます。
平成以降では片岡仁左衛門が6度にわたりこの役を勤め、まさに現代を代表する知盛役者といえます。
そもそも『渡海屋・大物浦』は上演頻度がそれほど多くない演目であり、仁左衛門本人は次のように語っています。
また『あらすじで読む歌舞伎50選』では、次のように評されています。
「仁左衛門には悽愴な悲劇性がある」『あらすじで読む歌舞伎50選』(P12)より
人間味と滅びの美を併せ持つ――まさに仁左衛門らしい知盛像といえるでしょう。
残念ながら、令和四年(2022)2月の公演が「一世一代」として仁左衛門の最後の知盛となり、以後この姿を舞台で見ることはできなくなりました。しかし、その静かで凛とした佇まいは、今も多くの観客の記憶に深く刻まれています🌊
🔰 これからの期待:獅童、松也…いや中村隼人か⁉️
重厚な大役として知られる知盛ですが、近年は若手が挑む機会も増えているようです。中村獅童、尾上松也がそれぞれ二度勤めています。
そして2025年10月の通し狂言『義経千本桜』では、中村隼人と坂東巳之助が、片岡仁左衛門の指導のもとダブルキャストで知盛を勤めています。
特に隼人は、
Yahoo!ニュース
今後、隼人がこの役をどう深めていくか――“令和の知盛像”として期待が高まります。
💎 ワルといえば…七代目・尾上菊五郎
“いがみの権太”といえば、近年では片岡仁左衛門の当たり役としても知られますが、
無頼漢・放蕩息子といった“悪”を演じさせたら右に出る者なし――それが七代目 尾上菊五郎です。
八度目の権太を勤めた2022年6月・博多座公演では、円熟の芝居で観客を魅了しました。
音羽屋にとって権太は代々受け継がれてきた特別な役どころ。
江戸風の粋と人情を融合させた“音羽屋型の権太”は、今も多くの観客を惹きつけています🎭
🔰 これからの期待:尾上松緑
その“いがみの権太”を2025年10月の通し狂言『義経千本桜』で、片岡仁左衛門とダブルキャストで勤めるのが尾上松緑です。
上方の型で演じる仁左衛門に対し、松緑は音羽屋型で臨む構成となっています。
歌舞伎美人
本人もそう語るほどの思い入れがある役だけに、
これからも松緑による“音羽屋の権太”が多くの舞台で見られそうです。🍣⚔️
💎 宙乗り世界一!二代目 市川猿翁
狐忠信といえば、この人を思い浮かべる方も多いでしょう。
二代目 市川猿翁は、狐忠信に宙乗りを取り入れた張本人。大人気を博し、スーパー歌舞伎なども含めて生涯で5000回以上の宙乗りを披露し、ギネスブックにも登録されています🪶
その魅力は宙乗りだけにとどまりません。
類まれな身体能力と柔軟な発想力で、数々のケレン味あふれる演出を成功させ、まさに現代歌舞伎の革命児でした。
“狐忠信”としての上演回数はダントツの41回。まさに伝説の域です🦊⚔️
🔰 これからの期待:市川團子
二代目 猿翁が2023年に世を去り、同じく狐忠信を得意としていた四代目 猿之助も舞台から遠ざかっている今、次代の”狐忠信”として期待を集めるのは、やはり市川團子です🌸
KabuKabu
そう語っていた團子少年も、いまや“同じ舞台”から“同じ役”を演じる立場に。
2025年10月の通し狂言『義経千本桜』では、祖父ゆずりの華やかな宙乗りを披露します。
ファンだけでなく、きっと天国の猿翁もその姿を見守っていることでしょう🎭🪶
義経千本桜の上演情報
歌舞伎三大名作の一つ『義経千本桜』の上演情報を紹介します。
2025年10月 歌舞伎座「錦秋十月大歌舞伎」
2025年は松竹130周年を記念して歌舞伎三大名作の通し上演が行われます、3月の『仮名手本忠臣蔵』、9月の『菅原伝授手習鑑』に続き、10月に『義経千本桜』が通し上演されます。
🎭 まとめ:『義経千本桜』が「三大名作」と呼ばれる理由
- ⚔️ 三様のドラマが交錯:時代物(武家)×世話物(市井)×伝奇(狐)が一作に融合。
- 💡 名場面の強度:「渡海屋・大物浦」⚓「すし屋」🍣「四の切」🦊 ほか、単独上演でも映える。
- 👤 魅力的な主人公たち:知盛の滅びの美、権太の“モドリ”、狐忠信の情と技が物語を牽引。
- 🥁 音曲と舞台技巧:義太夫・三味線に、入水・早替り・宙乗りなどのケレンが重なる総合芸術。
- ⭐️ 名優が更新する伝統:仁左衛門・菊五郎・猿翁らの当代の解釈が“決定版”を磨き続ける。
✨ 歌舞伎の精髄を一作に凝縮した『義経千本桜』。
通しでも一幕でも、舞台でこそ冴える迫力と余韻を体験してください。🌟🎭
参考資料
【ウェブサイト】
「歌舞伎公式総合サイト『歌舞伎美人』」
「歌舞伎オンザウェブ」
「文化デジタルライブラリー」
【書籍】
「増補版 歌舞伎手帖」
「あらすじで読む 名作歌舞伎50選」
「最新版 歌舞伎の解剖図鑑」
「役者がわかる!演目がわかる!歌舞伎入門」
「KabuKabu 八代目尾上菊五郎・六代目尾上菊之助 襲名披露特集」
「ほうおう 2025年11月号」
「歌舞伎座筋書 令和五年六月」他
【テレビ】
「日曜ゴールデンシアター『義経千本桜 渡海屋・大物浦』 BS松竹東急 (2023年7月30日放送)」
「日曜ゴールデンシアター『吉野山』 BS松竹東急 (2023年11月19日放送)」
「日曜ゴールデンシアター『鳥居前』 BS松竹東急 (2025年6月21日放送)」
一部AIを用いたライティング・画像編集支援を行っていますが、最終的な編集・事実確認・表現調整はすべて人の手で行っております。









