歌舞伎の人気演目「助六」のあらすじを簡単解説!お寿司の名前の由来は?
歌舞伎の演目で、一番派手で華やかなものと言えば、「助六由縁江戸桜」でまちがいありません!
通称「助六」と言いますが、ここでは助六の、あらすじや見どころ、登場人物や成立した歴史などを紹介し、まだ見たことがない人にもわかりやすく、助六の魅力と人気の理由を解説していきます。
また、歌舞伎十八番の演目の一つでもあり、上演に関して特別な決まりがあることや、助六寿司の名前の由来、公演情報、助六のDVD、浅草にある助六から名前をとった食堂SUKE6DINERなども紹介します。
目 次
助六のあらすじを簡単解説
花のお江戸で一番の伊達男「助六」の魅力をあらすじで紹介します。江戸時代へタイムスリップして助六と一緒にけんか祭りを楽しんでください。
吉原で一番の花魁・揚巻登場
舞台は江戸一番の歓楽街である吉原仲之町の三浦屋前。華やかに着飾った花魁たちが揃う中、ひときわ目立つ美貌の花魁・揚巻が花道から登場します。
そこへ多くの従者を引き連れて現れたのは、白髪白ひげのお大尽・意休。揚巻に熱を上げる意休は、夜毎吉原に通いつめていますが、揚巻には助六という恋人がいるので一向に相手にされません。
業を煮やした意休が助六の悪口を言い出すと、揚巻は見事な啖呵を切って、意休に愛想尽かしの悪態をつき、三浦屋の店内へと消えていきます。
助六登場でけんか祭り開幕!
そしてようやく、助六(実は曾我五郎)が花道から登場します。江戸一番のいい男っぷりを存分にアピールしながら舞台へ上がった助六は、女郎たちから次々と煙管を受け取りモテモテぶりを意休に見せつけます。
助六は意休に刀を抜かせようと散々悪態をついたり、下駄を頭の上に乗せたりと挑発しますが、意休は乗ってきません。意休の子分・くゎんぺら門兵衛や朝顔仙平を叩きのめしても意休はついに刀を抜かず、そのまま店の中へ。
そこへ助六の兄・白酒売の新兵衛(実は曾我十郎)がやってきて、喧嘩ばかりしている助六をたしなめます。すると助六は、失われた家宝の友切丸を探すために喧嘩をふっかけ刀を抜かせているのだと言うのです。それには新兵衛も納得し、それだけでなく自分にも喧嘩を教えてくれと頼むのです。
それから二人は通りがかった田舎侍や通人・里暁に「股ぁくぐれ!」と喧嘩をふっかけ股くぐりをさせます。次に揚巻と共に現れた侍にも喧嘩をふっかけますが、なんと助六と新兵衛兄弟の母親・曾我満江でした。
二人をさんざん叱った満江は、助六が友切丸を探していることには理解を示しますが、二度と喧嘩をしないようにと、紙衣(紙の着物)を助六に着せて、新兵衛を伴って花道から退場していきます。
意休との因縁の決着は?
再び意休が現れると、助六は床几(長椅子)の下に隠れますが、すぐに見つかってしまいます。今度は意休が散々助六を挑発しますが、助六は母の紙衣の教えを守って手を出しません。
乗ってこない助六に怒った意休はついに刀を抜きますが、その刀こそ助六が探し求めていた友切丸だったのです。
すぐに意休を討とうとする助六を揚巻がたしなめます。店内に逃げた意休がふたたび出てきたところで刀を取り返すことを誓って、助六は颯爽と花道を引き上げていくのでした。
正式名称は「助六由縁江戸桜」(すけろくゆかりのえどざくら)
助六というのは通称で、助六由縁江戸桜が、現代の本外題(正式名称)です。
初演は正徳三年(1713年)江戸の山村座で、二代目團十郎が「花館愛護桜」のタイトルで助六を演じたのが最初だと言われています。
市川團十郎家のお家芸である歌舞伎十八番の人気演目ですが、他家が演じるときはタイトルや音楽が変えて演じられるのも特徴です。
助六は江戸一番のイケメンの物語
助六は粋でいなせで喧嘩も強い色男で、吉原一の花魁を恋人に持ち、権力者をやっつけるという、まさに江戸っ子の理想像を体現したようなキャラクターです。当時の江戸の若衆たちは、こぞって助六の髷を真似していたそうです。
元々は上方(京都・大坂)での心中事件を歌舞伎や人形浄瑠璃として劇化されたものを、江戸歌舞伎で違うキャラクターにして世話物の歌舞伎芝居に作り変え、「花館愛護桜」として上演したのが二代目市川團十郎です。
その後、正徳六年(1716年)に「式礼和曾我」のタイトルで上演された時から、「助六は実は曾我五郎時致」という設定になりました。
助六由縁江戸桜は、華やかな江戸・吉原を舞台にして、当時の人たちの美意識と憧れが随所に見られる、江戸っ子の祝祭とも言えるとても貴重な演目なのです。
歌舞伎十八番の人気演目
歌舞伎十八番とは市川團十郎家のお家芸として定められた18演目ですが、その中でも、江戸っ子の美意識の集大成となった助六は、市川家の最高の家の芸とされています。
江戸時代には團十郎が「助六」を演じるときは、まずご贔屓の吉原と蔵前、魚河岸へ上演の挨拶に行き、吉原と蔵前、魚河岸からは芝居で使う傘や下駄、提灯、鉢巻、煙管などが贈られる習慣がありました。今は魚河岸から目録が贈られるそうです。
また、助六の音楽は、通常の歌舞伎音楽を担当する常磐津や清元ではなく、河東節十寸見会という浄瑠璃の一派が担当することになっています。
芝居が始まる前に役者が「口上」を述べる場面がありますが、そのときに魚河岸や吉原、蔵前との関わりや、河東節十寸見会への感謝を述べるのが慣例です。このように、昔からいろいろな人たちから花を添えられ、愛されている舞台が助六なのです。
歌舞伎十八番について詳しくは以下のページも御覧ください。
助六の魅力的な登場人物たち
助六由縁江戸桜は華やかな江戸の吉原が舞台となっており、登場人物たちの個性も際立っています。主な登場人物を以下に紹介します。
花川戸助六 |
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主人公。通称・助六。町人に扮しているが、本当は曾我五郎時致という源氏の武士。吉原一の花魁・揚巻を恋人とし、江戸一番の粋でいなせな色男。マシンガントークのような早口で啖呵を切り、侍に片っ端から喧嘩をふっかけては刀を抜かせ、失われた家宝の友切丸を探している。江戸紫の鉢巻がトレードマーク。 |
揚巻 |
助六の恋人で、吉原最高級の遊郭・三浦屋で一番の花魁。ゴージャスな衣装と美しさで魅了するだけでなく、痛快な啖呵で嫌な客をやり込める気風の良さを持つ。 |
意休 |
白髪で白ひげをたくわえたお大尽(権力者)。通称・ひげの意休。揚巻に熱をあげて吉原へ通い詰めるが相手にされない。派手な衣装は権力の象徴。正体は平家の残党で盗賊の平内左衛門で、源氏打倒のために友切丸を盗んだ張本人。 |
くゎんぺら門兵衛 |
意休の子分。女郎たちに威張り散らす嫌な客だが、助六にうどんをかけられたのを「切られた」と勘違いして右往左往する。 |
朝顔仙平 |
道化役。くゎんぺらの手下。顔も着物も朝顔になっているのは、初演当時に売られていた「朝顔せんべい」を宣伝していたため。助六に喧嘩を売るが手もなくひねられる。 |
白酒売新兵衛 |
助六の兄・曾我十郎祐成。喧嘩ばかりしている弟を諌めに来るが、喧嘩の理由が友切丸を探すためと知ると、助六と一緒に喧嘩をふっかけるようになる。 |
通人・里暁 |
通人とは遊郭などの事情に通じている人のこと。助六に股くぐりをさせられるが、その時代の流行りの出来事やギャグ、助六の役者に関することなどを、おもしろおかしく話して観客を笑わせる役。 |
曾我満江 |
助六・新兵衛兄弟の母親。助六のことを心配して揚巻に相談の手紙を出し、侍姿に化けて助六の前に現れる。喧嘩をやめさせるために紙衣を助六に与える。 |
歌舞伎が由来?助六寿司の名前
歌舞伎を知らない人には、「助六」というとお寿司のことだと思うでしょうが、あの助六寿司の名前は、歌舞伎の「助六」から付けられたものなのです。
助六寿司の「いなり寿司」は油揚げの「揚」で、「巻寿司」の「巻」と合わせて助六の恋人「揚巻」となることから、江戸っ子の洒落で「助六寿司」と呼ぶそうです。
また別の説では、鉢巻を巻いている助六が「巻寿司」、揚巻を「いなり寿司」に例えて、二人が添い遂げる様子を寿司で表現したからとも言われています。
助六曲輪初花桜ってあらすじはちがうの?
平成30年(2018年)に歌舞伎座で「助六曲輪初花桜」という演目が上演されていますが、内容は「助六由縁江戸桜」とほぼ同じです。なぜ、本外題(タイトル)が違うのでしょうか?
なぜかと言うと、「助六由縁江戸桜」を他の家が演じるときは、本外題が変わることになっているからです。これは助六をお家芸の歌舞伎十八番の一つとしている、市川團十郎家への配慮と見られます。
しかし、他の歌舞伎十八番の演目では、「勧進帳」はそのまま演じられており、「暫」では登場人物の名前が変わるだけで本外題は同じです。「助六」だけが特別に扱われているようですね。
ちなみに、「助六曲輪初花桜」で演じるのは、片岡仁左衛門家のときで、尾上菊五郎家が演じるときは「助六曲輪菊」、松本幸四郎家が演じるときは「助六曲輪江戸櫻」となります。
また助六由縁江戸桜に着想を得て、少し配役や内容を変えて作られた黒手組曲輪達引という作品もあります。
内容は同じでも、それぞれの家の芸風の違いを楽しんで見るのもいいかもしれませんね。
歌舞伎の「助六」上演情報
歌舞伎十八番の中でも人気の高い「助六由縁江戸桜」の上演情報を紹介します。
2023年12月 京都南座
2023年12月の京都南座「吉例顔見世興行」は十三代目市川團十郎白猿の襲名披露公演となり、「助六由縁江戸桜」も上演されます。
歌舞伎界の宗家である歴代の市川團十郎については、以下のページをご覧ください。
歌舞伎DVD「助六由縁江戸桜」
歌舞伎の劇場に「助六由縁江戸桜」を見に行きたいけど、家が遠くてなかなか行けない人や、タイミングが合わなかったりする人は、DVDがおすすめです。
下記のDVDは、平成十五年(2003年)に歌舞伎座で収録されたもので、今は亡き十二代目市川團十郎が助六、尾上菊五郎が新兵衛、中村雀右衛門が揚巻、市川左團次が意休を演じています。
もう見られない十二代目團十郎と菊五郎のコンビや、通人・里暁の当時の流行りをふんだんに盛り込んだトークも見どころです。
助六夢通りのSUKE6DINERで粋なブランチを楽しもう!
芝居町として有名な浅草には、隅田川沿いに助六の名前をとった「助六夢通り」があり、そこには自家製の天然酵母パンが食べられる粋な食堂「SUKE6DINER(すけろくだいなー)」があります。
芝居見物のついでに、東京スカイツリーを間近に望む隅田公園を散策しながら、SUKE6DINERでちょっと一息ついてみてはいかがでしょうか?
まとめ
歌舞伎の「助六由縁江戸桜」は、魅力的な登場人物たちが、花の吉原で繰り広げる大騒動を描いた、江戸っ子が愛してやまない祝祭劇です。
華やかな江戸の文化を現代に伝えてくれる貴重な演目であり、現代の私達が見ても楽しめるエンターテインメント作品として、助六寿司の名前の由来になるなど、今も大変な人気があります。
市川團十郎家の歌舞伎十八番の中でも特別で、上演時はご贔屓の魚河岸や吉原に挨拶に行くという風習や、他家が演じる時はタイトルが変わるなど、他の演目にはない特徴があります。
令和二年5月の市川團十郎白猿襲名披露公演は延期されていますが、助六をDVDで楽しんだり、助六から名前をとった食堂SUKE6DINERに行ったりしながら、今まで見たことない人も見たことある人も、ぜひとも江戸っ子のお祭り気分を味わえる日を楽しみに待ってくださいね。